一般社団法人ダム工学会
 
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 行事報告

令和7年度
特別講演会の開催報告

ダム工学会学術研究発表会小委員会

 令和7年5月30日(金)に、星陵会館(東京都千代田区)において「令和7年度ダム工学会特別講演会」を開催しました。
 特別講演会は通常総会後に集合形式で開催し、参加者は74名でした。
 今回の講師は、日本大学工学部土木工学科の梅田信教授にお願いしました。

 梅田教授は、社会基盤工学の環境水理学を専門として、主に河川、湖沼の水域生態系に関する研究、湖沼・貯水池における環境流体力学的な研究、陸水域の水環境と流域の社会環境変化に関わる研究をなされております。
 大学における研究の他、土木学会をはじめ、公的機関が主催する委員会等の委員としてもご活躍されており、ダム貯水池や湖沼の水環境に関する意見をいただいているところです。
 梅田教授はダム工学会会員でございまして、平成16年「曝気式循環施設の理論とその効果に関する考え方」、平成20年「富栄養化したダム湖におけるアオコ発生指標としての水温成層安定性」の論文において、ダム工学会論文賞を受賞されております。

  今回は、「ダム貯水池の水環境に関するいくつかの話題」と題してご講演いただきました。

梅田教授による講演

『ダム貯水池の水環境に関するいくつかの話題』
日本大学工学部土木工学科 梅田 信 教授

(講演内容)
 本日の話題として、まずダム貯水池の主要な水質問題の概略と、そのうちの富栄養化対策としての曝気式湖水循環について紹介する。次に温暖化の富栄養化への影響と適応策、集水域と流入河川と環境変化に関する研究結果の一例を示し、最後に環境問題における対策、適応策の難しさについてお話する流れである。

1.ダム貯水池の水質に関する問題の概略
 ダム貯水池の水質で問題となるのは、水温、濁り、富栄養化が上げられる。特に富栄養化現象ではアオコ発生による異臭味が問題となることがある。現在は対策による効果で落ち着いているところは多いが、温暖化の影響を受け、今後はさらに頻発する可能性を持っている。

2.富栄養化対策としての曝気式湖水循環
 曝気式湖水循環は気泡の上昇が進行する水の流れにより、貯水池内の流動循環を促すものであり、水深20m以深の無光層から循環することで光制限効果を増大させ、藻類の異常増殖を抑制するものである。数値解析モデルを用いて適正な施設規模を検討したところ、風速条件による影響が大きく、風による湖水の混合効果との重畳によるものと推察している。

3.温暖化と富栄養化現象(アオコ)

 藻類の増殖は水温環境に依存しており、表面水温20度以上、水温成層が大きい時に発生する可能性が高い。温暖化による将来予測の結果では全国的に富栄養湖数は増加する傾向を示している。その対策として貯水池内と浄水処理時の適応策があり、コストも含めて判断する必要がある。ただ、貯水池内及び浄水処理時の適応策を実施しても温暖化によるアオコの発生は完全には避けられないという結果も得られている。

4.集水域、流入河川と環境変化
 貯水池の水環境は気象条件等の自然的要因と人口変化等による社会的要因との組み合わせによるものであり、栄養負荷が現在大きいダム湖集水域では、将来の人口減少の影響がより顕著に出る傾向にある。また、流入河川水温について数十年レベルの長期的変動を把握するため、季節変動を除いた偏差成分を解析したところ、気象の十年規模振動などによる気温変化に伴い水温も変化している傾向が見られた。

5.環境問題における対策、適応策の難しさ
 東北地方のダム貯水池において、アオコによるカビ臭に対して曝気装置を設置して効果を上げたが、その数年後にマンガン検出という別の水質問題が発生した事例もある。
 ダム貯水池の水環境問題は環境そのものが複雑で因果関係が一直線ではなく、環境の良し悪しの判断が不明確であること、また長期的な予測が難しいこともあり、対策の実現性や経済性等と工学的な要素の兼ね合い等、適応策を講じていく上でその判断をより難しくしている。

まとめ
 今回の講演では、建設後のダム貯水池の水環境に関する様々な知見をご紹介いただき、ダム管理者やダムに関わる技術者、ダム貯水池の水質について関心を持っている方々にとって大変有意義な講演であったと思います。
 ご多忙な中、資料を準備し講演して頂いた梅田教授に深く感謝いたします。

特別講演会開催報告
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