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ダム工学会 第29回 特別講演会の報告

           ダム工学会学術研究発表会小委員会

 令和元年5月16日(木)の午後,星陵会館(東京都千代田区)において,第29回特別講演会が通常総会に引き続き開催されました。今回の講師は,ダム工学会理事でもある京都大学防災研究所の角教授にお願いしました。

 角教授のご専門はダム工学,水資源工学,総合土砂管理などで,ダムの操作に関する研究も進められています。また,ダム等に関する様々な委員会にも数多く携わっておられます。そのような中,昨年7月に西日本の広い地域で長時間にわたり豪雨が発生し,各地で甚大な被害が生じました。治水目的を有するダムにおいても8つのダム(鹿野川ダム,野村ダム(以上、国土交通省),岩屋ダム,日吉ダム,一庫ダム(以上、水資源機構),引原ダム(兵庫県),河本ダム(岡山県),野呂川ダム(広島県))で異常洪水時防災操作が行われるという,かつて無い状況が起こりました。この豪雨災害を踏まえて国土交通省では昨秋「異常豪雨の頻発化に備えたダムの洪水調節機能に関する検討会」を設置し,角教授はその委員長を務められ提言をとりまとめられています。

 ご講演では,この検討会の議論にも触れられながら平成30年7月豪雨におけるダムの効果とダム操作の課題を中心にお話しいただき,さらにダム堆砂と流木のリスクマネジメントに関する研究にも触れられ,最後にはダム工学会への提案で締めくくられました。

『平成30年7月豪雨におけるダムの効果とダム操作の課題』

            講師 京都大学防災研究所教授  角 哲也氏

以下,講演の概要を紹介します。

 

 


講 演 風 景 

 

1. 平成30年7月豪雨におけるダムの効果とダム操作の課題

 ダム操作に関する重要な視点は,
 
  1) ダムの容量は有限:中小洪水に効かせると大洪水時に容量不足。
    下流河川の能力向上がないとダム機能は半減。

  2) ダムの洪水調節機能の向上:ハード対策ではダム再生(再開発)は重
    要,ソフト対策では降雨・流出量(洪水量)の予測手法の高度化。

  3) 異常洪水時防災操作を意識した情報伝達:防災情報の出し方の工夫
    が必要。豪雨災害を考えるためのFACPモデルについては後で触れ
    る。

 昨年7月の西日本豪雨では大量の降雨があったが,過去の災害経験を学ぶことは重要である。昭和28年と昭和47年にも梅雨前線による豪雨があり多大な被害が生じている。

 平成30年7月豪雨における肱川水系野村ダムの洪水調節では,後期集中型の降雨で雨域が南西から北東(流域の下流方向)に移動して洪水波が重なるという非常に厳しい降雨パターンであった。全国で8つのダムが異常洪水時防災操作に入っている。流入量のピークが二山,三山,四山のダムもいくつも見られた。

 そのようななかで引原ダムの操作では,第二波〜第三波の間に事前放流を行い,異常洪水時防災操作に入る時期を遅らせる操作が行われているのが特筆される。同様に異常洪水時防災操作に入った日吉ダムの操作では,最大流入量1254m3/sを第三波で迎えた以降に異常洪水時防災操作に入り,最後の山では流入量にほぼ等しい最大約900m3/sを放流したが,一連の操作でピーク流量の発生時刻を約16時間遅らせて避難時間を確保するとともに,下流で合流する支流域からの洪水波形との重なりを回避できたことで,計画最大放流量150m3/sを遙かに超える放流を行っても被害は最小限に抑えられた。ただし日吉ダムにもう一雨来ていれば大災害になったと推察される。由良川・加古川流域に降った降雨が異常洪水時防災操作に入ってから日吉ダム流域に降ったとしてシミュレーションしたところ最大1273m3/sが流入し,そのまま放流される結果になった。
 

 


 このようなことから浮かび上がる異常洪水時のダム洪水調節操作の課題は,異常洪水時防災操作の開始のタイミングと方法,下流河川水位変化への影響,ならびに沿川住民への情報提供である。

 ダムの洪水調節能力を比較する指標の一つに“相当雨量”がある。相当雨量(mm)とはダムの洪水調節容量(V;m3)を流域面積(A;km2)で除して調節可能な雨量に換算したものである。異常洪水時防災操作を行った8ダムを見ると,大きな差があることがわかる。野村ダム,鹿野川ダムはいずれも50mm以下であり,そもそも容量が足りないといえる。

 ダムの洪水調節機能を向上させる方法としては,ハード対策としてダムの再開発(堤体嵩上げや放流設備強化)が,ソフト対策として降雨・流出量予測手法の高度化とそれに基づく事前放流の精度向上が考えられる。

 ハード対策の事例として鶴田ダム,鹿野川ダム,天ヶ瀬ダムなどで再開発事業が行われている。ソフト対策として,SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」Y.スーパー台風被害予測システムの開発の中で,(独)水資源機構・京都大学・(一財)日本気象協会の共同チームで, 降雨・流出量予測手法の向上にアンサンブル降雨予測情報を活用することを研究している。

 


 大規模な洪水の時は異常洪水時防災操作を意識した情報伝達が重要であり,矢守教授(京大防災研)らは人間の意識や行動から豪雨災害について考えるためのFACPモデルを提唱している。Fはフェイタル(FATAL)【致命的な,破壊的な】,Aはアクシデンタル(ACCIDENTAL)【偶発的,不慮の】,Cはクリティカル(CRITICAL)【死活的な,決定的な】,Pはポテンシャル(POTENTIAL)【潜在的な,陰に隠れた】である。ダムの洪水調節により被害が防がれても(P),下流住民にはその危機感がなかなか伝わらず,いざと言うときに避難につながらず大きな被害(F)とならないように,いかに危機意識を醸成するか(P→C)が重要である。

 


 

2.ダム堆砂と流木によるリスクマネジメント

 今年4月19日に「ダム貯水池における流木の統合的管理とリスクマネジメント」をテーマに京都大学防災研究所水資源セミナーを開催した。ここでは,ゲート閉塞に関する研究の例を紹介する。

 具体的に問題が発生した事例として,裾花ダム(長野県)ではダム上流面の堆砂が著しく進行し,洪水調節を行ったときに土砂と沈木によってゲートが閉塞し,開操作不可となるアクシデントが発生した。この事例を用いて,リスク評価の研究として「n-1」(1門がダウン)条件下においてダムの洪水調節機能のサービスレベルに及ぼす影響を明らかにすることとした。裾花ダムのケーススタディでは,コンジットゲート門数が2門なので「n-1」条件では1門が使用できないことになる。そうなれば洪水調節容量を十分に生かすための放流能力が不足し,過剰貯留とそれに伴う異常洪水時防災操作への早期以降,ピーク放流量の増加が発生することが明らかになった。今後の研究課題としては,沈木によるゲート閉塞のメカニズムの検証,ダム湖底の堆砂および沈木の特性把握と予防保全対策である。

 

3.ダム工学会への提案

ダム工学会理事会での議論として,会員数の長期的な減少と若手会員から正会員への移行が弱い状況があり,その理由としてダムを仕事としている人の減少がある。一方で,西日本豪雨などでのダム操作に関するマスコミの関心は高く,また,環境,自然再生,土砂管理の観点でも,関連分野(応用生態工学会など)の研究者の関心は高い。しかしながらダムは依然としてブラックボックスのままで,積極的に自ら可能性を語ることができていない。そのため,例えばダム工学会から日本学術会議等で発信することは極めて重要である。このような状況から次の諸点を提案したい。

  1) 他学会との連携を進める:交流研究事業(共同研究チーム,ワークショ
   ップ開催)

  2) マスコミとの懇談会(勉強会)を行う:マスコミはダムに関する基本的な
   事項を知らない。可能性と限界を率直に説明する必要あり。

 本講演では,平成30年7月豪雨の経験を挙げながら,ダム操作のこれからのあるべき姿や能力の限界などをわかりやすくお話しいただきました。これから迎える洪水期を前に,ダム管理者やダムに関わる技術者,あるいは河川防災に関わる者にとってタイムリーかつ貴重な内容で、聴講された皆さまにとって有意義な講演であったと思います。

 最後に,ご多忙な中,資料を準備し講演していただいた角教授に深く感謝いたします。


※※※※  学術研究発表会小委員会からのお願い  ※※※※

 

 学術研究発表会小委員会では、毎年5月に特別講演会を開催しておりますが、講演会をより有益なものしていきたいと考えておりますので、講演テーマ,講師について皆様のご意見・ご希望を下記事務局までFAXまたはE-mailにてお寄せ下さいますようお願いします。

 

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