1.「スラストブロックを対象とした赤外線サーモグラフィ法と衝撃弾性波法によるコンクリート調査に関する一考察」
東京都立大学 准教授
大野 健太郎
赤外線サーモグラフィ法および衝撃弾性波法によるコンクリートの損傷検出の適用性について、供用中のスラストブロック下流面を対象とし現地計測を実施した。その結果、可視画像および赤外線サーモグラフィ法による表面性状の分類、衝撃弾性波法による変状の有無や進展状況の評価、さらに弾性波の開口合成処理によるコンクリート内部の反射源の可視化やダム内部欠陥探査への適用の可能性が示された。
2.「AIを用いたダム安全管理用判断支援ツールの活用」
国土交通省国土技術政策総合研究所 河川研究部 大規模河川構造物研究室 主任研究官 小堀 俊秀
ダムの漏水量、変形(変位)量、揚圧力等様々な計測データの変動からAIを活用して異常有無の判断を支援する「ダム安全管理用判断支援ツール」を開発した。判断支援ツールには、再帰型ニューラルネットワークのアルゴリズムの一つであるLSTM(Long
Short Term Memory)を用いた。このツールはAI技術の専門的知識がなくても活用でき、経験が浅いダム管理者でも時系列データの分析から異常有無の判断を容易に行うことが可能である。
3.「川内沢ダムの堤体基礎掘削時における定量的な岩盤評価手法の適用」
西松建設(株) 北日本支社 川内沢ダム出張所 副所長
小野 雄司
マルチスペクトルカメラとシュミットロックハンマー等の現場計測の併用による定量的かつ簡易的な基礎岩盤評価手法を構築し、堤体基礎掘削に適用した。この手法により、従来地質技術者の専門知識が必要であった岩級区分評価を定量化し迅速に評価することが可能である。また、得られたデータはクラウドサービスを活用して共有でき、施工関係者等の間で迅速に岩盤状況を確認、協議等を行うことも可能である。
4.「アンサンブル降雨予測を利用した洪水調節操作の最適化に関する基礎的検討」
京都大学大学院工学研究科
岡本 悠希
長時間アンサンブル降雨予測を用いて洪水調節操作の最適化を行い、特にダムの最大放流量を最小化する洪水調節操作について検討した。ケーススタディから、洪水調節開始流量がダムの最大放流量に大きな影響を与えること、一定量放流方式の最適化では予測雨量の上位〜中位メンバーを用いることにより最大放流量を小さくすることができること、洪水が近づくにつれ最適値の取り得る範囲が狭まり予測の信頼度が向上することが示された。
5.「ダム湖魚類相調査における環境DNA定量メタバーコーディングの有効性」
山口大学大学院創成科学研究科 准教授(特命)
中尾 遼平
環境DNA分析の一つである定量メタバーコーディング法を用いて魚類相を明らかにし、ダム湖魚類相調査における有効性を検討した。本手法により、全国の24ダム湖に生息する魚類を網羅的に明らかにすることができた。また、四国の4ダム湖で河川水辺の国勢調査結果との比較を行い、環境DNA濃度から魚類の量的な推定が可能であることが示された。本手法はダム湖における魚類相調査のための有効なツールとなり得ると考えられる。
6.「成瀬ダムにおけるCSG材の表面水量の全量管理技術」
鹿島建設(株) 技術研究所 土質・地盤グループ 副主任研究員
田中 恵祐
施工中のCSGダム堤体打設工事において、近赤外線水分計による含水率管理技術とAI画像粒度モニタリングによる粒度管理技術を導入し、CSG材の表面水量の連続評価を試行した。その結果、当ダムのCSG単位水量管理幅±15kg/m3以内に対し、本システムの測定結果と試験室配合結果はほぼ同等の値を示し、本システムによりCSG製造管理に必要な精度で表面水量を測定できることが示された。
これらの発表論文は、今後、ダムの調査・設計・施工・管理の各段階における品質管理や安全管理の高度化や合理化に寄与するものと期待されます。
6編の研究発表に対して、優秀発表賞選考委員会による審査が行われ、優秀発表賞として次の1編が選定され、表彰式が行われました。表彰式では、優秀発表賞選考委員会
乗京委員長より各研究発表に対する講評および審査結果の発表がなされ、ダム工学会 川崎会長より受賞者に賞状ならびに副賞が授与されました。
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