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ダム工学会 第25回 特別講演会の報告

           ダム工学会学術研究発表会小委員会

 平成27年5月14(木)都内、星陵会館において開催された第25会ダム工学会通常総会の終了後、第25回ダム工学会特別講演会が開催され、多数の参加者を得て好評のうちに終了しました。
 今回の特別講演会は、ダム湖の水質に関して、異臭味障害の原因となる藍藻(アオコ)の植物生理学の観点から今後の対策の方向性についてご講演をいただきました
  
  『ダム工学のフロンティア(植物生理学を応用したアオコ対策)』
                講 師 埼玉大学大学院理工学研究科
                            教 授  浅枝 隆

 

講 演 風 景 

 

 ダム湖における富栄養化によるアオコの発生は景観障害のみならず、異臭味障害を発生させ、水道水への影響することもある。近年、曝気循環設備の運転により、その発生が抑制される事例も増えてきているが、根本的なメカニズムの解明が望まれてきている。アオコによる異臭味と関係する酵素に着目し、その遺伝子に着目すれば異臭味の発生する時期を予測できる。また、加圧室内実験から水圧加圧速度が速い方が増殖を低下する結果が得られるなどの植物生理学を応用して、今後の曝気循環設備の改良や対策に役立てることができることなどをわかりやすく説明、ご講演をいただきました。

 ご講演の主な内容は以下のとおりです。


アオコ対策については永く解決に取り組まれてきているが、最も解決に手こずっている課題である。さまざま異分野の手法の応用を考えて、植物生理学での成果は様々に応用できると思われるが、これまでは全く利用できていない。生理学とは生物の体の中で生じているしくみを調べて、その生物がどのような環境で生きていくかを知ることであり、生物に対する対策を考える際に最も重要な手法である。ところが、土木工学からも生理学は全く異次元の世界であり、生理学にとって土木工学は想像を超えた世界である。そのため、実際には、土木工学に応用できる技術が様々ありながらこれまで全く利用されてきていない。

 ダム湖において藍藻が繁殖して一面緑色となる状況も見られている。近辺では、皇居の外苑壕で見られてきたが26年から大雨時の雨水下水が入らないようになったので、アオコの発生は少なくなる可能性はある。それでも、オリンピック期間中にアオコが発生しないような対策は必要である。

近年、水道の異種味障害の発生は対象人口については減少しているものの、発生事業者数は増加している。水道水の異臭味、カビ臭は、原因は藍藻類がつくる2-メチルイソボルネオール(通称「2MIB」)とジェオスミンである。

2MIB、ジェオスミン共いろいろな種が様々な湖での発生が報告されているが、これまで、いつ、どこで発生するかは予測できない。

 ダム湖に発生する植物プランクトンのうち、緑藻類、鞭毛類、珪藻類は植物界に分類され、進化の過程では、後になってでてきた真核生物に分類されるものである。一方、藍藻は、原核生物であり、核がない原始的な生物であり歴史は古く、バクテリアに分類される。

さて、藍藻類の増殖予測のためには、発生しているときの状況の把握、今後発生が予想されるときの予想の両方を行う必要がある。そうした中、誰がやっても簡単にアオコの発生の程度を知る(可視化)する方法が検討されている。その方法は濾紙を入れたフィルタフォルダに定量の水を入れて、濾紙を撮影し8段階の色見本と照合する方法である。8段階区分とクロロフィルa、総細胞数、との相関はよい結果があり、この方法を用いることで簡単にアオコの程度を知ることができ、今後、有用な方法になり得る。

今後藍藻が増えるかどうかについては、藍藻の元気度による。藍藻の元気度を調べる方法については、光合成に用いられる光のエネルギー量を知ることが有用である。藍藻が光エネルギーを利用する際に、元気なときには多くの割合を利用するが、元気でない時には、多くの光を光合成に利用するのではなく、蛍光として放出している。ところが、DCMUという物質を藍藻類に加えると、今まで光合成に利用していた光まで蛍光として放出することになり、この蛍光の増分を計ることにより光合成に利用されている光の量を知ることができる。

Fm=DCMU添加後の蛍光強度、F0=DCMU添加前の蛍光強度、Fv:Fm−F0としてFv/Fmを指標として利用できる。津久井湖の観測例ではFv/Fmが増加して1ヶ月後に藍藻類が増加することがわかった。すなわち、藍藻類によるアオコ発生の約1ヶ月前に予測できる可能性が示された。

 渡良瀬貯水池では毎冬、干し上げを実施すると2MIBの発生が抑制される。このように、対策としての効果はみられるものの、干し上げるとなぜ2MIBがでないのかがわからなかった。これは、藍藻類がどのような時に2MIBをつくるのか、つくらないのか、つくろうとしているのかがわからなかったことによる。

 藍藻類は死滅期に2MIBを出し、死滅後も水の中に残留する、また、一方で気化もする。そのため、水中の2MIBの量は生きている細胞数とも一見無関係である。

藍藻類が出す量を単に水中の2MIB量を測定するのではなく、他の方法で調べる方法を開発することが重要である。そうした中、近年、藍藻が2MIBをつくる過程では、メチルトランスフェラーゼとシクラーゼの2つの酵素が必要なことがわかった。この2つの酵素の生産に必要な遺伝子、それぞれGPPMTとMIBSもわかっている。このことは、これらの遺伝子の発現量を測定すればよいと考えられる。

 実際に渡良瀬貯水池の干し上げを模擬した実験を行ってみると、渡良瀬貯水池では干し上げ日数を増やすと、2MIBの量も減少しているが、2つの酵素の発現量も減少する傾向が確認され、両者にはよい相関が見られた。すなわち、藍藻の細胞自身が2MIBをつくる能力があるかどうかをその時々の細胞の有する遺伝子で調べることで、その時々の2MIBの発生量を調べることが可能になる。

 これまで2MIBはフォルミディウムが産出するといわれてきたが、実際には、これまでフォルミディウムに分類されていたものも実は多くの種類の混合であることが分かってきている。その中のいくつかが2MIBをつくり、他は作らない。これらの種類を、顕微鏡観察で違いを判別できるのは日本でも数人である。

渡良瀬遊水池のデータでフォルミディムの細胞数と2MIBの濃度の経時変化を示すと、5月は両者の傾向が一致しているが7月以降は一致しておらず、7月以降はフォルミディウムの細胞数は多くなっていても臭いがでていない。一方で、酵素の発現量と2MIBの濃度の経時変化をみるときれいに一致している。

植物生理学を利用するとこの他にも様々なことがわかってくる。

紫外線の影響についても奇妙な特性がある。日焼け防止クリームの表示で、SPFは紫外線UV−Bの防止効果を、PA+++はUV−Aの防止効果を示す表示である。人間の場合、いずれの紫外線も有害である。しかし、藍藻の場合、UVAも加わっていた方が増殖が増すようである。こうしたことも藍藻にかかるストレスの度合い、色素量を測定することで明らかになった。

アオコ対策として通常行われるのは曝気循環である。曝気循環の効果は、曝気により下方の流れをつくりプランクトンを光合成がしにくい深いところに押し込め、光合成を行わせないことにあると考えられていた。ところが、実際には、深いところに押しやられたアオコは光がなくなるとともに高い水圧を受ける。こうした高圧の実験は実際規模ではできない。しかし、直径の小さいシリンダを用いれば可能である。そのため、水圧の影響をみるため、光を当ててシリンダの中に圧力をかける室内実験を行った。その結果、加圧すると光があたっている条件下でも、圧力が高くなると発生する細胞数が減少した。電子顕微鏡で見ると細胞内の気泡が収縮していること、細胞にかかるストレスが増加していること、色素が減少していることなども明らかになった。すなわち曝気の効果は、単に光の遮断だけではなく、プランクトンを水圧のかかる深部に押し込むことによりアオコ対策の効果を上げることができるのではないかと考えられる。

 ダム工学には様々な分野があるが、アオコの研究はいつもフロンティアであると思っている。

 ダム湖の富栄養化対策はある意味試行錯誤的に取り組まれてきました。良質な水を供給することは個々のダム管理者として大きな使命であり、また全国的に継続して取り組む課題であり、今回の講演を聴講できたことは大いに役立つものと考えています。

 終わりに、講師を快く引き受けて頂きわかりやすいパワーポイントの資料を準備して頂きました浅枝隆先生に深く感謝致します。


        


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