平成26年5月15日(木)都内,星陵会館において開催された第24回ダム工学会通常総会の終了後、同会場において、第24回ダム工学会特別講演会が開催され、多数の参加者を得て好評のうちに終了しました。
今回の特別講演会は、気候の変化と水循環変動について、河川・水資源の適応策の観点からご講演頂きました。
『気候の変化と水循環変動
-河川・水資源管理の適応策の観点から- 』
講 師 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻
教 授 小池 俊雄
講 演 風 景
近年地球的規模で頻発する異常気象は日本国内においても、夏の猛暑や記録的な降雨による水害、あるいは少雨による干ばつなど、人々の生活にも大きな影響を与えています。
これら異常気象を引き起こす大きな要因は気候の変化にありますが、気候の変化の予測は、多くの要因を考慮する必要があり計算パラメータが多く非常に時間を要し、さらにモデル化が困難な要素も含むため、非常にラフで不確実なものとならざるを得ません。したがって、レジリエンス(困難で驚異的な状況にもかかわらず、うまく適応する能力)を重視した社会作りが重要で、これには、@確かな情報の共有、A対応策のオプションと戦略的対応、B情報に基づくガバナンスの確立、Cネットワーキングなどの取り組みが必要、かつ効果的であることを事例を挙げて説明、ご講演いただきました。
ご講演の主な内容は以下のとおりです。
【1】気候が変化すると異常気象が起こるのか
(1)地球エネルギー収支における水循環の重要性
太陽からの輻射により地表に供給されるエネルギーのうち一部が潜熱となり、地表の陸域および海洋から水を蒸発させ、これが降水となって戻ってくる。このように地表の水循環はエネルギー収支を考える上で非常に重要な位置を占めている。
(2)気候の変化の原因は何か
世界の平均気温、平均海面水位、北半球積雪面積などの変化をみると、気候システムの温暖化には疑う余地がない。また20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇のほとんどは、人為起源の温室効果ガス濃度の増加によってもたらされた可能性が非常に高い。
(3)気候と水循環の変動
1951〜2003年の観測では、年間降水量に占める大雨の割合が増加しており、日本の統計を見ても最近10年(H10〜H19)と30年前(S53〜S62)を比較した場合、時間100mm以上の豪雨の発生頻度は約2倍に増加している。また渇水についても、S50年以降極端に降水量の少ない年が頻発している。
この原因としては、気温の上昇により飽和水蒸気量が増加し、広い範囲で雲ができにくくなることが影響している可能性が高い。
【2】どのように対応したらいいか
(1)気候の変化の予測の不確実性
気候の変化の予測を不確実なものとしている要因としては、@非常に長期間(100年単位)の計算が必要であること、A大気に加えて海洋の動きの同時計算が必要であり、粗い格子での計算によらざるを得ない、といった計算機能力の制約があり、これにより地形の効果や、雲が物理的に表現できないことから、特に雨の予測の確実性向上を困難なものとしている。
(2)レジリエントな社会作り
河川を取り巻く流域住民の川に対する評価の過程は多少の地域差があるものの、主要な過程には共通項が見られる。(例えば、河川敷の広場や周辺でのイベントに代表される親水性など。)また流域住民の多くは、治水に関して関心がありかつ関わりたいと思っているものの、行動に至っていないことが多く、治水に対する積極性は水害被災経験の多い地域ほど高く地域差がある。
このような状況を踏まえてレジリエントな社会作りのために、住民参加型協議(例として、自治会ごとの車座座談会、市単位のワークショップ)を推進し、情報の共有と意識の向上をはかることが必要である。
近年の経験したことのない大雨による被害、少雨による渇水の発生は、治水・利水施設の設計に携わるものとしては非常な関心事であり、今回このような講演を聴講できたことは大いに役立つものであったと考えています。
おわりに、講師を快く引き受けて頂きました小池先生に深く感謝致します。
※本講演会は土木学会CPDプログラムの認定を受けています。
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