平成23年5月12日(木)都内,星陵会館において開催されました第21回ダム工学会通常総会の終了後、同会場において、第21回ダム工学会特別講演会が開催され、多数の参加者を得てご好評のうちに終了しました。
今回の特別講演会は、平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に関連して、以下の2題のご講演頂きました。
1.『東北地方太平洋沖地震とその後の地震活動』
講 師 東京大学地震研究所 教授 纐纈 一起
2.『東北地方太平洋沖地震 災害調査報告』
講 師 財団法人ダム技術センター 顧問 松本 徳久
独立行政法人土木研究所 水工研究グループ
水工構造物チーム上席研究員 山口 嘉一
講 演 風 景
ご講演の主な内容は以下のとおりです。
1. 『東北地方太平洋沖地震とその後の地震活動』
ご講演は、@今回の地震の特徴、A長期的な今後の地震活動について頂きました。
1) 東北地方太平洋沖地震の特徴
今回発生した地震は、@マグニチュード9.0の非常に巨大な海溝型地震であったこと、A甚大な津波の被害が発生しているが、それに比べ揺れの被害は限定的であったこと、B本震後に大きな余震と大きな誘発地震の発生等があり活発な地震活動が続いていることの3点が特徴として挙げられる。
釜石沖海底ケーブルシステムによる津波は、海溝寄りの海底水圧計で14時46分に地震波(P波)が到達し、その時から徐々に海面が上昇して、約5mを記録した。約30q陸寄りに設置されている海底水圧計では、海溝寄りの観測から約4分遅れて同様の海面上昇が記録されていることが紹介された。この津波の状況は、宮古市役所提供のビデオ映像により紹介され、津波来襲時の緊迫感や甚大な被災状況を改めて認識することが出来ました。
今回の地震は、@過去の地震資料、活断層調査からの推定規模を上回っていること、A地震調査研究推進本部の地震発生予測では、宮城県沖地震、三陸沖地震が同時に発生したとしてもマグニチュード8.3程度の規模と考えられていたこと等から、震源の範囲と規模が「想定外」と判断されている。
3月11日以降に余震と誘発地震が頻繁に発生している。余震(狭義)は@大規模地震が起きた後に発生するもの、A震源域の内部あるいは近傍に発生するもの、B本震のマグニチュードより1くらい小さいものを最大余震とし、小さなものほど多く発生するもの、C時間の経過とともに発生頻度は徐々に減少するものを指している。誘発地震は@経験的に巨大地震が起きた時に発生すること、A遠隔地であっても、本震から影響を受ける範囲なら発生しうること、B内陸部では一部地域を除いてはマグニチュード7級が上限であると考えられていることが特徴である。これにより、余震と誘発地震の違いついて、改めて認識を新たにすることが出来ました。
この余震・誘発地震はいつまで続くのかについては、予測が難しく過去の地震履歴を参考にして考える必要があるが、今回は今後1年間に大きな余震がある可能性があり、十分な注意が必要であると思われる。
2) 長期的な今後の地震活動
長期的な地震活動として、@首都直下地震とA東海・東南海・南海地震についてご紹介を頂いた。
首都直下地震は、1703年に元禄関東地震、1923年に大正関東地震が発生しており約200年の周期で発生すると予想されている。現在は、その周期の後半の時期にあたりマグニチュード7クラスの地震の可能性があるので、十分注意していく必要がある。また、東海・東南海・南海地震は、マグニチュード8.0〜8.4クラスの地震が60〜87%の確率で発生するとの評価されており、これらの地震に対する備えを行っておくことも重要である。
最後に「科学と社会のあり方」と題して、『今回の地震を顧みて、「目安」として出した数値の上に成り立つ社会であるが、「見通し」の出せる科学への過剰な期待が存在しており、その最たる例が「原子力発電所の事故」に繋がっていると思われる。そのため、研究者としては、「わからないこと」をこそ強調して提示することが重要な役割と考えている。』と強調して述べられ、講演を締めくくられました。
我々技術者は、科学の見通しの上に立って設定されている地震荷重等について、常にその根拠となる科学に目を向ける必要があると痛感しました。
2. 東北地方太平洋沖地震 災害調査報告
ダム工学会では、入江ダム工学会長、松本徳久氏他4名による災害現地調査(岩手県、宮城県、福島県、栃木県の補助ダム)を実施しました。土木研究所では、直轄ダムを中心に調査を実施しています。
これらの調査結果について、ご報告を頂きました。
地震の特徴としては、@地震規模は極めて大きいが、震源断層からの距離が比較的遠いダムが多く、観測された最大加速度は極端に大きなものではなかったこと、A最大加速度は基礎部で200〜300gal程度であり、地表の最大加速度に対して半分以下、地下の約3割増しの最大加速度と考えられること、Bダムの固有周期0.1〜1秒に対して、今回の地震はこの周期帯が卓越しており、ダムにとって厳しい状況にあったことが挙げられる。
1) ダム工学会調査団報告
調査は、鷹生ダム、南川ダム、化女沼ダム等のダムについて実施された。その結果、ダムの天端に設置されているゲート巻上機の設置ボルト破損、アースフィルダム天端にクラックの発生およびアスファルト遮水壁にクラックの発生等が認められたが、ダムの安全性に影響を与えるものではなかった。ただし、河川区域外に建設された高さ18.5mのアースダムの藤沼ダムが決壊したことが報告されました。
ダム工学会への期待として、@「大規模地震に対するダム耐震性能照査指針」が大きな役割を果たしているが、「最大級の地震動(マグニチュード9と3分間継続の揺れ)」が発生したことから、もはや「想定外」の言葉は使えず、大規模地震への対応が必要である。A400以上のダムが安全であったが、1基のため池が破壊したことから、ダム耐震性能照査を小さなダム、施工時期の古いダムにも適用して行くことが必要であると締めくくられた。
2) 土木研究所報告
調査は摺上川ダム、石淵ダム、田瀬ダム、御所ダムについて実施された。その結果、@漏水量の増加が認められたAフィルダムでは天端にクラック等の現象が認められたが、いずれも軽微なもので、ダムの安全性に直ちに影響を及ぼすような被害ではなかったことが報告されました。
今回の地震においてダムで観測・報告された最大加速度(暫定値)は過去の大地震と比べても大きな値でなかったが、今後、国土交通省と連携しつつ主要な地震波形の収集及び詳細な分析を行って行くことを、最後に報告されました。
今回の想定外の地震では、ダムの安全性に直ちに影響を与える被害はなく、ダムに携わる技術者にとって、従来培ってきた技術に自信を持つことができたと思います。しかし、「想定外」としての言い訳は通用せず、「大規模地震に対するダム耐震性能照査指針」等の見直しを行い、安全なダムとしていかなければならないと考えています。
おわりに、纐纈教授、松本顧問、山口上席研究員の講師の方々に深く感謝致します。
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