平成25年5月16日(木)都内,星陵会館において開催された第23回ダム工学会通常総会の終了後、同会場において、第23回ダム工学会特別講演会が開催され、多数の参加者を得て好評のうちに終了しました。
今回の特別講演会は、盛土の締固め特性を考慮した合理的な設計、耐震補強や地震で崩壊した古い土構造物の強化復旧工法等について、ご講演頂きました。
『盛土構造物の合理的耐震化のために−締固め、設計、構造物形式−』
講 師 東京理科大学土木工学科 嘱託教授
東京大学名誉教授 龍岡 文夫
講 演 風 景
従来の慣用設計では、例えば設計せん断応力設計せん断応力(τw)d を水平震度kh= 0.15(レベルI設計地震動)とし、設計せん断強度(τf)dを標準プロクター1Ecの締固め度Dc= 90 %での排水せん断強度とした上で、安全性の評価を円弧すべり安定解析法(極限つり合い法)によって行われています。しかし、この方法ではレベルII設計地震動に対応することは難しく、対応策として、@盛土の締固め管理の合理化、Aより現実的な設計せん断強度とそれを反映した解析法を採用する必要があり、これらについてご講演を頂くとともに、耐震補強、地震で崩壊した古い土構造物の強化復旧に使用されている補強土構造物など新しい構造形式についてもご講演を頂きました。
ご講演の主な内容は以下のとおりです。
(1)締固め管理の合理化は可能か?
最適含水比は締固めエネルギーCELに依存する上に、現場でのCELは通常不明である。そのため、最適含水比に基づく締固め管理には様々な問題がある。また、CELが標準プロクター1Ecの場合の締固め度Dc
= 90 %は緩い状態であり、また含水比=[1Ecのwopt+数%]では近代的機械化施工で過転圧の危険がある。一方、より低い含水比で現場CELでの最適含水比状態を実現すれば、十分高い乾燥密度、十分小さな透水係数が実現できる。
すなわち、最大乾燥密度を示す飽和度である最適飽和度(Sr)optはCELに独立であり、ρd〜Sr曲線の形はCELに独立で土質にもかなり独立である。また、剛性・強度・透水係数はCELに独立な「ρd
と Srの関数」である。したがって、締固め曲線をρd〜Sr曲線で表現する方が合理的である。
上記に基づいて盛土施工の(ρd & Sr)管理法を提案する。つまり、(Sr)opt状態を施工目標として、ρdが管理値以上であることを確認する。必要によって剛性・強度・透水係数を(ρd & Sr)の測定値から推定して、設計での設定値を満足しているのかを確認する。
(2)修正Newmark法によるすべり変位解析
良く締固めた場合、それを反映した設計強度を設定する必要がある。そのためには、締固めの向上とともに増加するピーク強度φpeakと従来の標準的設計強度であるφresの両方を用いる必要がある。また、ひずみ軟化はせん断層の発達に伴って生じる現象であり、せん断層の厚さは粒径にほぼ比例することから粒径が大きくなるとひずみ軟化の速度が遅くなる。一方、締固めが悪い盛土が飽和状態の場合は、地震時に非排水繰返し載荷によって強度低下する。
盛土の耐震性の判定にはNewmark法による残留すべり変位解析が有効であるが、締固めが盛土の安定性に与える影響は非常に大きいことから、以下の要因を考慮するとより実際的になる。
1)締固めを反映した設計強度の設定(φpeakとφres)
2)せん断層の発達に伴うひずみ軟化とそれに伴う粒径効果
3)飽和盛土の非排水強度の、地震中の繰返し非排水載荷による継続的な低下。
(3)補強土構造物
新幹線を含む鉄道構造物では、補強土構造物が耐震設計、耐震補強、地震で崩壊した古い土構造物の強化復旧において標準工法となっている。また、補強土構造物は洪水、越流、津波に備えた新形式盛土としても有効である。
すなわち、常時荷重、地震荷重、洪水・豪雨・津波に対して安定な重要本設土構造物には、盛土の締固めも重要であるが、補強土工法による構造一体化が有効である。すなわち、1)剛な一体壁面工を段階施工するジオシンセティック補強土(GRS)擁壁では、盛土がジオシンセティック補強によって一体化されていて、盛土と壁面工も一体化されており、2)GRS一体橋梁では、橋桁、壁面工(竪壁)、補強盛土が構造的に一体化されていて、3)フィルダムと防潮堤では、盛土のジオシンセティック補強による一体化と表面工と盛土補強材の一体化によって安定で靭性が高い構造が実現できる。
(4)まとめ
盛土の耐震性確保の課題に対応するためには、1)十分に高い安定性、2)ライフサイクルコストから見た経済性、3)不慮の事態に備えた適度の余裕という目標設定を行い、目標達成には以下の方策が有効である。
1) 設計での想定を超えた十分な締固めによる余裕の創出。そのために、出来るだけ良い盛土材料を用いて、(ρd & Sr)管理法で高い締固めエネルギーによって(Sr)opt状態の実現を目指す。
2) 締固めの効果を評価できる設計せん断強度と解析手法(φpeak/φres, 非排水繰返し載荷を考慮したNewmark法等) を採用する。また、見掛けの粘着力ゼロとし(地震時も)、適度に安全側の設計せん断強度を用いるなどして、適度な余裕を創出する。
3) 必要により、補強土構造物/適切な排水設備等、合理的な構造形式を採用する。
盛土構造物はフィルダムから宅地造成まで広く採用されており、盛土の締固め管理の合理化や耐震性に関する今回の講演は、我々、技術者にとって大いに役立つものであったと考えています。
おわりに、講師を快く引き受けて頂きました龍岡先生に深く感謝致します。
|