一般社団法人ダム工学会
 
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行事報告

平成29年度 ダム工学会 研究発表会・講習会の開催報告

 

ダム工学会 学術研究発表会小委員会
講習会小委員会

 

平成29年11月24日(金)に都内、星陵会館において「平成29年度 ダム工学会 研究発表会・講習会」を開催しました。発表会には約100名の参加者を得て、午前の研究発表会では、6編の研究論文の発表と質疑応答が活発に行われました。午後の講習会では、3名の講師による講演を行いました。


『研究発表会の部』

研究発表会では、耐震3編、施工技術1編、施工品質管理1編、堆砂対策1編、計6編の発表が行われました。


発表論文の概要は以下のとおりです。

1.  「ロックフィルダムにおける着岩処理の合理化   
        −湿式吹付け(SHOTCLAY)工法による施工−」

鹿島建設株式会社 技術研究所 上席研究員   上本 勝広

ロックフィルダムでは従来の着岩材施工では、スラリーを着岩面に塗布した後に、凹部処理として着岩団子を木槌などで凹部の奥までしっかりと突き固め、この凹部処理後にエアタンパで所定の厚さまで締固めを行ってきた。しかし、人力による締固めでは非常に時間と労力を要すること、熟練技術者の確保が高齢化のため難しくなってきていることから、湿式吹付工法による岩着処理の合理化を進めてきた。本報告では、殿ダム、大分川ダムのダム建設工事における本工法の施工実績について発表された。

2.  「ダムゲートの耐震性能照査における耐荷力特性の検討」

         独立行政法人水資源機構 総合技術センター情報グループ  冨田 尚樹

古いダムゲートの耐震性能照査において、大型供試体を用いて現行基準に不足するT桁の耐荷力実験を行うとともに、3次元シェルモデルによる非弾性有限変位解析により耐荷力実験の再現解析を行い、現行基準に不足する構造部材を有するプレートガーダ構造の限界状態特性の検討を行った。

3.   「コンクリートダムのクラック進展解析における
         解析パラメータの影響に関する基礎的検討」


  国土技術政策総合研究所 河川研究部 大規模河川構造物研究室  佐藤 弘行

大規模地震に対する非線形解析としてクラック進展解析を行う場合、各種解析パラメータを適切に設定する必要があるが、減衰定数や破壊エネルギーのように、その値を適切に設定するのが容易でないものもある。そこで、これらパラメータ設定上の留意点を把握する目的で、減衰定数と破壊エネルギーを対象にそれらがクラック進展解析結果に及ぼす影響について調べた。

4.   「ロックフィルダムにおける地震観測記録のNIOM解析」

             埼玉大学 理工学研究科   田那部 直也

本研究では徳山ダムにおける地震観測記録にNIOM法を適用して堤体や基礎岩盤の物性について検討を行った。その結果、(1)堤体中央部上区間では試験湛水中の貯水位の増加に伴う伝播時間の増加がみられ、(2)下区間では試験湛水による貯水位の増加の影響が小さく、単調に伝播時間が減少していることを示した。(3)またNIOM解析で得られた基礎岩盤のS波速度が、PS検層による推定値に整合する値であることを示した。

5.   「CSGの品質管理合理化を目指した新しい
                   品質管理手法の提案」

静岡県浜松土木事務所沿岸整備課            寺田 知史

浜松防潮堤では施工中のCSG防潮堤において、新しい品質管理手法として画像処理、RI水分計を活用した表面水量管理の自動化の取組みを実施している。本発表では「自動化システム」は,材料の粒度および表面水量を良好に測定し,変動傾向を概ね把握できることが報告された。

6.  「潜行吸引式排砂管による小規模貯水池における排砂実証試験」

     国立研究開発法人土木研究所 水工研究グループ水理チーム  宮川 仁

土木研究所では、ダム貯水池の堆砂対策およびダム下流の流砂環境の保全・改善のために、貯水池の上下流水位差によるエネルギーを活用したフレキシブル管を用いた排砂手法(通称:潜行吸引式排砂管)の開発を行っている。本発表では、実際の電力および農業用水取水で利用されている小規模貯水池(沈砂池)において、沈砂池内の土砂を無動力で貯水池外(下流)へ排砂可能とした実証試験の内容について報告された。


発表論文は、今後のダム施工技術、耐震解析の検討、堆砂対策に寄与するものと期待されます。

当日の研究発表に対して、優秀発表賞選考委員会が会場内で開催され、慎重な審査の結果、優秀発表賞として次の1編が選定され、優秀発表賞選考委員会 小長井委員長より賞状ならびに副賞が発表者に対して授与されました。


【優秀発表賞】  

「潜行吸引式排砂管による小規模貯水池における排砂実証試験」


国立研究開発法人土木研究所 水工研究グループ水理チーム    宮川 仁

 論 文 発 表 風 景
会 場 風 景
 優 秀 発 表 賞 受 賞 風 景

『講習の部』

 講習会小委員会では、毎年、ダム工学だけでなく様々な分野の講師をお招きして講演を実施しています。本年も3名の講師を御招きし、国土交通省におけるCIMの取り組みついて、ダム長期活用に関わるコンクリートの話について、東富士演習場治山治水事業(東富士山麓の調整池計画)について講演していただきました。


『国土交通省(平成29年度)CIMの取り組みについて』

   国土交通省 大臣官房技術調査課 建設システム管理企画室長      
常山 修治様


『ダム長期活用に関わるコンクリートの話』

ダム技術センター 首席研究員     川崎 秀明様


『東富士演習場治山治水事業(東富士山麓の調整池計画)について』

愛知工業大学 教授     中村 吉男様


常山 修治講師からは、国交省におけるCIMの取り組みについて、我が国の建設現場の現状、i-Constructionの概要、現状のCIMの取り組み、CIMガイドライン・基準類の整備、CIM活用の推進について説明を受けました。冒頭では依然として低い建設業の生産性の現状や、推進している生産性革命における「社会のベース」、「産業別」、「未来型」といった3つの切り口についてのお話がありました。またi-Constructionの推進に合わせた技術開発や推進体制、サポートセンターについての現状、ダムを中心としたCIMの活用状況といった現在の状況に関する説明の後、今後民間企業と大学、さらには国も連携して推進していく体制やスケジュールについてお話しいただきました。

川崎 秀明講師からは、ダム長期活用に関わるコンクリートの話について、ダム再生に関する近況、コンクリートダムの総合点検、ミクロマネジメント(予防保全と劣化予測)、リスクを考慮したマクロマネジメント、ダムコンクリートの劣化と対策、施工時に起因する劣化、供用期間中の劣化、コンクリート劣化の調査方法について説明を受けました。特に劣化予測からの損傷度・健全度の評価を中心としたミクロマネジメントから、補修時期や事業量を踏まえた中長期的な計画策定を中心としたマクロマネジメントに至る山崩し(平準化)を考慮した考え方、実際のダムにおけるコンクリートの劣化現象について多数の実例をもとに紹介をいただき、事例・実現象を知ることの重要性を強く感じることができました。

中村 吉男等講師からは、東富士演習場の概要、河川・流域の概要、調整池計画について説明いただきました。治山治水対策事業の背景や、東富士演習場の北側、南側で基礎地盤がスコリア分布流域とローム分布流域と大きく異なること、それに伴うそれぞれの調整池計画、貯砂方式の考え方、基準となる指針類について説明いただきました。特に本地域特有の基礎に応じた基礎処理方法についての考え方や、材料の有効活用を図るためコア材への火山灰質の利用方法など、地域の特殊性を考慮しつつ材料を最大限に活用する方法、考え方について、ご講演いただきました。いかに現地条件を見つめながら工夫を図るかといった強い気持ちを感じることができました。

今回の3名の講師のお話を通して、我々が従事している「ダム事業」についての現状とこれから考えるべき課題、技術の開発、現地特性や品質劣化等の原因に対する本質を見抜く力の重要性について身に染みて感じる良い機会となりました。またその機会を多くの皆様に提供するためにも、本会が情報や意見交換の場として活用されるように努めていくつもりです。

常山 修治 講師

川崎 秀明 講師

中村 吉男 講師
 
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