1.with Dam☆Nightの目的
2010年にダム工学会20周年記念事業として本部が開始して以降、with Dam☆Nightは全国的な定例的な開催に至っており、当学会と一般市民を結ぶ活性化の重要な役割を果たしています。喜ばしいことに、次第にダム技術者よりも一般のダムファンが多数を占めるという近年の傾向があり、女性も多く来られています。
しかし残念ながら、昨年はコロナ禍によって本部による開催は見送り、中部近畿地区のWeb開催だけとなりました。そうした中、当学会のボランティア精神に基づきダム工学会本部事務局支援の下に独力Web放映による新たな形のwith
Dam☆Nightを2021年7月9日(金)18:00~21:00に行いました。
2.with Dam☆Nightのプログラム
今回はコロナ禍ということもありますが、これを機に、11年前のwith Dam☆Night開始時の初心に戻り、過去の数人の講師による講演会スタイルから、より楽しめる新趣向の展開を図ることにしました。
即ち、Web放映方式(MS Teams使用)を活用してストーリー性を強めたものにすべく、「2021:ダムオデッセイ」(参考「2001年宇宙の旅」、Space
Odessey 2001)と銘打ち、歴史と場所を現在に映し出しながら、時空を駆け巡るダム浪漫叙事詩の3時間とする試みとしました。いわばWeb空間での出航です。
シナリオは、共同MC(Master of Ceremony)のダム愛好家と相談して第1筆者が書き、特別動画や第1部のダム愛好家によるテーマ提示後に、第2部において当学会員(今回は施工のエースプロ)を主役に、ダム好学の夜を大いに楽しめるように企画しました。
今回の独力Web放映は、初めての試みであるので心配事が多く、本部事務局の放映機器の準備と発表者の協力のもとに、4回ほどのリハーサルを経て、準備を整え、7月9日(金)18:00~21:00に実施しました。
プログラムは表1に示すように、世相を反映して、ダムの再生・再開発がテーマとなっています。
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図1 with Dam☆Night 2021 事前配布チラシ |
表1 with Dam☆Night 「2021:ダムオデッセイ」 のプログラム |
テーマ:
「ダム再生・再開発技術」
日時:
2021年7月9日(金) 18:00~21:00
発信場所:
ダム技術センターAB会議室(Studio AB)
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主催:
ダム工学会
後援:
日本ダム協会、建設コンサルタント協会、
ダム工事総括管理技術者会 |
1. 18:00開会挨拶 ダム工学会会長 小長井一男
オープニング映像「ダムの夜明け」 制作: 尾山玲(ドーコン)
2.18:05 第Ⅰ部「時空を超えてよみがえるダムの旅」
夜話1「“どこでもダムで考える”ダム開発・再開発」 ダムマイスター 高根たかね@ダム日和
夜話2「大正期までに竣工したダムの再開発」 ダムマイスター 夜雀
3.19:05 第Ⅱ部「ダム再生の熱堤夜話」
夜話3「ダム用PSアンカーなどのダム再開発(千本ダムと川俣ダム)」 柱征宏(大林組)
夜話4「ダム再開発と鹿島建設(新桂沢ダムと鶴田ダム) 福井直之(鹿島建設)
夜話5「鹿野川ダムと千五沢ダムの再開発工事」 長谷川悦央(清水建設)
夜話6「大成建設が誇るダム再開発(五十里ダムと天ケ瀬ダム)」 土肥聡(大成建設)
4.20:45 総括
夜話7「世界のダム再開発、夢のツアー」と総括 川崎秀明(ダム技術センター)
締め「ダムラブ💛」
実行スタッフ
監督:川崎秀明、シナリオ:川崎秀明、夜雀さん
コメンテーター: ヨッシーさん、Dasheloさん、アナウンス係:戸花佑香(建設技術研究所)
全般:糠谷勝彦(三井住友建設)、佐藤公治(戸田建設)
WEB配信・機材セット:高野裕太・片岡満紀(ダム技術センター)
チャット係:水摩智嘉・酒井匠・陳栄秀(建設技術研究所) |
3.各公演内容の紹介
開会の挨拶 ダム工学会会長 小長井一男(画像1)
「私が生まれた1952年ごろは次々に大水害が発生しその後のダム建設ラッシュにつながった時代だった。近年の雨の降り方や発生している水害を見れば、『いまあることは、かつてもあったこと』(旧約聖書)といえる。シンポジウムを通じてダムの果たす役割を発信していきたい」と挨拶された。
開演中のスタジオの状況は、画像2のような宇宙船・星空モードになっています。
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画像1 小長井会長挨拶 |
画像2 スタジオ状況 |
オープニング映像「ダムの夜明け」 ダムマイスター 尾山玲
数十の美麗なダムが写真・動画で流れ、魅力的なダムの姿を堪能できました(画像3、4)。
早速の大反響で、Webのチャットに視聴者の方から多くの好意的なご意見が寄せられました。
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画像3 動画最初の丸山ダム |
画像4 動画最後の鳴子ダム |
第Ⅰ部 「時空を超えてよみがえるダムの旅」(ダムマイスター2名による夜話)
夜話1「“どこでもダム”で考えるダム開発・再開発」 ダムマイスター 高根たかね@ダム日和
人気WEBの「どこでもダム」の紹介から始まりました。2009年エイプリルフール企画で開設したサイトで、地図上にダムを造りたい場所をマーカーで指示するとダムが出来て上流側にダム湖が形成されるというものです(画像5)。
次に水力発電の視点から、包蔵水力について語られました。技術的・工学的・経済的に開発可能なものを包蔵水力というが、約33年前に実施された第5次包蔵水力調査結果によれば、日本には既にダム建設に適した場所は少ない、という状況を語られました(画像6)。
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画像5 どこでもダム |
画像6 夜話1の後の意見交換タイム |
夜話2「大正期までに竣工したダムの再開発」 ダムマイスター 夜雀
ダム再開発の目的を機能の面から分類(画像7)し、各々の事例を写真とともに紹介されました。中には再開発を重ねて四代目となる立梅用水井堰(画像8)もありました。
大正期までに竣工したダムの再開発については、大正時代までに築堤されたハイダム305基のうち、狭山池ダム(画像9)・曲渕ダム・峰山第二ダム(太田第一~第五ダムの貯水池内)・千苅ダム(画像10)を綿密な取材のもとに紹介されました。
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画像7 ダム再開発を機能で分類 |
画像8 立梅用水井堰 |
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画像9 狭山池ダム |
画像10 千苅ダム |
第Ⅱ部 大手建設会社エースエンジニアによるダム再生夜話4題
夜話3「ダム用PSアンカーなどのダム再開発(千本ダムと川俣ダム)」 大林組 柱征宏
千本ダムは約100年前に築造されたダムで、国指定登録有形文化財です。文化遺産としての姿を保持する必要がありダム用PSアンカーにより堤体の耐震補強を行った国内初の工事です(画像11、12)。
川俣ダムは日本一の縦長形状のアーチダムです。完成から約50年を経た今、基礎岩盤の再補強が必要と判断され、国内初の大口径(削孔径216mm)・長尺(max73m)のPSアンカーが施工されました。急峻な地形であることから、作業構台・足場も圧巻です(画像13、14)。
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画像11 千本ダム |
画像12 同左 アンカー施工状況 |
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画像13 川俣ダム |
画像14 同左 足場状況 |
夜話4「ダム再開発と鹿島建設(新桂沢ダムと鶴田ダム)」 鹿島建設 福井直之
鹿島建設のダム再開発実績42件のうち、最近施工した2件の施工事例が紹介されました。
新桂沢ダムは重力式コンクリートダムの堤体嵩上げ工事です。新しい取水・放流設備工事に始まり、堤体下流面にコンクリートを腹付けする施工が紹介されました(画像15、16)。
鶴田ダムは堤体内に放流管を増設する大規模な再開発工事です。上流貯水池側の施工では、大水深下での飽和潜水工、浮体式仮締切工法が採用されました。また、通年施工のため、洪水時には退避が必要となる等、リスク管理も重要です(画像17、18)。
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画像15 新桂沢ダム 新取水放流設備 |
画像16 同左 下流面コンクリート腹付 |
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画像17 鶴田ダム 改造工事概要 |
画像18 同左 洪水時の退避 |
夜話5「鹿野川ダムと千五沢ダムの再開発工事」 清水建設 長谷川悦央
鹿野川ダムではトンネル式洪水吐きの新設工事です。上流側貯水池内の立坑から下流側の新設放流トンネルに向けての迎え掘り工事が最も施工上の難所でした(画像19、20)。
千五沢ダムも洪水吐きの改造で、治水機能を付加するためにラビリンス型に改築します。洪水期を避けて冬季のみの施工のため、既に6シーズンが経過して完成は令和6年の予定です(画像21、22)。
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画像19 鹿野川ダム 施工時の貯水池状況 |
画像20 同左 上流迎え掘り施工状況 |
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画像21 千五沢ダム 6シーズンの進捗 |
画像22 同左 現況 |
夜話6「大成建設が誇るダム再開発(五十里ダムと天ケ瀬ダム)」 大成建設 土肥聡
五十里ダムでは、取水設備改造における堤体コンクリート削孔工事において、新たに技術開発した「無振動大ブロック分割引出工法」が紹介されました(画像23、24)。
天ケ瀬ダムもトンネル式洪水吐きに改築する工事ですが、このうち上流側貯水地内での水中岩盤掘削作業において、仮桟橋不要・潜水作業不要・水中を可視化する技術開発「シャフト式遠隔操縦水中作業機」を紹介されました(画像25、26)。
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画像23 五十里ダム① |
画像24 五十里ダム② |
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画像25 天ケ瀬ダム 洪水吐き改造計画 |
画像26 天ケ瀬ダム 水中岩盤掘削図 |
(総括)
夜話7「世界のダム再開発、夢のツアー」 ダム技術センター (監督)川崎秀明
Webでのトラブルを見込み時間調整を兼ねて、監督の夜話は最後にしました。実際に、動画が途中で切れてweb会議ソフトが再起動となったりして、最後の13分になってしまいました。
内容は総括を含むもので、様々あるダム再開発を目的や海外との違いをざっと示した後に(画像27、28)、夢の再開発ダム訪問ツアーを地図上に示し、世界のダム再開発事例が多数紹介されました(画像29、30)。
そして、21時ちょうどにあわただしく、最後のセレモニーに入り、尾山玲さんの音頭で見事にネット上での手でハートを胸に掲げながらの「ダ~ム、ラ~~ブ~」が斉唱されました。
最後は、アナウンサー役の戸花さんから、優しく「これで終わります。・・・・・」で、参加の皆様はWeb会場から退出となりました。
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画像27 ダム再開発の分類 |
画像28 ダム再生技術の比較 |
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画像29 世界ダム再開発夢ツアーの企画地図 |
画像30 ギルボアダム |
4.まとめ
参加者の状況は、定員300名に対して参加申込者240名で、実参加者は19:30頃に最大156名でした。一昨年の対面式開催での観客数は83名に比べれば倍増した様ですが、WEB講演方式の効果と思えます。また、チャットによりその時に交信できることで、質問回答が適時できること、意見が吸い上げやすくなったこと等もWEB講演方式の利点ですが、その中でアーカイブ化の要望がありました。
今後の改良点として、シナリオ上の工夫すべき点や動画のトラブル対策とかありましたが、全体的には、よくやってくれたという感じの評価が多く、やって良かったと思います。
最後に、MC等で活躍して頂いたダム愛好家・ダムマイスターと講師各位、後援団体各位(日本ダム協会、建設コンサルタンツ協会、ダム工事総括管理技術者会等)、及び事務局のダム技術センターの協力に大いに感謝するとともに、ご支援頂いた皆様に対して心からの謝意を表します。
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画像31 Web参加の協力者各位の笑顔の画面 |
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画像32 胸にハートの輪を作っての恒例のダムラブで最後を締めました |
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