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ダム工学会20周年記念シンポジウム

学術講演『コンクリートダムと台形CSGダム』
独立行政法人土木研究所 理事長 魚本 健人

          


 今日は、ダムの専門の方々の前で話をするというので大変緊張しております。また、近藤先生の後でしゃべるというのを知らなかったので、いやいや、これは大変なことだなというふうに思っております。
 一応、題名は「コンクリートダムと台形CSGダム」となっておりますけれども、私は今年の8月から研究所に来たばかりで、まだ研究所の研究内容がよくわかっておりません。誠に申しわけありません。特に、ダムに関しては、ダムグループの研究員が研究所の中にたくさんいるのですけれども、その人たちとのいろいろな意見交換がまだ十分できていないものですから、本日話す内容は東大の名誉教授としてしゃべらせていただきますので、よろしくお願いします。

図−1


 これは、皆さんご存じのことなので、今さらということを思われるかもしれませんが、まず現在のダムの現状はどうなっているかということについて説明させていただきます。(図-1参照)

図−2


 図-2に示されているのが世界のダム、これは2003年のデータですけれども、ダムの総貯水量の上位10件を示したものです。御覧のように、ジンバブエ、ロシア、エジプト、ガーナ、カナダ、ベネズエラ、中国等々いろいろ挙がっておりますけれども、ここで見ておわかりいただけると思いますが、ダム1つの総貯水量は最大1,800億m3ぐらいでございます。

図−3


 我が国の場合には、図-3に示してありますが、一番貯水量が大きいのは、徳山ダム、その後、奥只見ダム等々が続いています。ご存じのとおり、我国のダムは世界と比較しますと桁が全然違うことがわかります。最大でも6億m3ぐらいです。

図−4


 ということはどういうことかということで、わざと図-4をつくっておいたのですけれども、世界のトップのほうのダムを日本のダム、一応、グラフの上ではこうやって点みたいになっていますけれども、と比較するとこれぐらいの差がございます。規模が全然違うということはご覧のとおりです。

図−5


 ですから、図-5に示しますように、例えばダムの総貯水量として、日本のダムの総貯水量は204億m3なのですけれども、アメリカにあるフーバーダム1個、これが400億m3です。だから、日本のダムの貯水量を全部合わせてもフーバーダムの半分ぐらいにしかなりません。琵琶湖の貯水量が275億m3ですから、両方合わせても500億m3ぐらいですから、例えばアメリカでの総貯水量の7分の1、その程度のものなのです。
 我が国と諸外国の河川の違いを見るとわかりますけれども、我が国の川は、非常に河口から短い。日本は狭いので、河川がゆったりと流れるというようなものではございません。ですから、一気に海に流れてしまう。それと、山が多いですから、川幅も当然狭いし、結果的にダムがあっても、貯水容量は極めて小さいということになります。
 先ほど言いましたフーバーダムは。アメリカのコロラド州にあるダムですけれども、先ほども申しましたようにこのダム1個で日本にあるダムのすべての水量を足したものよりも多いというダムです。逆に、このダムがあったからこそ、例えば皆さんが知っているラスベガス、カリフォルニアが存在する。要するに、このダムの水が全部供給されているからそういうことができるという、そういうダムでございます。
 皆さんもよく知っているアスワン・ハイ・ダムでは。ロックフィルダムで、エジプトにあります。貯水池は、もうほとんど海みたいに見えます。それから、三峡ダムは中国にあります。2009年に完成しましたが、そういう意味では最近できたダムですけれども、これもものすごく大きな貯水池が見られます。
 一方、日本で一番貯水量が大きな徳山ダム、これは水資源機構さんが管理されておりますけれども、ロックフィルダムとしても堤体積が大きいものであります。それでも貯水容量が約6.6億m3ぐらいです。
 奥只見ダムは電発さんが建設されたコンクリート重力式ダムすけれども、日本では2番目に大きな貯水量を誇っています。私はよく学生を連れて、夏の間に見学に連れていきます。ダムを見るだけではなくて、このダムに至るまでのトンネル、それは二十何kmあるのですが、それが全部トンネルです。それもほとんどが掘っただけの状態、コンクリートライニングなんか全然していないものがほとんどですが、そういうところです。

図−6


 図-6は国土交通省が管理する宮ヶ瀬ダムです。私は、神奈川県にも住んでおるものですから、このダムをよく見に行きました。すごく立派なダムだというふうに思いますけれども、総貯水量は2億m3ぐらいです。これが、東京、それから神奈川に水を供給するというかなり重要な役割をしています。

図−7


 じゃ、ダムは一体どのぐらいつくられているかというと、図-7に示しますが、つい最近まで見ると、2,500個ぐらい、すごい数があります。
 トータルの、累積の有効貯水量、有効貯水量というのは総貯水量の大体8掛けだと思っていただけばいいと思いますが、土砂その他が堆積して残った容量です。この有効貯水量は全部で200億m3ぐらいです。

図−8


 図-8に都道府県別に、総貯水量と有効貯水量の関係を示していますが、有効貯水容量は総貯水容量の大体0.8掛けぐらいの、「y=0.7907x」となっています。

図−9


 戦後建設されているダムの個数と累積有効貯水量との関係は、図-9で示しましたとおりです。最近つくられているダムの大半は図-9に示すようにこの近似直線にほとんどのっています。すなわち、最近建設されている日本のダムの有効貯水量はダム1つ当たり大体1,000万m3 程度です。しかしそのばらつきは地域によって異なります。

図−10


 図-10は各都道府県の有効貯水容量とダム数を示したものです。この図では都道府県ごとにダムの数、この折れ線がダム数、それから棒グラフで書いたのが有効貯水量なのですが、都道府県別に見ると、一番左が北海道で、一番右が沖縄です。見るとわかりますようにダムの数が非常に多いところと、数はそんなにないけれども、貯水量が多いところと、いろいろあります。

図−11


 有効貯水量の全体の平均が、先ほど言いました1,000万m3ぐらいですが(図-11参照)、例えば、京都、茨城、神奈川、東京等は、ダムの数が少ない割には、結構それなりの貯水量があります。これはどういうことかというと、ダム1個当たりの平均有効貯水量が大きいからです。また逆に、岡山等は、それが小さいということがわかります。

図−12


 ダムの個数だけで言うと、非常に多くあるのが、例えば、北海道、新潟等々でございますけれども、逆に少ないのは九州等々です。東京や関東近くはほとんど数がない。20個以下です。(図-12参照)

図−13


 しかし、有効貯水量で見ると、図-13にあるとおり例えば九州地区、それから四国、中国、中部、この辺は有効貯水量としてはかなり少ないということがわかります。

図−14


 都道府県別のダム1個当たりの有効貯水量を示したのが図-14です。これを見ると、関西から西ですね、こちらのほうは、非常に小さいことがわかります。逆に、こちらの東京周辺、それから東北周辺は結構大きい。全国の渇水状況等の比較をすると、やはりいつも水が足らないと言われているようなところが、実は非常にダムの貯水量も少ないということになっております。

図−15


 なぜこんなふうになっているかということを世界との関係で見てみますと、この図-15は世界の河川の年間総流量とダム貯水容量です。左がナイル河のアスワン・ハイ・ダムです。青でかいてあるのが年間の総流量、それからこちらのピンクでかいてあるのがダムの貯水容量。だから、ダムの貯水容量が非常に大きくて、年間の総流量はかなり少なくなっております。

図−16


 日本の場合はどうなっているかというと、実はちょうど逆転しています。日本は図-16に挙がっていますように、貯水容量そのものは非常に少なくて、総流量が非常に大きい。すなわち、沢山の雨が降っているのですが、余りダムに貯め切らないでそのまま流れていくというような状況になっていることがおわかりいただけると思います。

図−17


 こういうような状況を一応踏まえまして、今、台形CSGダムという新しい型式のダムが非常に注目されております。

図−18


 ご存じのように、今現在使われているダムの形式としては、重力式コンクリートダム、それからフィルダム、この2種類が一番多いわけでございますけれども、図-18の左側が重力式コンクリートダムで、右がフィルダム、見てもわかりますように、重力式コンクリートダムのほうがはるかに断面積として小さいもので済みます。フィルダムのほうがかなり大きな断面積が必要になります。
 実は、台形CSGダムというのが今現在いろいろなところで建設されておりますけれども、どうしてそんなものができたかというと、今まで以上のコスト縮減と環境への配慮ということが望まれてできてきたものであります。

図−19


 従来のコンクリートダムは、ご存じのように、堤体面積が最小となるような堤体を設計している。なるべく貯水する水に対して、それなりの安全性は持っているけれども、過大な堤体にしないということになります。そうすると、どういうことが起こるかというと、高品質なコンクリートが必要になるということになります。高品質なコンクリートが必要ということになると、どうなるかというと、良好な材料と厳密な施工管理が必要とされます。(図-19参照)
 その結果として、ダムそのものはちゃんとしたものを造ろうとすると、良好な材料の確保が非常に難しいということになり、そのためコストがどうしてもふえてしまう。また、例えば骨材その他に使う材料をそこで入手しなきゃならない等々がありますので、環境負荷も増大するというようなことがございます。

図−20


 また、コンクリートダムの建設工事費の内訳を、例えば、図-20に示してありますが、全体が100%とすると、コンクリートダムではコンクリート工が約60%、それ以外が40%、この中には、基礎処理だとか掘削、それから型枠等々、こういうものが入っています。濁水処理も入っています。
 コンクリート工の中の実は大半が骨材に関係するものです。コンクリートは、セメント、骨材で大体できるわけですけれども、打設にかかる費用はそれほど大きな割合を占めているわけではありません。この骨材関連の割合が非常に多いのです。なぜそうなるかというと、骨材を現場に遠くから運んでいくというのではどうしても金がかかってしようがないので、現地近くで当然骨材を製造するということになります。それから、原石山の掘削等々が入ります。こういうものが骨材製造の中に入っているので、骨材関係の費用がかなり大きなウエートを占めています。

図−21


 そこで、皆さん方が考えられた方法というのがCSG工法というのと台形ダムというものを組み合わせるという考え方でございます。
 CSG工法というのは、セメントで砂と砂利を一緒にしたものというような言い方をしています。CSGは、「Cemented Sand and Gravel」という略なのですけれども、現地で簡単にとれる材料を有効に使いましょう、それから骨材を今までのように、通常のコンクリートに使う骨材のような厳密なものではなくてもっと低品質なものも利用してしまおう、それと急速施工してしまおうということを狙ったものです。
 その結果として、コストが下がるし、環境の保全も割と容易にできるだろう。ただ、そういうふうにすると、問題点がいろいろ出てきます。所要強度が余り高いものは対応できなくなりますから、形を台形にすることによって対応する。それから応力の変動が小さいことを考慮して、十分な安全性を確保することなどを考えて、台形CSGダムというのが開発されたということが言えます。そのためには、設計・材料・施工の合理化が必要になるということになります。(図-21参照)

図−22


 台形CSGダムの考え方としては、図-22に示しますが、手近にある材料からCSGを製造する。例えば、ダムをつくるところに既に堆積している砂利等をそのまま使用するというようなことも1つですし、新たに原石山を開発する場合でも、良い骨材を出すまで下のほうまで掘るということをしなくても、ある程度のところで妥協するというやり方ができます。それから、CSGの強度に応じた堤体の設計、それから施工設備の簡略化と急速施工ということを実は狙っております。

図−23


 こういうことで、設計と材料と施工の合理化をすることによって、耐震安定性は向上するし、材料の所要強度も小さくすることができることになります。材料の合理化ということで、堤体の所要強度を低く抑えることで、低品質な材料の利用が可能となります。簡単に言うと、材料選定の幅が広がりますので、いろんなものが使える。それから、簡易な施工設備で迅速に施工するようにしましょう、こういう話になります。(図-23参照)

図−24


 実際に今現在行われているCSG工法はどうなっているかというと、ダムサイト周辺の利用可能な材料を、特に発破その他を用いて原石山で大量の骨材をつくるということをしなくてもできるような方法を、うまく活用します。それから施工を簡略化して連続打設することによって急速施工ができること、それから、原石山、施工設備の簡素化によってコスト縮減、こういうようなことを狙ったものであります。

図−25


 コンクリートダムと台形CSGダムの違いということについてご説明しましょう。(図-25参照)
 ダムの専門家である皆様に今さら説明することではないんですけれども、学生さん相手だったならばこういうことが大事なので少しお話しさせて頂きます。

図−26


 コンクリートは何でできているか。セメントと水と砂と砂利、これを混ぜて締め固めて、打設して、養生して、固まらせた材料ですということになります。(図-26参照)

図−27


 だから、水とセメントと砂、砂利、こういうものを例えば図-27の右上の写真に示したミキサーで練り混ぜて、コンクリートをつくるというのが基本です。だけど、大事な点は何かというと、セメント、砂、砂利、水もそうですが、それぞれにこういう品質でなければならないという条件がついています。その条件をちゃんと満足しないと、それは細骨材とか粗骨材と言わないことになっています。

図−28


 だから、通常のコンクリートですと、図-28に示すように大体、細骨材、粗骨材で60から75%ぐらいの体積を占めております。当然、骨材にはいろんなものが使われますが、工場製品というのはセメントだけです。ただし、細骨材、粗骨材も、現地でプラントをつくって骨材を生産するということを考えると、それもある種の製品であります。

図−29


 ところが、CSGの場合は、そこまで厳密にしなくてもいいですよ、ある程度以上のものは排除するということをするだけで、そこにあるものをそのまま使ってしまいましょうという話になっております。(図-29参照)

 実は、私、土木学会のコンクリート委員会の委員長をさせていただいておりまして、2007年に、もう古いものになりましたけれども、コンクリートの標準示方書というのを出させていただいています。このコンクリート標準示方書には、「ダムコンクリート編」というのがあるのですが、実はこの中に「付録」として、台形CSGダムの話が書いてあります。

図−30


 通常使われているダムコンクリートは、ダムの構造の安全性と貯水性能を確保するために必要な強度、水密性、耐久性及びその他の品質を持っていなければならない。それからダムコンクリートは各部位に要求される性能に応じて満足するように配合区分を設けなさい、それから作業に適するワーカビリティーを有する範囲でできるだけ硬練りコンクリートとしなさい。このようなことがコンクリートの品質の基準になっています。(図-30参照)

図−31 図−32


 例えば、固まらないコンクリートでは、コンシステンシーについては、有スランプコンクリートの場合には40mmふるいでウエットスクリーニングした資料で2cm〜5cmぐらい、それから、スランプゼロのRCDコンクリートではVC値を20秒程度というような数値の中に入らないといけないということになっています。(図-31参照)それから、空気量もコンクリートの中にはこれだけ入っていなきゃだめだと、特に耐凍害性が要求される部位にはこれぐらいないとだめだということになっています。(図-32参照)

図−33


 硬化コンクリートも、当然、設計基準強度は構造計算で求めたよりもかなり大きなもので、安全率を掛けたものにしなさい。それから、配合強度は、実際のコンクリートの品質変動を考慮して、割増し係数を掛けて、より高目の品質のものにしなさい、こういうふうになっています。(図-33参照)

図−34


 固まったコンクリートの耐久性は、少なくともダムを利用している間、例えば100年なら100年、その間、構造安全性と貯水機能が保持できることが大事です。凍結融解、それから化学抵抗性等々、こういう耐久性もなければならないということになっています。(図-34参照)

図−35


 ここで、結構大事な点が何かというと、実はコンクリートの耐久性というのは、特に耐凍害性の問題が一番大きなものなのですけれども、耐久性を必要とする部位、すなわちコンクリートダムの一番表層部分については、十分な耐久性がなくてはならないということになります。この耐久性を要求するとどういうことになっているかというと、コンクリートの水とセメントの比が図-35の真ん中にあがっていますが、60%、その他の場合でも65%というのが規定されています。すなわち、コンクリートの水セメント比がこれらの値を超えることはだめということになります。
 実は、CSGの水セメント比は100%を超えています。だから、逆の言い方をすると、CSG材料はコンクリートとみなせないということになります。

図−36


 コンクリートの材料、これはいろいろな規制があります。図-36にあがっているように、例えば骨材だけでも、密度、吸水率、粒度、耐久性、有害物の含有量、細骨材も同じです。さらに、すりへり抵抗性だとか、こういうものも全部条件に入っています。

図−37


 実は、土木学会のコンクリート委員会で一番もめたのは何かというと、CSGはコンクリートかどうかということです。要するに、コンクリートの標準示方書の中に入れるべきかどうかが議論されて、CSGをコンクリートとみなさないとされたわけですが、その最大の理由は、図-37にあがっていますけれども、CSG材に使用する骨材は少なくともコンクリートの骨材と適合していません。それから、水結合材比が、許容されているコンクリートの値よりも非常に大きくて、ばらつきも大きい。結合材料が非常に少なく、強度も低い。耐久性も低いということになります。それから、計量とか練りまぜ、こういうものもコンクリートに比べるとはるかに簡易に行われております。

図−38


 だから、こういうものはコンクリートじゃないだろうという話になります。だったら、どうするのかというのが議論でなったのですけれども、そのときに一つの考え方として、これは新しい材料である、コンクリートじゃないかもしれないけれども、新しい材料である。適用方法などを間違えなければ、非常に可能性があるし、今後の新しい材料として発展が期待できるじゃないかということで、このCSGを少なくとも示方書の中の本文ではなくて、付録として入れましょうということで了解がとれました。そのためには、設計材料・施工の合理化ということが必要になりますが、逆の言い方をしますと、コンクリートだと言ってしまうといろいろな規制が入りますが、CSGであるということになると、その規制から外れてします。(図-38参照)
 ある意味では、CSG材料の規制は今の段階ではまだありません。しかし、これからたくさんの例ができてしまうとまた違うものになるかもしれません。今の段階だといろいろなことが試せる、ある意味では技術者としては一番おもしろい材料であります。

図−39


 今の示方書の中では、例えば用語の中で、台形CSGダムというような表現だとかCSG材、CSGとは何か、こういうようなものを一応全部入れてございます。それから、CSGの強度というようなものも挙がっております。(図-39参照)

図−40 図−41

 ご存じとは思いますけれども、今までアーチダムを除けば、重力式ダムでコンクリートの強度が問題になったことはありません。最近、耐震の問題で部分的に大丈夫かとかいう話になりますけれども、ほとんどのものが、条件が耐久性のほうが厳しいものですから、耐久性をクリアすれば、結果的に強度はみんなクリアするという形になっています。それが、今度実はCSGになると、ぎりぎりなところをやることになります。そこら辺が、今後ある程度、さらにいろいろ検討しながらやらなければいけない問題だろうというふうに言えます。(図-40、41参照)

図−42

 CSGをつくるためには、原石の材料、河床砂礫などをそのまま使っていいと、掘削岩も使っていいですよということになります。これも必要に応じてオーバーサイズをカットし、若干ふるい分け等々やりますけれど、それでCSG材料をつくってしまう。セメント、水をこの中に入れて練り混ぜますが、簡易な方法でもかまいません。簡易設備で練って、それを堤体材料として使うことができることになります。(図-42参照)

図−43

 CSG材の例えば粒度分布、そういう意味では、細骨材、粗骨材というふうなイメージとはちょっと違うのですけれども、粗いものと細かいものの粒度分布を図-43に示してあります。横軸がふるい目、縦軸が加算通過率ですけれども、結構広い範囲に分布していることがわかります。

図−44

 例えば、これに一定のセメント量、単位セメント量が例えば80kgなら80kg、60kgなら60kgだけを入れて、そして水の量を変えていくと、図-44のグラフのような形になります。どういうことかというと、先ほど言った粗いものと細かいもの、上の赤い曲線が粗い場合、下の青い曲線が細かい場合ですけれども、これでCSGをつくると、単位水量を変えていけば強度はそれに応じ図-44に示すように変わります。

図−45

 そこで、ひし形という考え方が出るようになりました。どういうことかというと、手に入る材料に一番粗い場合と一番細かい場合があったとすると、この単位水量が図-45にしめす網をかけたこの範囲にさえ入っていれば、CSGの強度は所用の強度を満足するであろうということになります。 この中の一番低い値を基準にすれば、ダムの設計もできる。材料としてそれ以上の強度があるだろうということであります。

図−46 図−47

 そこで、実際に粒度分布はどうなっているか。図-46は北海道の当別ダムの事例ですが、粗いのと細かいのと平均的なものがありますけれども、こういう粒度、単位水量のときに強度はどうなったかを示しています。図-47に示すように、このひし形におけるCSG強度としては、2.3N/mm2というようなことになります。単位水量は110kg/m3から140 kg/m3、かなり広い範囲になっています。

図−48

 先ほどの図-44に示したように、CSG材が単位水量によってなぜ強度が上がって下がるようなことになるのかというと、これは、実はセメントとかスラグの粉末だけを使っても同じことが起こります。図-48は、横軸に水とスラグの比、縦軸に単位体積重量をとってあります。そうすると、スラグだけ、要するに水が全然入っていないというときは、かなり単位体積重量が小さい。それにだんだん水を入れていくと、曲線に示すようにこういうふうに上がっていきます。このように単位水量によって大きく単位体積重量が変わります。

図−49

 何が言いたいかというと、単位体積重量が小さいこの部分というのは空隙が物すごく多い。単位水量が大きくなるとようやく理論的な、いわゆる粉と水の体積でちゃんと計算したものと一致します。その状態は何かというと図-49です。水が入っていないとき、左上の写真ですが、これは非常に緻密に見えますけれども、約半分が空隙です。それに若干ずつ水を加えていくと、「だま」ができます。この「だま」ができるということはどういうことかというと、その「だま」の部分はちゃんと密実になります。しかし、「だま」と「だま」の間は密実にはなりません。
 この(e)という段階、(e)というのはどういうことかというと図-48の曲線状で単位体積重量が実測値と理論値一致する範囲ですが、ここまで来ると一気に一体となります。皆さんがよく知っているペースト状になります。

図−50


 実は、これはコンクリートも同じです。コンクリートの水セメント比と単位体積重量の関係は、最初、水が少ないと図-50に示すように単位体積重量は小さくなっていき、さらに水が増大すると単位体積重量が大きくなっていきます。

図−51


 図-51は、単位水量を変えたコンクリートの外観です。この写真ではよくわからないんですが、水セメント比が小さいと、同じ体積の中に詰めても空隙が非常に多くなります。だから、結果的に強度が出ない。ところが、水セメント比がある値を超えると強度が出るようになります。すなわち、理論値と合うようになります。水セメント比55%の方ですね。

図−52


 これが、実は先ほどのCSGにおけるひし形になることの考え方の基本です。単位水量が少な過ぎても、多過ぎても強度低下が起こります。単位水量が少ないとペーストの強度は上がりますが、空隙量がふえる。だから、単位体積重量も落ちるし、強度も低下します。逆に、多過ぎると空隙量は少なくなりますが、今度はセメントと水の比がどんどん大きくなってしまいますので、セメント濃度が小さくなり、これが原因で強度等も落ちますということになります。(図-52参照)
 実は、ここで挙がっているひし形という考え方は、図-50の、(c)から(e)の範囲です。この間の話を言っています。そのことをご理解いただければすぐわかっていただけます。

図−53 図−54


 固まったCSG材は、ぱっと目見たところ、コンクリートとほとんど変わらないようなものに仕上げることが可能です。(図-53参照)CSGの製造設備として色々なものがありますけれども、非常に簡単に、図-54にあるようにベルコンで骨材を供給して、セメント等を投入して、水量調節をしたあと練りまぜるというようなやり方等が行われています。

図−55 図−56


 台形のダムにするということはなぜかというと、所要強度が低くて、応力の変動が小さい、安全度が高いということが挙げられます。(図-55参照)従来の重力式コンクリートダムですと、図-56に示すように、こういう三角形になっておりますけれども、この場合ですと上流側のつけ根の部分に最大の引張応力が出ます。台形ダムのときは、これほどは出ません。そのかわり、最大圧縮応力が下流側のほうで出ます。

図−57 図−58


 必要な強度の算定としては、図-57に示しますが、圧縮強度と引張強度の比を幾つにとるかということによります。この値を7というようなことにしますと、図-58で従来の重力式コンクリートダムの所要強度を7.56N/mm2と書いてありますが、台形ダムだと1N/mm2程度で済むということになります。このように断面を変更すればCSG材料の特性をうまく利用できることになります。

図−59


 実際に、設計応力の計算をしても、重力式のコンクリートダムですと、図-59にあるようにこの一番上流面に非常に大きな引張応力が発生しますけれども、台形ダムだとそれが起こらないというところがメリットとして挙げられます。

図−60


 また、変形も、従来の重力式コンクリートダムですと、図-60に示すように曲げ変形が主となりますが、台形CSGダムですと、これがただ横にずれるような剪断変形のほうが大きくなります。

図−61


 ということで、実はコンクリートとCSGは似て非なるものだけれども、よく似ています。ただ、CSGの持っている強度が非常に低いことを考慮して台形にしてあげるということでうまくCSGを使うことができることになります。(図-61参照)

図−62


 設計の方法も、従来の重力式コンクリートダムですと、例えば、内部応力の計算の基本は「梁理論による簡便法」みたいなのが使われておりますが、台形CSGダムの場合だと、基本的には「有限要素法」で計算するというような方法になっています。(図-62参照) それから、地震に対しても、重力式コンクリートダムでは「震度法」ですが、台形CSGダムでは「動的応答解析法」がベースになっています。これはなぜかというと、先ほども言いましたが、従来の重力式コンクリートダムでは非常にコンクリートの強度が高いものですから、この方法でも十分対応できるとされているからです。(図-62参照)

図−63


 結果的に、台形CSGダムでは、図-63にあるように外側は保護コンクリートで巻きますが、中はCSGと、今のところこういう形式のダムになるものが多くなっております。

図−64


 一例として図-64に、建設中の当別ダム(北海道)の写真を示します。見てもわかるように、表層面のところはプレキャストコンクリートと普通コンクリートを使っています。その内側にCSG材が使われています。(図-64参照)

図−65


 図-65は嘉瀬川ダム(佐賀県)の副ダムを施工中の写真です。嘉瀬川の副ダムでのCSGを使っている例でございますけれども、これも同じような形で実施されております。

図−66


 台形CSGダムというのは、現在の状況ですと、コンクリートと比較すると規制が少ないこと、そのため、設計、材料、施工方法を工夫することができます。(図-66参照)

図−67


 そのかわり、気をつけなければならないのは、致命的な失敗がないように注意して設計施工することが大事です。それから従来のコンクリートダムと比べると、大量に連続打設ができるということが、大変大きなメリットだと私は思っております。(図-67参照)
 事実、当別ダムを何回か見に行かせてもらいましたが、見る見るうちに打ち上がっていくという印象で、それはすごかったですね。ほかの重力式ダムのときはそんな速度ではなかった。

図−68


 それから、図-68に強度と耐久性が小さいと書いてありますが、その最大の理由は、セメントが少ないということですけれども、ぜひ知っておいていただきたいのは、従来のコンクリートダムに使われているコンクリートは、強度が問題になることはまずなかった。それはなぜかというと、耐久性を満足しようとすると、自動的に強度が出てしまう。RCDで使われているものでも、大体強度としては15N/mm2以下になることはまずない。しかし、CSGではセメントが少ないので、強度で配合が決まるという、そういう意味では、コンクリートダムと非常に大きな違いがあります。

図−69


 それから、耐久性を外部コンクリートでカバーして、形状で強度をカバーしているから、接続部の施工の確実性が非常に重要になると考えられます。それからメリットとしては、コストがかからない、大量の材料を短期間で打設できることがあげられます。構造設計をうまく活用すると、よい品質のダムを短期間で建設することができるということもあります。我が国以外でも、例えば開発途上国等のサポートに十分なるのではないかということが言えます。(図-69参照)
 あと、マスコンクリートのようなセメント水和熱の問題を余り考慮しなくてよいということになりますけれども、そのかわり、温度等による硬化後の収縮等は考慮しなければならないだろうということがあります。
 当然、問題点もまだいろいろありますけれども、CSGはかなりこれからの有望な建設材料として使えるのではないかと思われます。

図−70


 まとめとしまして、CSG材料は、コンクリートとセメント改良土の間に入る新しい材料で、これからの建設材料として適材適所で活用することが望まれます。台形CSGダムのように構造設計等とうまく連携すれば、種々の活用方法が期待できると思われますので、ぜひダム工学会でもこういう形式のものを大いに活用されるということを願いたいと思います。(図-70参照)

図−71


 どうもご清聴ありがとうございました。(図-71参照)

 

 

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