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ダム工学会 第22回 特別講演会の報告

                      ダム工学会学術研究発表会小委員会

  平成24年5月17日(木)都内,星陵会館において開催されました第22回ダム工学会通常総会の終了後、同会場において、第22回ダム工学会特別講演会が開催され、多数の参加者を得てご好評のうちに終了しました。
  今回の特別講演会は、平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震により決壊した藤沼湖について、ご講演頂きました。

『東北地方太平洋沖地震による藤沼湖の決壊原因調査について』
     講 師 社団法人地域環境資源センター   理事長 田中 忠次

 

講 演 風 景 

 


ご講演の主な内容は以下のとおりです。

 藤沼湖の決壊原因調査は、田中先生を委員長とした「福島県農業用ダム・ため池耐震性検証委員会」において実施されました。その結果報についてのご講演でした。
 ご講演の主な内容は以下のとおりです。

(1)決壊前の堤体構造と安全性
 藤沼湖は、高さ18.5m、堤頂長133.2mのアースダム型式の藤沼ダムで堰き止められた湖で、昭和12年4月に着工し、太平洋戦争による中断期間を経て昭和24年10月に完成したダムである。そのため、当時の設計資料が乏しく、浸潤線観測記録、ボーリング調査、聞き取り調査等の緻密な調査を実施して、堤体形状の復元、安定検討により、決壊前の安全性評価を行っている。
 その概要を以下に示します。

○ 藤沼ダムの堤体は3層に区分され、中部盛土と下部盛土では20〜30cm間隔で層状にまき出した明瞭な構造が認められた。上部盛土は全体に均質な砂分に富む材料からなり、明瞭なまき出しの痕跡に乏しい。

○ 藤沼ダムは当時の一般的な施工方法・技術レベルで施工されたものであり当時の技術水準に即して築造されたものであると考えられる。しかし、上部盛土は工事中断後、戦争直後の施工条件が悪い時期に施工された盛土であると考えられる。


○ 藤沼ダムの改修では、当時の一般的な工法から選定した漏水対策が施工され、その効果は施工中〜施工後の漏水量観測及び浸潤線観測により検証されており、止水効果が発揮されていたものと判断している。

○ 藤沼ダムの管理者による日常点検等で、堤体に異常は認められておらず、日常点検等の範囲では堤体が安定な状態であったものと判断している。

○ 現行基準により被災前の堤体安定性について照査した結果、常時満水位時に地震力を加えた検討では、堤体上流側でのすべり安全率Fsが1.15と1.2を下回るものの、堤体の安定性を確保するために、特別な対策を講じなければならない状態ではなかったと判断している。

(2)決壊原因

1)堤体の決壊メカニズム
堤体の決壊メカニズムは、大別して7段階の堤体すべりが発生し、初期に発生した貯水池側へのすべりは、その後の堤体越流・浸食を誘発し、堤体の決壊を引き起こした。上部盛土で発生したすべりは、貯水池側に残された構造物から示唆されるものであり、すべり移動層等は流出して全て失われている。 しかし、土質試験結果により得られた解析用物性値を基に、繰り返し荷重による強度低下を考慮した地震時変位量解析(修正ニューマーク法)を行った結果、この堤体すべりが存在することが解った。

2)決壊原因 藤沼ダムの決壊原因は、
@ 東北地方太平洋沖地震の影響は、地震応答解析によると堤頂部の地震動が最大442galに達し、かつ「50 gal以上の地震動が100秒間も継続した」過去に経験したことのない地震動であったこと。

A 堤体は全体的に締固め度が近代的な施工方法と比較すると小さく、地震時に非排水条件になると堤体盛土の強度は小さい。特に、砂分に富む材料からなる上部盛土は、水で飽和されている部分があり、今回のような地震動をうけるとさらに強度低下を示すことが判明したこと。

から、上部盛土と中部盛土の状態にあり、その誘因は強い地震動とこの強い地震動が長時間継続したことであると考えている。

 藤沼湖のある福島県では、農業用ダム・ため池の2割程度が何らかの被害を受けている。今後、これらのため池等の耐震性能調査が必要と考えている。 しかし、全て対象とすることが現実的に難しいため、今回得られた知見から判明し、材料調査を行い、細粒分の少ないダムを対象に耐震性能調査を実施するが重要であるとのご意見を頂き、講演会を終了しました。


 おわりに、講師を快く引き受けて頂きました田中理事長に深く感謝致します。


【 参考:藤沼ダム概要 】
○名称用途:アースダム  農業用
○水系:一級河川 阿武隈川 簀ノ子川
○所在地:福島県須賀川市江花字田向 (本堤:須賀川市滝字向田)
○所有者:須賀川市
○管理者:江花川沿岸土地改良区
○管理者所在地:福島県須賀川市長沼字金町85(須賀川市長沼支所内)
○着工年月日:昭和12年4月
○竣工年月日:昭和24年10月
○貯水面積:20.8ha(現在 18.0ha)
○貯水量:総貯水量 150万トン  有効貯水量 148万トン
○灌漑面積:837ha
○貯水位:414.900m(満水位)  415.478m(洪水位)
○堤体:
 第1号(藤沼ダム:本堤) 堤高 18.5m 堤長 133.2m 堤体積 99千m3
 第2号(副堤)        堤高 10.5m 堤長  72.5m
         

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