平成21年5月14日(木)都内,星陵会館において開催されました第19回ダム工学会通常総会の終了後、同会場において、第19回ダム工学会特別講演会が開催され、多数の参加者を得てご好評のうちに終了しました。
今回の特別講演会は、東京工業大学大学院 総合理工学研究科 人間環境システム専攻 教授 大町達夫氏を講師としてお招きし、『ダム耐震性能に係わる最近の話題』と題して、大規模地震によるダムの多数の被災状況のご説明を頂き、被災からの耐震性能を検討するにあたっての知見について、ご講演頂きました。
講師:大町 達夫氏
講 演 風 景
【講演内容】
1. 国内で発生した大規模地震での知見
2004年に発生した新潟県中越地震による堤頂に亀裂と段差が生じた浅河原ダム、洪水吐きが隆起した山本調整池、ダム天端が沈下した新山本ダム、2008年に発生した岩手宮城内陸地震による山体崩壊および堤体沈下が生じた荒砥沢ダム、最大加速度1G以上を観測した石淵ダム、施工中の胆沢ダム等の被災状況、復旧状況について、被災状況から得られた以下の知見のご説明を頂きました。
@ 荒砥沢ダム(H=74.4m)の上流域で自然斜面(山体)の大規模崩壊が発生したが、貯水池への土砂流入の影響が軽度で済んだのは幸運であった。一方、ダムで観測された本震の加速度記録は、ダムの非線形応答特性を顕著に示しており、強震動に対するダムの実挙動を評価する上で貴重な資料が得られた。
A 石淵ダム(CFRD,H=53m)でも1Gを越える最大加速度をもつ地震動が観測されたが、ダムの貯水機能を喪失するような深刻な地震被害はなかった。ただし、これらの地震記録には、地震計の移動・傾斜や局所的な地形・地質の影響が含まれていると思われるので、使用にあたっては注意すべきである。
B 胆沢ダム(H=132m)の土質盛立面には多数の亀裂と沈下が発生した。これらの発生メカニズムは未解決であり、その解明はダムの耐震性能評価の上で重要と思われるが、地震観測が実施されていなかったのは残念である。
2. 中国で発生した大規模地震での知見
2008年に発生した中国四川省地震での表面遮水壁の水平施工継目がずれた等の被害が生じたZipingpuダム(CFRD、H=156m)、発電所が被災したShapaiダム(RCCアーチ、H-130m)等の被災状況、復旧状況について、被災状況から得られた以下の知見のご説明を頂きました。
@ 近代的設計・施工によるダムは強大な地震にも十分耐える。
A 大規模な断層全体の破壊過程を考慮した地震動を検討すべきである。
B ケートやバルブ、制御装置など放流施設の地震後機能は極めて重要である。
C ダム、発電所、導水路等は、地すべりや落石の影響を考え設計すべきである。
D 貯水池への地すべりには特別の注意が必要である。
E ダムと貯水池の計測は地震後も損傷なく、作動が保証されなければならない。
F 地すべりダムに対して安全に対処できたのは、初期の調査と早い決断、重機の調達の成果である。
3. 北米ダムの調査から
2008年9月にTaum Saukダム(CFRD、H=25m)等の既設ダムの補強が行われたダムの調査を実施されています。
特に耐震補強について視察された結果から得られた知見のご説明を頂きました。
@ 時代とともに地震動の実測データが増加し、ダムで設計上考慮すべき地震動は大きくなっている。米国、カナダともこれに対して、既設ダムの補強を行っている。
A 補強は、ダムの安定と下流のリスクの双方を考慮して、優先順位を付け実施されている。
B 地震だけでなく、洪水、貯水の浸透のリスクを考慮し、総合的に補強している。
C 補強に必要な予算措置は、組織によって異なる。
D 補強の手法は、現地条件に適した方法をとっている。
「大規模地震に対するダム耐震性能照査指針(案)」が通達され、現在試行中であり、耐震性能の照査に用いる地震動の取扱いや地すべり・落石等の影響を設計に反映する等、ダム技術者が設計に携わる上でのご提案があり、今後の耐震検討に役立つ非常に有意義な講演会でした。
おわりに、大町先生に深く感謝致します。
|