一般社団法人ダム工学会
 
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行事報告

令和6年度 ダム工学会
研究発表会、講習会の開催報告


『研究発表会の部』

ダム工学会学術研究発表会小委員会

  令和6年11月21日(木)に「令和6年度ダム工学会研究発表会」を開催しました。
 ダム工学会研究発表会は、令和2年度から昨年度までは、新型コロナウイルス感染症対策のため、特別講演会および講習会とあわせて同日にオンラインで開催していました。
今年度は特別講演会を5月の通常総会後に集合形式で開催しており、研究発表会と講習会を昨年度までと同様にオンラインで開催したものです。
 研究発表会の発表者は7名、参加者は103名でした。

 研究発表会では、小型SAR衛星によるロックフィルダムの安全管理、3次元流体解析を用いた施工安全性検討、コンクリート表面遮水壁式ロックフィルダム(CFRD)の施工、3Dプリンターのプレキャスト部材への適用、サブボトムプロファイラーによるダム堆砂性状調査、アンサンブル降雨予測のダム特別防災操作への適用、3次元解析を用いたピアノキー型越流堰の適用可能性検討といった、多彩な分野にわたる計7編の研究発表がありました。
 発表論文の概要は以下のとおりです(敬称略)。

1.「小型SAR衛星の活用を想定したロックフィルダムの安全管理に向けた検討」

国土交通省国土技術政策総合研究所 河川研究部
大規模河川構造物研究室 交流研究員

井上 晃輔

令和6年能登半島地震では、複数のダムについて道路寸断等の影響によりダム管理者がダムに近づくことができない状況が暫く続いた。このように、大規模地震発生後にはダム周囲の被災状況によっては臨時点検に時間を要する場合もある。上記に示す課題を解決する一つの手法として、筆者らはダムの安全管理においてSAR衛星の活用の検討を進めている。本稿は、小型SAR衛星の活用を想定した、ロックフィルダム及び貯水地周辺斜面のPSInSAR解析及びリフレクターの適用性等の検討結果について示すものである。

2.「ダム再開発工事における3次元流体解析を用いた施工安全性の検討」

   株式会社大林組 土木本部生産技術本部 ダム技術部
屋上 佳汰

近年、気候変動による降雨の激甚化・高頻度化に伴い、水害リスクが高まっている。このため、「流域治水」の考え方に基づいた、ハード・ソフト一体となった対策がすすめられており、その中で、ダムの再開発工事が増加傾向である。一方、水害リスクの高まる中での河川内工事は工事中の被災リスクに常にさらされており、これまでのダム建設に比べて入念な設計・施工の検討が必要である。本稿では、BIMと流体解析技術により、ダムの放流状況を高精度に再現し、施工時の安全性の確保を目指した一連の取組みを報告する。

3.「南摩ダムコンクリート表面遮水壁(フェイススラブ)の施工について」

独立行政法人水資源機構 思川開発建設所 ダム工事課
柴田 竜馬

南摩ダムは、堤体を粗粒材料で盛立し、堤体上流面をコンクリートで被覆することで遮水性を持たせる「コンクリート表面遮水壁型ロックフィルダム(CFRD)」である。表面遮水壁(フェイススラブ)の施工は移動式鋼製型枠(スリップフォーム)を使用した特殊な打設方法を採用しており、国内における近代的施工方法(薄層転圧工法)を用いたCFRDとしては、徳山ダム上流仮締切工、苫田鞍部ダムに続き国内で3例目となる。本稿は、遮水性の確保を目的としたフェイススラブの施工について報告するものである。

4.「建設用3Dプリンターの一般構造物プレキャスト部材への適用」

   株式会社大林組 土木本部生産技術本部 ダム技術部 副部長
小俣 光弘

建設業では働き方改革が進む中で熟練工不足が顕在化している。また、工事発注段階での調整不足に起因する工程遅延などが発生することもあり、ICT技術だけでは解決できない問題が累積する状況である。このような中、建設用3Dプリンターを活用したプレキャスト工法(西湘バイパスで適用)など発注者施工計画や設計手法を見直す建設DXが推進されてきた。本稿では、この流れを一般構造物であるL形擁壁に適用する取り組みを進めた事例と、一般化・仕様確立を見据えた3Dプリンター工法の現在地を報告する。

5.「ダム貯水池における堆砂内部性状把握技術の開発状況報告」

   独立行政法人水資源機構 総合技術センター ダムグループ
合屋 祐国

著者らは、ダム管理における恒久の命題である「堆砂対策」に係る新技術として、ダム貯水池堆砂の内部性状(土砂性状、堆積構造、埋没物など)を広範囲、高精度かつ容易に把握するための技術の開発に取り組んでいる。令和5年度より、小型船舶搭載可能な装置を用いて、音波の発信・受信により、堆砂面や堆砂内部の地層境界を検出できる技術(サブボトムプロファイラー)について、現地での実証試験を開始し、サブボトムプロファイラーの有用性と課題を明らかにすることができた。

6.「ダム特別防災操作におけるアンサンブル降雨予測の活用可能性検討」

   一般財団法人日本気象協会 社会・防災事業部 防災マネジメント課
鈴木 豪太

一般財団法人日本気象協会 社会・防災事業部 防災マネジメント課 鈴木 豪太 中部地方のAダム流域をモデルに、特別防災操作の実施判断におけるアンサンブル予測の活用可能性を検討した。アンサンブル予測としてECMWFをベースとした長時間アンサンブル、気象庁の週間アンサンブル及びメソアンサンブルの3種類、従来予測としてガイダンス予測に安全率(α=2)を乗じたものを対象とし、過去の特別防災操作実施事例において比較検討を行った。従来予測は大幅に過大であり、ダムの容量が不足するため特別防災操作実施を見合わせる判断になる可能性があった。複数アンサンブルの上位の予測雨量は実績雨量と同程度以上と概ね適切な予測となり、特別防災操作の実施判断にアンサンブル予測を活用することの妥当性が示された。

7.「3次元数値シミュレーションを用いたピアノキーの予備的検討」

   国立研究開発法人土木研究所 河道保全研究グループ水工チーム 主任研究員
本山 健士

ピアノキー型越流堰(PKW)の日本国内での適用可能性を3次元数値シミュレーションを用いて検討した。PKW Type Dとその改良型であるPKW Type D'を取り上げ、標準越流頂等と比較した結果、PKW Type Dは標準越流頂と比べ約1.2〜2.5倍、PKW Type D'は約1.3〜3.3倍の放流能力を有していることを確認した。また、実験式との比較を行いTypeDとTypeD’の放流能力の違いについて考察した。今後は実験を通じたさらなる検証が必要だが、PKWは従来の放流設備と異なり大幅に単位幅流量を増大させ、気候変動に伴う外力増加に対応できる施設であり、ダム全体の設計の自由度が向上する施設であることを確認した。


以上のように、いずれの研究発表も最新の技術開発に取り組んだ(あるいは取り組んでいる)成果をとりまとめたものであり、今後、ダムの調査・設計・施工・管理さらには再開発にかかる技術の高度化や合理化に寄与するものと期待されます。

7編の研究発表に対して、優秀発表賞選考委員会による審査が行われ、優秀発表賞として次の1編が選定され、表彰式が行われました。表彰式では、ダム工学会優秀発表賞選考委員会 溝渕委員長より各研究発表に対する講評および審査結果の発表がなされ、ダム工学会 角会長より受賞者に賞状ならびに副賞が授与されました。

【優秀発表賞】

「建設用3Dプリンターの一般構造物プレキャスト部材への適用」

株式会社大林組 土木本部生産技術本部 ダム技術部 副部長
小俣 光弘

角会長による賞状授与

(発表会の状況)

ダム工学会 角会長 開会挨拶 国土技術政策総合研究所
井上氏による発表
大林組 屋上氏による発表 水資源機構 柴田氏による発表
大林組 小俣氏による発表 水資源機構 合屋氏による発表
日本気象協会 鈴木氏による発表 土木研究所 本山氏による発表
優秀発表賞選考委員会
溝渕委員長による
講評・優秀発表賞の授与
研究発表会開催報告
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『講習会の部』

ダム工学会講習会小委員会

 講習会小委員会では、毎年ダム工学だけでなく様々な分野の講師をお招きして講演を実施しています。本年も2名の講師を御招きし、橋梁の事例をもとに想定外に備える重要性について、新型サイホン洪水吐きの開発について、ダム技術および技術者としての参考とすべき最新の話題に対する講演をして頂きました。

『Preparing for the unexpected(想定外に備えよ)』

学校法人 城西大学 理事長
藤野 陽三様

『放流革命を秘めた新型サイホン洪水吐きの開発』

一般財団法人 ダム技術センター 技師長
川崎 秀明様

 藤野 陽三講師からは、講師ご自身が携わられた橋梁に関し、設計では予測していなかった事象やそれらを解決するための道筋についてお話しいただきました。能登地震を含む今までの災害に対し「想定範囲外」という言葉が使われている現状について、過去の事例をもとに最終的に障害等が発生する前に「前兆」となる事象が発生し、見過ごされていたことを紹介いただきました。「前兆」をしっかりと捉え、今後発生する可能性のある事象を予測し、迅速に対策を施すことの重要性、またそれらは多くの人々の関わりを持って解決できることを説明いただきました。

 川崎 秀明講師からは、放流革命となり得る2タイプの新型サイホン洪水吐きに関して説明をいただきました。新型サイホン洪水吐きは、既往の方式に対して大幅なコスト縮減が可能なこと、自由度を持った施設配置が可能なこと、地球温暖化に伴う放流能力不足への対応といった世界的に大きな需要への対応が可能であることを、設計条件や水理模型実験の結果等を示していただきながら説明いただきました。本工法は施工時の仮設備の縮小も可能であり、工期短縮、働き方改革への適用性の高さから、今後のダム再開発の一つの手法として非常に有効な手法であることを講義いただきました。

  今回の2名の講師のお話を通して、我々が従事している「ダム事業」を中心とした防災事業について、気候変動に関する課題の前兆を見逃すことなく対応すること、また常にコスト、汎用性の高い最新の技術開発を目指すことの重要性、また技術者の使命であることを改めて認識する良い機会となりました。このような機会をより多くの皆様に提供するためにも、産官学が参加するダム工学会の本会が、情報や意見交換の場として活用されるよう努めていくつもりです。

藤野講師による講義
川崎講師による講義
講習会開催報告
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