一般社団法人ダム工学会
 
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ダム工学会20周年記念シンポジウム

パネルディスカッション
「ダム工学の今後の発展と市民の期待」

Q3 1,000年後の子孫に美しい国土を引き継ぐためには

          

○コーディネーター(京都大学 教授 角 哲也)
 それでは、情報発信ということで伺いましたので、今後に向けてこのダム工学会、あるいはダムの技術なりですね、ダムだけではない、そういう流域の中での国土の保全というものを、どのように図っていくのかについて、考えてみたいと思います。時間軸としては、ここにあります1000年ということで、100年、もちろん次の100年ではありますが、その先を目指した国づくりの観点でダム工学会あるいは、ダム工学がどのような貢献をしていく必要があるだろうか、という観点で6名の方から、引き続きお話を伺いたいと思います。
 冒頭、入江会長からお話を伺いたいと思います。

○パネラー(一般社団法人ダム工学会 会長 入江 洋樹)
 先程、ちょっとお話しました「ダムが語る1000年物語」っていうのが5年前に作ったダムビジョンで、その時にメンバーとして角先生にも加わって頂きましたので、ダム工学会の中ではもう1000年っていうのが、常識になりつつあります。
 その時に、一つありましたのは、いわゆる狭山池、満濃池というのは、もう1000年以上使っている訳ですが、要するに両方ともそうですけれども、何回も壊れてきているんですね。その度に嵩上げしてきているんです。その時に狭山池は行基さんですよね、満濃池は弘法大師、なぜ高僧がダム技術に詳しいのかよくわかりませんが、昔の高僧はダム技術がないと、高僧になれなかったかもしれませんけれども、要するにそういう人に頼みに行って、わざわざ来てもらって造り直しているんですよね。だから、今まで引き継がれている訳です。その時の先人の思いを、やっぱり我々も引き継いでいて、彼らがずっと引き継いできた1000年以上の話は今後、我々も引き継いでいって、その技術を使って水をためるダムというものをどんどん作っていく必要があるんではないかという事で書きました。やはりそういう思いで、これから我々、ダム技術者もダムに取り組んでいく必要があるんじゃないかということを書きました。また、ダムの技術を引き継いでいく事も今後もやっていこうではないかと言うふうに思っております。
 もう一つは、やはり水問題は日本だけの問題ではなくなってきているんですよね、私は最初の時の挨拶にも言いましたけれども、要するに、世界はもう水不足になることは間違いないですよね。日本で培ってきた技術というのは、世界に貢献していくだろうと思います。先程、魚本先生に話してもらったCSG工法も、もともとは、ダムサイトっていうものが無くなってきている、地質の悪いところでも、材料の無いところでも、作っていけるようなダムを考えようということで始めたんですね。それでああいう技術が確立されてきたんです。 それで世界では、今は地質の良い所でチンチンの岩盤の所でダムを造っていますけれども、これから水不足になってくると、やはり岩盤の悪い所、適地の悪い所で造っていかなきゃなんないだろうと思うんです。そういう意味で技術協力というのは、日本からなんぼでも出来るし、やっていくべきではないかと思います。
 ちょっと余談ですけれども、私は「台形CSGダム」とは言いたくないんですね、「CSGダム」と言っているんです。なぜかというと、世界で持ってって「台形CSGダム」って言ったら、「日本では台形CSGダムだろ?我々はCSGダムを造るんだ」と言ってくる人間が当然出てくる、世界ってそれ程厚かましいですよ、だから台形なんて付けるなって言っているんですけれども、みんな、理論に拘ってますからね、理論よりもやっぱり世界に伝える方が大事だと僕は思うんで、僕は、極力「台形」と言わないようにしているんです。 魚本先生は、「台形」って言っていましたけれども、やっぱり世界で売って出ようと思ったら、「CSG」だけじゃないかというふうに思っているんですが、技術協力はなんぼでもする事はあるんだと思います。
 それから、もう一つは日本は人口が減ってきて、水が余っているかもしれませんけども、そうすると、水を輸出するということも考えたら良いじゃないか、と思っているんですね。そういう技術も考えたら良いと思う。僕の考えてるのは、今あちこちやっているような、ようするに飲料水として売るんじゃなくて、原水で持っていって向こうの国で農業用水に使うか、工業用水に使うか、水道用水に使うか考えてもらいたい。原水を輸出するということをやっぱりやらなければならないのではないか。これはなかなか大変な技術も必要なんですけれども、水の輸出ということも考えていったら良いでないかと思います。世界の水事情は色々であろうと思いますけれども、これからは、日本だけじゃなくて、世界に向けた技術開発というのをやっていくということが大事じゃないかという事も考えてます。
 このようなことは、ダム工学会の中でよく言うんですけれども、余り乗ってきてくれないんで、もう少し言おうと思ってますが、これからはやっぱり世界が相手ではないかというふうに思っていますので、頑張っていきたいと思います。

○コーディネーター(京都大学 教授 角 哲也)
 ありがとうございました。まさに憂いの技術と言うんですかね。日本が貢献できる何を持っているかと、それを伸ばしていくと言う事ではないかと思います。それは、日本の技術力を高める一つの大事な戦略だと思いますので、ダム工学会の役割でもあると思います。
 それでは、長期的な視点と言う事で、社会的理解を構築していくと言う観点で米田先生からよろしくお願いします。

○パネラー(慶應義塾大学 教授 米田 雅子)
 やっぱり、今日の近藤先生のご講演の一番最初に写真が出ていましたけれど、フーバーダムとか、ああいう時代に戻れば、ダムって地域の活性化のためでもあるし、利水のためでも、エネルギーためでも、洪水防止のためでもあるという事で、本当に世のため人のための仕事だったと思います。今は、ちょっと時期としてはすごく異常な時期なのではないかと私は思っています。メディアの方が、山田先生の方がお詳しいのですけれど、ちょっと変な色眼鏡で見ますが、そういう時期は、もう短いのだと、そんな長い事ではないと思います。この国の長い歴史の中で今までそういう仕事をこういうふうに批難された時期というのは多くはなかった訳ですから、ぜひ、耐えて、熱を忘れずにやって頂けたら、いつかはまた良い、「いつかは」って言ったら怒られますね、自分で次の時代の幕を開けるように頑張っていく、正々堂々の旗を上げていけば良いのだと思っています。
 それで、一つお願いがあるのですけれど、先程「水の話」が入江会長から出ましたが、エネルギーというものの原点にもう一度戻りたいと思います。今、再生化のエネルギーのオンパレードで、「バイオマス」だ、「風力」だ、「太陽光」だ、っていっぱい出ている上に、そこら辺の棚田の水を使った小型水力発電まで出ています。でも、皆さん大きなものをお忘れではございませんか?って、水力発電が一番低炭素なんですよね。だから既存のダムも、もちろん電力ダムとして使われていない物もあると思いますが、そういうのを利用して、もう一回自然エネルギーというのをやればですね、すごいポテンシャルを日本のダムは持っているんじゃないかと思っています。ですからやり方を変えて既存のダムを活かして、小型水力発電を、あちこちでやるのは、それはそれで良い事なんですが、もう少し効率の良い、そういう装置を造ってですね、今の段階では問題があるのは承知しておりますけれども、もう一回ダムの方から自然エネルギーを出すという事も、可能性としてはすごく大きなものがあります。ですから、水力エネルギーに対しても、もう一度目を向けて頂けると有難いかなと思っています。

○コーディネーター(京都大学 教授 角 哲也)
  ありがとうございました。エネルギーのテーマについては、本日の会場に電力関係の方が来られていると思いますし、後でちょっと時間になりましたら私の方からも少し情報提供させて頂きたいと思っております。非常に大事な視点、ありがとうございました。
 それでは、国際的な視点ということもありましたが、いろんな観点があると思いますけれども、山田先生から今後に向けて、ご提案と言いますか、お話頂ければと思います。

○パネラー(中央大学 教授 山田 正)
 今年はベトナムで、非常に大きな洪水災害があってですね、つい数週間前も台風が来て、ハノイとホーチミン市の間に国道が通ってますど、三ヶ月位、洪水によって、鉄道も道路も寸断されているっていう事で、多分今年、12月中には一回調査に行くと思っているんですけども、実はその前に日本の大臣がベトナムに行かれて原発やら新幹線、そして治水事業も売り込まれてますよね。
 2年半前位には、北海道の洞爺湖サミット「G8サミット」がありました時に、「地球温暖化」と「水と衛生」の問題がメインのテーマだったんですね。その時に、中川昭一さん、亡くなられましたけれども、が森元総理から命を受けて水の勉強会をやるって言うんで、水の特命委員会をやりました。全部で50何回やりましたけど、その時に世界の主だったところは中国やアメリカのメイン街道は、あっち側に造らせれば良い。それで日本は普通の道路、普通の治水をやることにして、ダムとか、水力発電、そんなド派手な事は、お隣りの中国にやらしておけば良い。どうせ地続きだからそうせざるを得ないだろう。だから日本は支川、枝川の所をしっかりやるんだ、という話をしておったんですね。そういうふう、中川昭一さん本人も言っています。たぶん政治家の中で一番水を勉強された方かと思うですけど、あの方が亡くなられて今困っているんです、というのは今、政治家で水の事を真剣に勉強してくれる先生がいないですね、もちろん国交省出身の方は別としてですよ。それで、民主党も「水の議員連盟」が出来ています。ようやく出来ました。出来たと思ったら自民党の方でそういう勉強会が無くなっちゃった。水なんて一番基本的な所なのに、何をしてるんだろう?と、非常に情けない思いがするのが現在の政治状況だと思っております。
 それでもう私、昨日、民主も自民党の有力議員に電話かけて私が説明に行くから時間を取ってくれ、て言ったらそれでようやく時間の方がとれました。それは中川昭一さんが主導して来られた「水の安全保障戦略機構」っていうものを創っております。月一回勉強会をやってて、これは超党派でやるんだということで、現在、国会議員の方も数名ずつ、勉強に野党も与党も来ておられますけれども、その中でも「チーム水・日本」という運動があります。これが、先程その内の一つが入江さんが言われたような「水を売ってこられるか」というようなグループがいて、例えば、洪水時にどうせ海まで行っちゃう水を、どこか水タンクを作っといて、巨大タンカーのバラスト水として入れて、売ってくる。川崎市が下水の処理水をオーストラリアに売ってくるっていうような動きが始まっています。これはオーストラリアの露天掘りの所で風が吹くとホコリだらけになるんで、水を撒くための水として、もともと水の無いオーストラリアですので、買ってでも水を撒かないと仕方ないとして、今動き出しています。
 それ以外にも30何チームかありまして、色んな世界に誇れるような技術、一番最先端なのが水の逆浸透膜とかですね、あれを使った技術とか、これから小型水力発電とかですね小水力発電とか、そういうので水絡みで動いているんですけれども。
 ちょっと余談になりますけれども、今年5月に私、中国の水利部、国土交通省河川局みたいな所に呼ばれて行きましたら、中国にはダムが80,000あるそうです、アメリカは70,000あって、日本は先程の魚本先生の話によると2,500という。これ、面積で割るとどっちも同じ位になるんですよ実は。つまり単位面積当たり何個あるかっていうと、実は同じくらいになるんです。中国もアメリカも日本も。不思議なもんで、その内中国は80,000のうち約半分が毛沢東さんの時に造った、モッコで担いで土砂を運んだようなダムが多くて、今の技術水準でみるともつかもたないかわからんぐらいで、だから日本のJICAを通じて「日本の技術でダムを調査・照査するマニュアルと、もたないんだったらどうやったら補強していくかのマニュアルを作ってくれ」っていう事で言ったんですね。そういう仕事がある。それで私も「何か喋ってくれ」って言われて、喋ってきたんですけれども、これだって日本のダム技術者が大いに活躍できる場が目の前にあるんですね。ベトナムのような所にもダム、それから中国の既存ダムの調査・点検・補修っていう大きな仕事、ビジネスがあり得ると思っております。
 皆さん、ご存知でしょうか?中国の胡錦濤主席、英語に訳すとPresident、大統領ですね?胡錦濤主席は清華大学の水利・水電学院出身で、正にこの学会から出たような人なんですね、そういう人と議論しなきゃいかんという訳で、行ったときに「先生から見たら三峡ダムは、どう思いますか?」っていうことを聞かれて、「絶対良い、あれを原発・火力でやったら、はっきり言ってあんな管理能力の無い国が原発・火力をどんどんやったら、三峡ダムの発電は、原発20基分ぐらいになるはずです。」といって、「国内だけで処理できるエネルギーでは、水力が一番良いでしょう」って事を話してきました。
 あと、本当は有識者会議の話をしなければならないんですけれども、もうそろそろダムの検証で地方自治体から、ぽつぽつ代替案を含む案が出ております。それを見るとですね、「やっぱり検証の詰めが甘いかな」という気がして、ここに関係者がおられましたらですね、もうちょっと透明性、説得性のある書き方とかいうのをやってほしいんだと思います。例えば、今後50年間に維持管理費がどれ位かかるんだって言ったら、ダムの場合もダムじゃない場合もみんな40億っていうような書き方があります。どの代替案もとんとんといっているんですよ。色んな代替案があるのに維持管理費が全部同じ数字って、たぶん人件費だけ書いたんじゃないかと思いまして、これじゃ説得にならないと思っておりまして、関係者がおられましたら少しその辺はしっかり書いてほしいと思っています。

○コーディネーター(京都大学 教授 角 哲也)
  ありがとうございました。「チーム水・日本」は私も直接関わってはいないんですが、あの中でダムの堆砂を土砂資源として再生させる、というような事を、水の循環だけではなくて、土砂の資源循環というような事をやるべきだという話しがありまして、そういうことをやられている方と意見交換させて頂いた事があります。こういう観点でも、ぜひ議論を深めていければと思っております。

○パネラー(中央大学 教授 山田 正)
 よく堆砂が大変ってすごく言われちゃうんですけれども、日本で堆砂が大変だなんて、中央構造線辺りのダムが大変な訳ですけれども、後はそこそこの堆砂ということで問題は小さい。もう一つは、放っておけば洪水の時に海に捨てちゃってる土砂を、わざわざ未来の子孫のために貯めておいてくれるっていう凄い事をやってる訳で、あれは羨ましいことなんです。「放っておけば太平洋に捨ててる、日本海に捨ててる、子孫のために取ってる、何が悪いんじゃ」という様なつもりで、言っていただくようにお願いします。もちろん海浜変形、保全は十分に考慮した上でですよ。

○コーディネーター(京都大学 教授 角 哲也)

 なるほど、いわゆる使えるように、ダムでストックするという形だと思います。
 それでは、今後に向けてということで佐野さんからお話頂きたいと思います。

○パネラー(株式会社クレアリア 相談役 佐野 憲次)
 それでは、既存ストクックの有効活用ということで、お話させて頂きます。
  私たちは、ダムは他の社会資本と比べても、極めて高い安全性を要求されていると考えています。また、ダムを支える基礎岩盤や自然が造り上げたダムサイトっていうのは有限であるというふうに、先輩諸氏から教えられて参りました。そういった意味でも、今の既存ストックの有効活用っていうのは、大変重要であるというふうに認識しております。有効活用はどういう事かといえば、まずは出来るだけ長く使うこと、そしてそれを使えるように社会の要求に応えて、機能の維持向上を図る事だというふうに思います。そしてそのためには、多くの地点で実施されておりますけども、ダムの再開発事業というのが大変有効であろうと思っています。ここでは3つ挙げさせて頂きます。
  1つ目は、ダムの嵩上げ及びダムの連携でございます。社会条件や地形地質条件、既設ダムの条件等々を勘案して、貯水容量のアップのために嵩上げが計画される訳ですが、湛水面積の大きい部分の貯水位がアップしますので、当然の事ながら条件さえ許せば、効果的に貯水容量を増やす事が出来ると思います。また、有限であるダムサイトの活用という意味では、既設ダムの直下流等でも再開発ということでも、今後とも可能性があると思います。それから貯水容量のアップという意味では、単独ダムでは無理でも周辺ダムと連携水路等で結び、全体として貯水機能を高めるということも効果的だと思っています。
 2つ目は、取水放流設備の改良であります。ダムのその機能を十分に発揮するためには、取水放流設備の役割というのは大変重要だと思います。社会的な要請も踏まえて、その機能の維持・向上の為、取水放流設備の改良というのは、常に考慮しておく必要があると思います。また、現在のダムは計画以上の洪水に対しても、実際上の調節効果を発揮する事は、十分可能だと思います。今、洪水調節容量には余裕の20%があります。これは、いろんな意味で自然への恐れという考えもありますけれども、こういう余裕も含めて、計画以上の洪水も含めて、いざという時に、より効果を発揮できる洪水吐きなどの施設整備といったものも必要ではないかと思います。
 3つ目は、再開発とはちょっと意味合いが違うかもしれないですけれども、ダムを半永久的に機能させるためには、ダムを休ませることも必要だというふうに思っております。ダムは完成すると、ただちに運用され継続的に使用されます。ダムと言うのは、本当に働き者で「休んだ」という話をほとんど聞きません。ずっと使えば何でもそうですが、アカがたまり補修も出てきます。例えば20年に1回とか、30年に一回とか、どんなサイクルが適正かわかりませんが、半永久的に使うためには貯水位を0にしてダムを休ませ徹底的な整備、オーバーホールを行うことも大事ではないかと思います。そのためには、周辺の既存ストックの効果的な運用や代替施設の整備、また関係者の理解協力など解決すべき課題は多いでしょうが、ダムが休む事で市民の皆さんに多少の不便を感じてもらうことも、結果としてダムと社会の繋がりを得る機会になるんじゃないかと、そういうふうに思っています。

○コーディネーター(京都大学 教授 角 哲也)
  ありがとうございました。今後のダムの再開発ですが、その中での「休ませる」という、こういう考え方は、いろんな方が提案、提起しておりまして、まさに、いわゆる長期的に使っていかないといけない社会システムをどのように永続的に働きかけていくのかが課題です。これはダムだけではなくて、例えば原子力発電所とか、あるいは鉄道システムであるとか、例えば空港だとか、ようするに一つ休ませる時に、じゃあ休んだ間をどのようにそれが持っていた機能をバックアップする。たぶんバックアップシステムがあって、それが出来るんだと思うんですけれども、そのダムのバックアップシステムというのが、どのような形で確立できるか、この辺が鍵ではないかと思います。そういう観点で、いわゆる計画論、それから設計論ですね、それからその中でどういう効率的な働きかけ、いわゆるリニューアルをしていくのか、というあたりの技術論を提案して頂ければと思います。
 それでは、関連するかもしれませんが、加瀬さんの方からよろしくお願いします。


○パネラー(ダム工事総括管理技術者会 副会長 加瀬 俊久)
 それでは私の方からは、技術の継承、それと国際貢献の二つのテーマについて、話をさせて頂きます。
 ダムの施工に伴って施工現場の方では色々な技術開発とか工夫が行われてきました。例えば、ダムのコンクリートを運搬・打設するクレーンですが、このクレーン一つとってもケーブルクレーン、ケーブルクレーンにも固定式・走行式・軌索式と、色々あります。タワークレーンもあります。タワークレーンの方もタワークレーンを走行させたりもします。さらにインクラインで運んだり、ベルコンで運んだり、ダンプで直送したり、港湾で使うテルハクレーンというもので運んだり、大型のクローラークレーンで運んだりと、本当に様々な事を我々施工者は実施している。これはどういう事かと良く考えてみると、それぞれのダムの特徴に応じて施工法を考え開発してきた。我々施工者だけじゃなくて、設計者の方でも考えて頂いている側面もかなり大きいのですが、この様な技術的な蓄えは、やはり我々にはあるんだということをまず認識すべきと考えております。
 先程から話がありました「CSG工法」また「巡航RCD」、この様な色々新しい工法に対しても、施工者の方で色々技術的な開発とか工夫とか、今も行っている最中です。新しい技術を開発し、利用することを私たち施工者は、継承していかなければいけない、その一つの手段として、非常に良い形になっているのがCMED会です。自分のところをPRするようですが、CMED会では、年に旬のダム現場三つで現地研修会を開催しています。以前は地区別研修会という名称で、自分が所属している地区の研修会に参加する形だったのですが、今は全国を対象にして、一番旬な現場を見に行きましょう、との形にしております。参加しますと、そこの現場の施工設備も施工方法も全部見れます。そこで意見交換が出来る、そしてCMED会の一番良いところなんですけれども、会社の枠を超えて情報交換・情報共有が出来るという、非常に良い特質を持っています。ダムが減っている時代でもありますので、技術の継承という事を考えた場合、我々CMED会の果たす役割は、もっと大きくなるのではないか、このように思っています。
 先程、佐野さんの方から再開発の話がありました。ダムの再開発の方も、施工者の方が非常に興味を持って注目しているところです。今までは、ダムのコンクリート、あるいは盛立と、地面より上の方を見ていたのですが、今度はどちらかというと、再開発工事になると水の中の仕事が出てきます。ダム屋というのは元々ダムを造ってると言いましても、ダム現場の中でトンネルを掘ったり、橋を架けたり、非常に色々バラエティにとんだ仕事をするのが得意です。再開発も、これからのダム屋に与えられた新しい領域ではないかと考えており、みんなが取り組んでいく形になるのではないかと、思っております。
 あと国際貢献の話です。先程、米田先生のお話に「水力発電」の話があったのですが、この水力発電を非常に今、要求しているのがアジアです。山田先生のお話にもありましたけれども、アジアの方では、やはりダムを必要としている、発電を必要としている国がたくさんある、そこの国にやはり我々施工者の技術を提供していく、これが大きな国際貢献ではないかと考えています。施工の技術とは何かというと、施工法とか設備とか機械、これもあるのですが、他には安全管理とか、施工の環境対策とか、これらも大きな武器になるのではないかと、これから積極的にやる必要があるのではないか、このように考えている次第です。

○コーディネーター(京都大学 教授 角 哲也)

 ありがとうございました。技術の継承という観点で特に若い技術者は、いろんな所で活躍の場を求めて、そこで技術の向上をしていく、これがまさに活性化の鍵だと思いますので、国内・国外問わずそういう場所をどのように準備し、経験を積んでいただくかという点で、働きかけをぜひして頂きたい。官民あげてという事になるかもしませんね。先程のベトナムの新幹線じゃないですけれども、ベトナムのハノイで昨年開催された国際大ダム会議で、私も行きましたが、日本の技術者が活躍しているというのを目の当たりにしましたので、そういう活躍の舞台や、活躍している姿を日本国内にももっと情報としてフィードバックさせる、そこの関係者だけがやっているんじゃなくて日本社会の人が広く知るような形で情報提供していく。こういう事も大事ではないかと思います。
 それでは、最後になりますが小林さんから、次の世代に、こういうダムを含めた流域という考え方を引き継いでいくのかという観点でお話を頂ければと思います。

○パネラー(財団法人宮ヶ瀬ダム周辺振興財団 理事長 小林 勲)
 宮ヶ瀬ダムは、実は今年で完成から10周年でございまして、これまでの10年は成功だったと思うんですが、これからどうなるのか。実は私、財団の職員に「10年は成功だったが、これからもそう続くとは考えるな」と申しておりまして、ついでに水没移住者の皆様方にも同じことを、私はあえて申しております。そういう意味で、100年先まではなかなか思いが至らないのでございますが、宮ケ瀬の場合で申し上げますと、水没前約200戸の集落がございましたが、その内約50戸が宮ケ瀬湖の周辺地域に居住してございます。それは飲食店を行う、あるいは居住するだけに留めている方もいらっしゃいますが、その人達は、先祖伝来の土地を離れた水没移住者である事は間違いがない。こういう人達が、現実に湖の周辺で生活を立てている、この状況を下流域の皆さんによくご理解頂く、それがコーディネーターの先生からお話がありましたように、子孫の方に何を引き継ぐのかという事に繋がっていくんだろうと思っております。要するに、綺麗な湖沼があって、良好な水源環境が保全されている、そういうことを下流域の人々が、しかもその中のかなり多くの人が理解して下さっている。そして、さらにはその理解して下さった人達が、水源地域で必要な取組みをする。その事について「私たちは受益者たちだから一定の負担はしますよ」というところまで、お考えが至る方が尚一層増えてくる、そういう事を仕組みとして作っていくということが、これからの10年、20年、30年先にまで続くダムを中心とした水源地域の振興の一つの鍵になるのではなかろうかと思っています。そういった取組みを続けておりまして、これからも引き続いてやって参りたいと思っております。
 余計な話でございますが、実は先程申し上げました、モミの木を掘り出しに行きました時に、これは地域の皆さんのある方の所有の場所でございまして、荒廃はひどいもんでございました、下草は全く生えてございません、かろうじてやせ細ったモミの木を掘り出しました。一ヶ月程ある空き地に置いときましたら、だいぶ葉が落ちてしまいました。この荒廃した森林というのをぜひとも技術者の皆様方にも御覧頂きたいと思います。今から取り組めば再生は可能だろうと思います。湖周辺の森林の整備も進めていく、その事が水源地域の皆様方のこれからの生活にも大きく関わっていくだろう、そんな思いでおりますので、よろしくお願い申し上げたいと思います。

 

 

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