平成19年5月17日(木)都内,星陵会館において開催されました第17回ダム工学会通常総会の終了後、同会場において、第17回ダム工学会特別講演会が開催され、多数の参加者を得てご好評のうちに終了しました。
今回の特別講演会は、ダム工学会の21世紀ダムビジョン懇談会について入江洋樹ダム工学会副会長にご報告を頂くとともに、財団法人ダム技術センター顧問
松本徳久氏を講師としてお招きし、『海外における既設ダムの補強』と題して、既設ダムの補強を行う場合の問題点や課題に向けての取り組みについて、ご講演頂きました。
T.21世紀ダムビジョン懇談会報告
21世紀ダムビジョン懇談会では、「21世紀のダムビジョン 〜ダムが語る1000年物語〜」として、@ダムの果たしてきた役割、A現状でのダムの抱える課題、B世界の水問題についての分析結果を踏まえ、ダムに求められる今後のニーズと方向性を明らかにし、21世紀に向けてのダムビジョンについて提言の取りまとめが行われたことの報告がなされました。
入江洋樹 ダム工学会副会長による報告
人々の安全と安心の確保のためダムが果たすべき役割は、世界的な視点を持って変化する時代のニーズや自然・社会環境への対応を図りつつ、その機能を確実に実践することが求められ、ダムを長期にわたって効果的に活用するための方策を考え、1000年規模の視野に立ったダムの必要性や効果の評価を行うことが重要であることが指摘されています。そのため、21世紀のダムが取り組むべきものとして、@持続的な開発(現状において治水・利水上必要、地球温暖化への対応、水の輸出)、A既存ダムの有効活用(ニーズの変化や気候変動に対応し、ダム群の機能の最適化)Bダムの1000年活用(費用対効果等の経済評価方法の確立、物質循環の連続性や長期効用化の技術開発)が提言されました。
ダム技術者としては、@アカウンタビリティの向上等の積極的な情報発信、A技術の向上と継承、B技術の世界展開等について、積極的な取り組みが必要であるとの提言がありました。
※とりまとめ提言及び本報告で使用したパワーポイントにつきましては、会員専用ページに掲載しております。
U.海外における既設ダムの補強
我が国では、地震に対する安全度向上のため、山口貯水池において上下流面に腹づけした山口貯水池の補強事例があり、諸外国ではダムの安全度を高めるためヨーロッパ、韓国、アメリカ等で既設ダムの補強が実施されています。
講演では、主にアメリカでのダム視察結果を踏まえて、事例を紹介して頂きながら、ダムの補強についてご講演頂きました。
松本徳久 財団法人ダム技術センター顧問による講演
アメリカでのダムの補強は、ティートンダムの決壊が契機となり、1976年から開始され、1990年代に最盛期となっている。
補強は、地震等に対する技術水準の変化や水文資料の整備による洪水計画の見直しが、主な理由となっており、各ダムの補強の必要性については、基準で判断するのではなく、堤体の挙動と下流のリスクで判断、優先順位を付けて補強が実施されている。アメリカにおける地震に対する既設ダムの評価では、水締め工法によるフィルダムが最も危険であり、次にアーチダムの順となっており、順次補強が実施されている等が紹介されました。
ダムの補強の事例として、2004年までに約300のダムで実施されたアンカーによる補強のうち、ニューヨーク州に1920年に築堤されたアースダムのGilboaダムが紹介されました。
Gilboaダムの石積構造による洪水吐きは劣化が激しく、現状での安全率は、既往最大洪水時Fs=1.1、PMF(可能最大洪水)時Fs=0.9と評価され、安全性向上のため、天端および下流面にPCアンカーを設置する補強がなされている。
アンカーによる補強を採用する場合、アメリカではアンカーの自由長部を全部グラウトする(開拓局、エネルギー庁)、自由長を残す(工兵隊、カリフォルニヤ州)両方の方法が採用されており、細部の構造と施工およびメンテナンス等が課題になると考えられます。
既設ダムの安全性の評価は、基準による判断では不合理となるため、@堤体の挙動、A新規ダムの設計基準と既設ダムの安全性基準の関係およびBダム下流の状況を考慮したリスクアナリシス等に配慮した新たな判断指標を構築する必要性があるとの提言がありました。
我が国においても、「大規模地震に対するダム耐震性能照査指針(案) 国土交通省河川局」に基づく既設ダムの耐震性能照査が実施されており、結果によっては補強が必要となることも考えられ、今回の特別講演は非常に有意義な講演会でした。
|