平成22年5月13日(木)都内,星陵会館において開催されました第20回ダム工学会通常総会の終了後、同会場において、第20回ダム工学会特別講演会が開催され、多数の参加者を得てご好評のうちに終了しました。
今回の特別講演会は、平成21年度ダム工学会長の阪田 憲次氏を講師としてお招きし、『ダムの効用』と題して、社会基盤としての重要性について、ご講演頂きました。
講師:阪田 憲次氏
講 演 風 景
【講演内容】
1.フローとストック
「コンクリートから人へ」のキャッチフレーズの基に、公共事業へのバッシングが盛んな状況がある。その中で、@公共事業費の議論はあるが社会基盤整備についての議論がない、Aフローの議論はあるがストックの議論がないなど、経済財政政策を中心とした議論だけで、安全・安心な社会の構築・防災・経済活動を支える視点が欠落しているとの思いを述べられ、ダムなどの社会基盤がはたす「国民の安全で豊かな生活を保証し、社会の経済活動を円滑に進める」ために必要なダムなどの社会基盤の整備の役割、効用についてのご意見を頂きました。
2.ダム連携による洪水回避
ダムの効用の例として、大災害となった伊勢湾台風(昭和34年台風15号)と同規模で経路が同じであった平成21年台風18号に対する3ダム連携による洪水被害の回避を、代表例として社会基盤としての「ダムの効用」のご紹介を頂きました。
洪水調節のダム操作は、操作規則・細則に基づき実施されている。今回の名張上流ダム群(青蓮寺ダム、比奈知ダム、室生ダム)の操作では、「所長は、統管所長から洪水調節についての指示があったときは、前項の規定にかかわらず当該指示に従って洪水調節を行わなければならない。」の規則を活用し、各ダム流域の同一時刻における降雨量の違いに着目して洪水被害の発生を防止した。
今回の3ダム統合操作のポイントは以下のとおりであり、名張川上流3ダムの既存ストックを最大限に活用したことが挙げられる。
3.ダムの再開発
地球温暖化(異常気象と災害)や社会基盤の老朽化に対応するためには、既存ストックの長寿命化・長期効用を図るための再開発が重要であるとのご意見を頂きました。
治水・利水を目的として約2,700のダムが整備されてきている。近年、ダムの整備がある程度の水準に達したこと、優良なダムサイトの適地が減少したこと、自然環境保全の重要性の意識の高まり等の理由により、新規のダム建設が難しくなってきている。そのため、既開発のダムの有効活用や長期効用を図る再開発が必要とされてきている。
再開発としては、
有効活用の観点からは:@貯水容量の拡大(嵩上げ)
A貯水容量の有効活用
(施設改良、ダム群連携事業)
B放流能力の向上
長期効用の観点からは:@平衡堆砂(貯砂ダム、排砂ゲート等)
A超過洪水対策(越流ゲートの設置等)
B耐久性向上(診断・評価システムの確立等)
機能回復の観点からは:@貯水容量の回復(堆砂除去)
A上下流の連続性の回復(魚道の設置等)
B貯水池および周辺環境の回復
(ビオトープ整備、選択取水設備の設置等)
があり、社会基盤の整備を図っていく必要がある。
最後に、「水は、人間の生存にとって無くてはならないものであり、その水をコントロールするのがダムで、古くより重要な社会資基盤の一つとして利用されてきた。この役割は今後も変わることはない。地球温暖化の進行を考えると、国民のいのちと生活を守る社会基盤としての役割はますます重要になる。ダムは、1,000年以上にわたり、有効に機能する社会基盤である。そういった視点から、ダムの有効活用と長期効用を図るべきである。決して、ダムは税金の無駄遣いではない。」との講演を締めくくるお言葉は、われわれダムに携わるものにとって力強く、自信を持って仕事を行うことができるものでした。
おわりに、阪田先生に深く感謝致します。
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