一般社団法人ダム工学会
 
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行事報告

令和4年度 ダム工学会
研究発表会、特別講演会、講習会の開催報告


『研究発表会の部』

ダム工学会学術研究発表会小委員会

  令和4年11月17日(木)に「令和4年度 ダム工学会 研究発表会」を開催しました。
 本年度の研究発表会は、一昨年度および昨年度と同様、特別講演会と同日に、新型コロナウイルス感染症拡大防止のために発表、審査、聴講をいずれもオンラインで開催しました。発表者は5名、参加者は85名でした。

 研究発表会では、ダム施工の合理化に関する研究が1編、ダム来訪者の分析に関する研究が1編、ダム総合点検によるリスク評価に関する研究が1編、ダム管理におけるCIM活用に関する研究が1編、貯水池のアオコ分析に関する研究が1編と、多様な分野にわたり計5編の発表がありました。

 発表論文の概要は以下のとおりです(敬称略)。

1.「パノラマ画像を用いた画像解析による打継面処理判定に関する検証」

安藤ハザマ 建設本部技術研究所 副主任研究員
野間 康隆

コンクリートの打継面処理の程度を自動判別するシステムを開発、実験場で取得した画像を用いてその適用性を検証し、処理の良否を判定できることを確認した。また、撮影した動画からパノラマ合成画像を取得し、それにより打継面処理の判定を良好に行うことが可能であること、さらに、パノラマ合成画像を使用することで、作業時間の大幅な短縮等、打継目処理判定の効率化が可能となることを示した。

2.「Twitterデータおよび人流オープンデータを活用したダム来訪者の観光動向分析」

   西日本技術開発株式会社 河川部
於久 達哉

河川水辺の国政調査結果に掲載の来訪理由や潜在的な観光動向を分析するため、 Twitterおよび人流オープンデータを用い、テキストマイニングによるダム来訪者の観光動向分析を行った。それにより、ダムカードなどダム誘致の取り組みや国勢調査結果に挙げられたダム来訪理由がTwitterデータにも現れる結果が示され、また、人気漫画による観光効果等、国勢調査に掲載のない潜在的な来訪理由も把握することができた。

3.「ダム施設のより効果的な維持管理のためのリスク構造の可視化の試み」

国土交通省国土技術政策総合研究所 河川研究部 大規模河川構造物研究室
主任研究官

小堀 俊秀

ダム総合点検で得られる多様な情報をリスクマネジメントの観点からダムの維持管理により効果的に活用できるよう、リスク構造の可視化を通じ明確化する手法を構築した。その手法を玉川ダムで試行し、今後の維持管理における重点事項をその理由を含めてより明確に認識できることを示した。なお、この手法においては、施設管理者、専門家などが討議し共通の認識を見いだすリスクコミュニケーションの過程が不可欠といえる。

4.「川上ダムにおける管理の効率化に向けたCIMの構築について」

   独立行政法人水資源機構 川上ダム建設所 管理課 課長
大高 英澄

川上ダムでは、地形、地質及び構造物の三次元モデルに施工管理情報等を付与した施工CIMを構築し、施工管理支援ツールとして活用してきた。現在、試験湛水後の管理移行を見据え、ダム維持管理の効率化に向けた管理CIMを構築中である。管理CIMでは、施工CIMの内容を継承するだけでなく、自動・手動取得されるダム諸量、各種観測・巡視データ等を一元管理・連携・可視化することで、維持管理の効率化・高度化を目指している。

5.「輝北ダムにおける WATER-PAM を用いたアオコの光合成活性の評価」

   国立大学法人鹿児島大学 連合農学研究科 農水圏資源環境科学専攻
博士課程

曹 磊

ダム湖におけるアオコを抑制するために、強制的に水塊を循環させることで発生したアオコの活性を低下させるプロペラ式湖水浄化装置が導入されている輝北ダムにおいて、アオコの光合成活性の測定と現地調査を実施した。その結果、アオコを暗所に長期間おいても光合成活性がゼロにはならないこと、またアオコ採取位置により光合成活性の低下傾向に差異があること等が明らかとなった。

これらの発表論文は、今後、ダムの設計施工、維持管理、環境保全や地域活性化等に寄与するものと期待されます。

5編の研究発表に対して、優秀発表賞選考委員会による審査が行われ、優秀発表賞として次の1編が選定され、表彰式が行われました。表彰式では、優秀発表賞選考委員会 乗京委員長より受賞者に、賞状ならびに副賞が授与されました。

【優秀発表賞】

「ダム施設のより効果的な維持管理のためのリスク構造の可視化の試み」

国土交通省国土技術政策総合研究所 河川研究部 大規模河川構造物研究室
主任研究官

小堀 俊秀

ダム工学会 出水会長 開会挨拶 安藤ハザマ 野間氏による発表
西日本技術開発
於久氏による発表
国土技術政策総合研究所
小堀氏による発表
水資源機構 大高氏による発表 鹿児島大学 曹氏による発表
優秀発表賞選考委員会
乗京委員長による
優秀発表賞の授与
研究発表会開催報告
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『特別講演会の部』

ダム工学会学術研究発表会小委員会

 令和4年11月17日(木)に「令和4年度 ダム工学会 特別講演会」を開催しました。
 特別講演会は、令和元年度までは5月の通常総会後に開催していましたが、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、一昨年度および昨年度と同様、11月の研究発表会と同日の午後、オンラインでの開催となりました。聴講者は95名でした。
 今回の講師は、ダム工学会副会長である京都大学防災研究所水資源環境研究センター 角教授にお願いしました。

 角教授のご専門は、ダム工学、水資源工学、総合土砂管理などで、近年は特にダムの操作に関する研究も精力的に進められています。また、ダム等に関する様々な委員会にも数多く携わっておられます。
  今回の講演では、「ダム効果の即時的かつ効果的な情報発信」と題して、角教授が座長を務めるダム大規模洪水対応WGの活動成果についてお話し頂きました。

京都大学防災研究所 角教授
「ダム効果の即時的かつ効果的な情報発信(ダム大規模洪水対応WG)」

1.背景と検討方針

 ・ダム大規模洪水対応WGの設立の背景:異常洪水防災操作の多発などによりダムに関する社会の関心が高まっている。ダム工学会として、可能であれば土木学会など各種学会等とも情報交換・連携し、積極的に発信を行っていくことが求められている。

 ・検討方針として「ダム効果の情報発信」と「事前放流」の2点に着目、ダム工学会の提言としてとりまとめ、公表する。

 ・今回は、特に「ダムの洪水調節効果をいかに示すか?」という問題意識のもと、「ダム効果の即時的かつ効果的な情報発信」について講演を行う。

2.ダム効果の即時的かつ効果的な情報発信について

2.1 WG活動状況

 ・R2〜3年度は、R2.7豪雨(最上川、筑後川)、R3.7豪雨(川内川)及びR3.8豪雨(江の川)の河川管理者へヒアリングを実施するとともに、各ダムにおける情報発信状況を収集、課題を整理した。

 ・R4年度の検討内容は2.2〜2.5のとおり。

2.2 大規模洪水時におけるダムの効果の公表及び管内ダムの状況をリアルタイムに配信するシステムに関するヒアリング及びアンケート

 ・国土交通省中国地方整備局及び北陸地方整備局の「ダム防災情報システム」について、河川管理者へヒアリングを実施した。

 ・上記ヒアリングをふまえ、各地方整備局に管内の状況をリアルタイムに配信するシステムについてアンケートを実施した。その結果、地方整備局によりダム効果のリアルタイムデータの配信に違いがあることがわかった。また、最近の洪水では、かなり短期間に定量的なダムの治水効果の速報を出している事例も多い。

 ・一般の人(マスコミ等)にダムの働きを正しく理解してもらうためには、ダム効果(ピークカット量、下流水位低下量)のリアルタイム配信が必要。「川の防災情報」ではそれが十分伝わらない。

 ・ダムがなかった場合の氾濫域を即時的に公表するためには、システムの構築、体制の確保が必要。

2.3 ダム効果の的確な情報発信

 ・ダムの防災操作による浸水域の軽減に関する数値情報を迅速に発信すべき。

 ・ただし、内水被害の有無が含まれていないことや、実現象における破堤の要因は複雑であること等、一般への情報提供に際しては、前提条件や仮定を十分に伝えたうえで提供されるべき。

 ・また、地元等へ事前に説明して理解を得たたうえで公表するのが望ましい。

 ・今後の展望として:流域内に複数ダムが存在する場合の効果の算定方法、シリーズダムにおける上流利水ダムの被害軽減効果の公表など。

2.4 ダム効果を即時的に情報開示する方策(案)

 ・公表のタイミング(情報が社会に届くため、報道で扱ってもらえる期限)によって、3日後に一次情報を出し、7日後に付加的情報を出すというように、情報の内容、ダム効果の表現方法が変わる。

 ・7日後には、想定氾濫図(ダムがなかったら・・・・)と実績氾濫図(現況=ダムがある状況)を比較することで、ダムの効果を視認化したい。

 ・想定氾濫図の作成方法として、作業時間や再現性により、「流量規模ごとにあらかじめ作成し出水時の流量に当てはめる方法」「簡易な氾濫解析により出水時に作成する方法」「マニュアルにより出水時に作成する方法」が考えられる。それぞれに作業上の課題があり、引き続き検討が必要。

2.5 大規模洪水時におけるダム効果の情報発信の課題及び対応方策

 ・ダム効果の的確な情報発信のためには、以下の点が重要である。

 (1) 洪水中のリアルタイムな情報発信

 (2) 洪水直後の即時的な情報発信

 (3) 定量的な情報発信の工夫

 (4) 情報発信における関係機関の調整

 (5) 被災河川の氾濫特徴について地域住民への周知
 以上のように、角教授には、近年の大規模洪水等の実績を踏まえ、いまダムに求められている大きな課題である「リアルタイムで的確な情報発信」に関して、広範な視点から最新の知見を丁寧にお話し頂きました。ダム管理者やダムに関わる技術者、あるいは河川防災の関係者にとって有意義な講演であったと思います。

 最後に、ご多忙な中、資料を準備し講演して頂いた角教授に深く感謝いたします。
京都大学防災研究所 角教授による講演
特別講演会開催報告
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『講習会の部』

ダム工学会講習会小委員会

 講習会小委員会では、毎年ダム工学だけでなく様々な分野の講師をお招きして講演を実施しています。本年は2名の講師を御招きし、洪水時のダム効果の情報発信について、DXによる土木技術の革新について講演していただきました。

『洪水時のダム効果の情報発信について』

国土交通省 中国地方整備局 土師ダム管理所所長
伊藤 健様

『DXによる土木技術の革新』

東京大学大学院工学系研究科 社会基盤工学専攻 教授
石田 哲也様

 伊藤 健講師からは、先ず「洪水時のダム効果の情報発信について」として、リアルタイムにダムの情報(効果)を発信することと、洪水時のダムの効果を早期に報道等へ発表することについて、目的に応じた情報の取り扱い・発信方法の事例を中国地方整備局および土師ダムでの取組をもとに説明がありました。リアルタイムの情報として、一般的にダムが放流していることしか知られておらず、ダムの貯留・減災効果が実感できないために誤解が生まれているとの認識のもと、貯留量や河川水位の低下量等「ダムが何をしているのか」を情報として提供していると説明がありました。また令和3年8月出水時のダム防災情報システムへの時間ごとのアクセス数をもとに、地域住民の方がどのようなタイミングで情報を必要とし検索しているかを分析し、その結果を情報提供に反映させていることの紹介がありました。次に治水効果の記者発表に対し、ダム効果の正確性を期すためにダムの有無による下流域の水位の差を算出し発表しているとの説明がありました。正確な情報を時間を置かずに発表するため、算出手順をあらかじめ作成し複数のメンバーがが産す津算出可能な体制としていること、精度を理解しておくこと等の準備段階の重要性を強調されていました。行政側の義務としての情報発信、行政が一体となって危険に関する情報発信へ取り組む姿勢を説明されている姿が印象的でした。

 石田 哲也講師からは、「DXによる土木技術の革新」として、デジタルツインによる将来予測と現実へのフィードバックに関する内容と、建設分野における3Dプリンタ導入の事例について説明がありました。まずデジタルツインの話題については、情報の「取得」、「伝達」、「蓄積」、「分析」が鍵であり、デジタル技術の著しい発展に伴い、いかに効率的、安価に、セキュリティを確保したうえでデータをやり取りしたうえで何を可能とするかについての問題提起がありました。一般的にDXとはデジタル化を進めることと勘違いされており、本質としてのDXはデジタル化によって物事の変革をもたらすこと、課題の克服や新しい価値を抄出することであること、複利計算式を用いて運用速度を上げ最速・最大の成果を出すこと、本質は効果を生み出すことのハイサイクル化であるとの説明がありました。またデジタルツインの手法を用いて、現実を複写しただけではなく、シミュレーションに基づく材料のミクロレベルから構造物全体のマクロレベルについて将来を予測し、現実の点検や対策にフィードバックすることを、橋梁のRC床板の事例をもとに説明がありました。また併せて新たな診断技術についても紹介がありました。次に建設分野における3Dプリンタの活用について、世界の事例や日本における取り組み事例の紹介がありました。急速に進みつつある技術について、日本が先進的に取り組んでいる事例も紹介いただきました。

  今回の2名の講師のお話を通して、ダムで既に取り組まれている事例だけではなく今後ダムに活用すべき最新の話題を知る良い機会となりました。またこのような機会をより多くの皆様に提供するためにも、産官学が参加するダム工学会の本会が、情報や意見交換の場として活用されるよう努めていくつもりです。

伊藤講師による講義
石田講師によるオンライン講義
講習会開催報告
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