平成30 年5 月17 日(木)の午後,星陵会館(東京都千代田区)において,第28 回特別講演会が通常総会に引き続き開催されました。今回の講師は,この4
月に独立行政法人水資源機構ダム事業本部ダム事業部長に就任された日野氏にお願いしました。
日野氏の前職は,福岡県にある水資源機構朝倉総合事業所の所長として,工事最盛期の小石原川ダム建設事業を推進するとともに昭和53 年完成の寺内ダムの管理を含めて総指揮を執ってこられました。
その中で昨年7 月,皆さまの記憶にも新しい九州北部豪雨が発生し,この豪雨はまさに両ダムの流域に未曾有の雨をもたらしましたが,日野氏は所長として,両ダムを襲った豪雨災害に直面するなかで,的確なダム管理による被害軽減と地域支援,現場の早期復旧などに最前線で尽力されました。
講演では,それらの経緯やご苦労とともに,工事の進む小石原川ダムで取り組まれている先進的な技術についてもお話しいただきました。
『九州北部豪雨における寺内ダムの防災操作と対応、
ならびに小石原川ダムにおけるi-C&M の取り組み』
講 師 独立行政法人水資源機構
ダム事業本部ダム事業部長 日野 浩二
講 演 風 景
1. 寺内ダムにおける防災操作と復旧対応
−平成29 年7 月九州北部豪雨−
寺内ダムは,筑後川水系佐田川にある堤高83m の中央遮水壁型ロックフィルダムで,総貯水容量18,000 千m3,洪水調節容量7,000 千m3,利水容量9,000 千m3 を有する多目的ダムとして,昭和53 年から管理を行っている。
九州北部豪雨時の気象状況は,7 月5 日に梅雨前線がゆっくり南下して大気の状態が不安定になり,昼頃から夜遅くにかけて筑後地方から大分県西部に延びる線状降水帯が形成され猛烈な雨が降り続き,九州で初めて大雨特別警報が発令された。この豪雨により筑後川水系佐田川の寺内ダム流域においては7 月5 日7 時から6 日4 時までの流域平均累計雨量が426mm を記録した。時間雨量は5 日14 時から16 時まで2 時間連続で100mm/h を超える降雨を記録するなど,12 時から16 時までの4 時間で300mm を超える豪雨となった。
寺内ダムへの流入量のピークは,管理開始以降から既往最大となる888m3/s に達した。これは計画高水流量300m3/s の約3 倍の規模であった。このときの寺内ダムの防災操作は,渇水による貯水位低下もあり,治水容量700
万m3 に加え空き容量500 万m3 を利用して洪水調節を実施し,最大流入時(888m3/s)にその約99%(878m3/s)を貯留した。これにより貯留した量は約1,170
万m3 であった。その過程で異常洪水時防災操作(ただし書き操作)開始水位(EL.129.8m)を超えたが,降雨予測に基づく流出計算,降雨レーダや河川流況等による状況判断を的確に行い,異常洪水時防災操作を回避した。
寺内ダムの防災操作によって,ダムからの流量を最大約99%低減し,下流河川の水位低減を図った。仮に寺内ダムが整備されていなければ,佐田川において堤防高を大きく上回る洪水となり,氾濫により浸水面積約1,500ha,浸水世帯数約1,100
世帯の被害が発生していたと推定された。
洪水とともに推定約10,000m3 もの流木等が貯水池に流入した。仮にダムが整備されていなければ下流河川へ漂流し橋梁等に引っかかって佐田川が氾濫する可能性もあったと推定された。貯水池上流部に流入した流木(土砂埋没を除く)の除去は,湖面及び陸上部は10月14
日に完了,土砂に埋没した流木等の処理は平成30年3 月末に完了した。処理した流木はチップ化され,バイオマス発電の燃料として利用されている。
流木に加え,貯水池内に多量の土砂が堆積していることも確認された。平成29 年度の単年度での貯水池内の堆砂量は約1,200 千m3 にのぼり,洪水調節容量内の約40
千m3 を撤去した。
今回の防災操作中には主・副水位計の異常が発生した。5 日22 時直前に主水位計と副水位計の値に乖離を確認したため副水位計に切り替え,7 日15
時頃から今度は副水位計と量水標の値の間に乖離を確認したため量水標を正値として操作を継続した。さらに8 日に電波式の仮水位計を設置して切り替えた。主・副水位計の不具合の原因は,水位計井筒に貯留水を導くための連通管の取入口(集水桝)が堆砂により閉塞したものと推定された。副水位計はエアリフト方式で堆積した土砂を浚渫し7
月22 日に復旧を完了した。主水位計はサンドポンプを用いた堆積土砂の除去工事を行い,10月20 日に復旧を完了した。
平成29 年12 月17 日,ダムファンが集まり,2017年のダムの活躍を振り返りながらその功績を称える「ダムアワード2017」が開催され,寺内ダムが栄えあるダム大賞を受賞した。
2. 小石原川ダムにおけるi-Construction&Managementの取り組み
小石原川ダムは,筑後川水系小石原川に建設中の洪水調節,水道用水の供給,流水の正常な機能の維持を目的とする多目的ダムで,堤高139m の中央遮水壁型ロックフィルダムである。現在,本体工事の最盛期で,i-Construction
& Management に積極的に取り組んでいる。
小石原川ダム建設事業においては,設計,施工,管理と各種情報を一元管理しながら,全面的なCIM を展開している。設計段階では,地形,地質,各種構造物から成る3
次元CIM モデルを構築し,配置設計,細部設計,景観設計等に活用する。施工段階では,トレーサビリティのための各種施工情報を3 次元モデルに属性情報(品質管理結果,施工管理結果,出来形管理結果)として付与し,施工情報を蓄積・保管する。また基礎処理に関して,地質調査結果のほか基礎掘削面情報,基礎処理情報を入力・更新し,断層等弱層周辺の改良状況,水理地質構造の評価,超過確率図等の判定評価に用いる。管理段階では,3
次元モデルに埋設計器計測結果,堤体挙動等観測結果を属性情報として付与し、時系列ならびに3 次元分布評価を行う。また,機械電気通信設備等のリアルタイム監視,一元管理を行う。
施工においてはICT 施工に取り組んでいる。UAV 測量等による3 次元データを管理し,九州北部豪雨時には事業地内の被災状況をこれにより把握した。GNSS測量により土岩判定した箇所を3
次元で確認して測量作業の省力化,土岩数量の算定の迅速化や,CIM の3次元図面による施工前照査を行っている。マシンガイダンス(MG)機械による施工では、基礎掘削においてMG
機械(バックホウおよびブレーカ)を使用し丁張り作業の省力化,安全性の向上,個人差の解消を図っている。GNSS 搭載ブルドーザやバックホウを活用し,薄層ストックパイル,切り崩し管理,撒き出し厚管理,コア・フィルタ境界の撒き出しでのコア材の分離防止を図っている。コア材の粒度に画像粒度解析システム,含水比に近赤外線水分計を導入した品質管理,GNSS搭載振動ローラを用いた盛立時の転圧軌跡・回数等の施工管理により,遠隔地からタブレット端末を用いてリアルタイムの連続監視を実施している。
盛立の施工管理,品質管理にはタブレット端末を用いてリアルタイム監視を実施している。コア盛立時の間隙水圧管理に予測解析結果と埋設計器データを確認しながら施工するFEM
情報化施工を取り入れている。これらの盛立にかかる施工管理データは3 次元モデルに属性情報化してCIM に保存し,管理後のトレーサビリティに役立てる。コンクリートにかかる施工管理データも同様である。
基礎処理では,地質情報の3 次元モデル化,地質調査結果(コア写真、ボーリング柱状図)の属性情報化,グラウチング(カーテン,ブランケット,コンソリ)のモデル化を行い,施工結果を属性情報化して逐次モデルに反映・更新している。これにより地質情報と施工結果の関係性の把握が容易になる。また,埋設計器データについても3
次元で可視化することにより,各種計測結果を時系列分析で監視できるほか,全体挙動の把握も容易になる。
このほかのICT 活用事例として,アプリケーションサービスプロバイダ(ASP)を活用した受注者との工事書類の情報共有,クラウドサービスによる工事用監視カメラ,タグ埋め込みのIC
カードを用いた車両通行ゲートの無人化などがある。
管理への展開として,施工管理情報を維持管理まで継続して一元管理し,属性情報の付与によるトレーサビリティの確保,データ監視・蓄積による施設管理の効率化を目指す。また,通信環境の整備による情報共有と携帯機器類の活用を図るため,監査廊内及びゲート室内の無線LAN
化など通信環境を整備し,IoT 機器による遠隔化・無人化へ向けた取り組みを行っていく。
6. おわりに
本講演では,寺内ダムの厳しい防災操作が目に見えるようで,また小石原川ダム建設工事の最新の取り組みまでタイムリーかつ盛り沢山な内容をお話しいただき,聴講された皆さまにとって有意義な講演であったと思います。
最後に,ご多忙な中,資料を準備し講演していただいた日野氏に,深く感謝いたします。
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