1.開催主旨・実施方法
「with Dam Night(ウィズダム・ナイト)」は、ダム工学会20周年特別企画の一つとして企画され、その主旨は、市民・ダムファン、技術者・研究者の交流を通してダムに関する科学的基礎知識や情報を社会に適切に伝え、さらには多くの方々がダム見学に出かけるための「ダムへの架け橋」になることを目指すものである。そのタイトルは、ダムと共にある(with
Dam)様々な側面について異なる立場から英知(wisdom)を持って語り合うことにより、ダムへの理解を高めようという意味である。背景としては、昨今の八ッ場ダムに代表されるダムへの厳しい無用論があり、これらの多くがダムへの理解不足から起きていることがある。
当企画の全体は、社会的意義の高い4テーマから成る四つの夜で構成され、各テーマは奥深く広範なダムの話題の中から、時節の話題に合ったものや市民レベルの関心の高さを考慮して選定された。各夜の展開は、起承転結を踏まえており、まず10月の第一夜はダムファン待望の「ダム歴史的構造物」の構造美で幕を明けて、第二夜でダムの重要な機能にしてクリーンエネルギーである「水力発電」を語り、11月の第三夜は趣を転じて世界をリードする最新技術である「RCD
Now, CSG Now」としてプロ達を集結し、第四夜は結びとしてホットな話題である「利根川・荒川の治水と利水」論議に立ち入ってダムの意義について語るというものである。
さらに各夜は、一つのテーマの下にキーノート、ダムファン、プロフェッショナル等の講演から構成したが、これまで市民参加型のイベントは多く開催されてきたとしても、このように一般市民と専門家が一体となって一つのテーマについて対等に語り合い、しかもテーマを変えて連続的に行うというのは従来見受けられなかったことである。
開催日は、ダム工学会20周年記念シンポジウムが12月開催予定としたことから、当企画をこれに至るイベントと位置づけて10月と11月の下旬に二夜ずつ行うこととし、曜日は予定が立ちやすく頭のフレッシュな週初めの月曜日・火曜日にした。開催時刻は、仕事帰りの方が気軽に参加できるように18時〜21時頃までとし、軽食・ドリンクサービス付き、参加無料の一般公開シンポジウムとした。
また、会場は、関係者努力もあって歴史と伝統を感じさせる東京大学工学部1号館の通称階段教室で行うことができ、当教室定員の110名を参加者目標とした。なお、新たな試みとして、ダムファンtakane氏の好意により、遠隔地で参加できない方のためにリアルタイムのWEB中継を全夜実施した。一部はインターネット動画サイト「USTREAM」に掲載されている。
実施体制については、まず企画・構想を本稿著者2名が行い、ダム工学会活性化小委員会に立案し22年度予算を確保した上で、実行チーム(著者2名+千々和伸浩氏)で事前準備を進め、本番に当たってはダム工学会・関係団体の十数名の支援を得て実施した。
図-1 事前配布用パンフレット
2.各夜開催状況の総括
この種の市民参加型企画においては、内容が面白いということが大前提である。その点では、表−1に全体プログラムを示すが、各夜ともこれぞと言うべき強力な講師陣を得て、面白さと知識の両レベルを高く保った非常に質の高い内容となった(写真参照)。特に、ダムファン各氏の専門家顔負けの知識・話ぶりとダムに対する熱い思い入れには専門家側も大いに触発された。また、第四夜は難しいテーマであったにも拘らず各講演内容は説得力に満ちており、最終日に相応しい最高のクライマックスとなった。
全体構成上は、まずはダム歴史的構造物の談義から維持補修の必然性を説き、次に最良のエネルギー資源ながら扱いの低い水力の復権を訴え、さらに一転してハードな最先端の技術論によりエンジニア達の士気を高め、最後に渦中の治水利水論議に敢えて踏み込むという当初の狙いをうまく果たすことができた。これは4コマ漫画では無いが、短期間にシリーズ展開することによる相乗効果でもある。
3.実施の成果
四夜通じての当イベントの成果を下記に簡単にまとめる。過去に例の無い企画であったことから不安も多かったが、実際は初日の機器トラブル以外は大きな支障も無く、幸いであった。
(1) 四夜を通して400名を超す参加者があり、各夜とも予約受付段階で「満員御礼」となり、定員以上は断るほどであった。
(2) 各方面の協力を得て経費をかなり切り詰めることができ、対費用効果の非常に高いイベントになった。
(3) 時間帯と場所については「時間的に参加しやすかった、交通の便が良かった、雰囲気が良かった」等の意見が多く、概ね好評であった。
(4) 会場の熱気漂う中、講師陣も熱意で応えて、予定時間が度々オーバーするほどであった。
(5) 1都5県及び都内区役所等へチラシを数千部配布して、一般参加者への呼びかけを行った。参加者構成は会員外の一般参加が4割であり、専門性の高いイベントの割には一般参加率が高かった。
(6) ダムファンも大勢詰めかけ、一般市民と専門家が一体となって社会的意義の高いテーマについて語り合うことを実現できた。イベント終了後も場を移してダムファンと専門家との対話は続いた。
(7) WEB中継へのアクセス数は、第一夜の40名から第四夜の200名と増加したが、広報メディアとして大きな可能性を予感した。また、フジテレビ系から「WEB中継と当企画に興味がある」とのことで取材依頼があり、第三夜にはTVカメラが入った。
(8) 総じて、一般市民・エンジニアに拘らず、ダムへの関心が高まりつつあることを実感できた。
4.今後に向けて
今回実施を通じて細かい反省点は多々あるものの様々な成果が得られた。外に向けて迎合ではなく高い質と面白さを保って発信するために、今回の手法が今後一層発展することを期待したい。ただし、低予算で集中的に四夜を面白く展開するために今回企画は大変な労力を要した。
ところで、「プロとアマの違いは何なのか?」と思った参加者も多かったと思われる。実際、ファン達はよく勉強しているし、インターネットで情報が容易に入る時代に、一部の分野においては知識の差は少なくなっているのも事実である。そうした中、プロは専門家としての知識や経験をより磨くべきであるし、そのことでプロの存在をアピールすることもできる。その点、四夜とも多くの現役を退いたエンジニア達に喜んで参加して頂いたが、これら先輩達はスキルを後進に伝えるという役割を担っているとともに、ダムファンとして支えてくれるという重要な役割も担っているということを強く感じた。
なお、当企画の元々のきっかけは、ダムファンの情熱に大いに刺激を受けたことにある。例えば、日本ダム協会会誌「ダム日本」におけるダムマニアとの交流(この数年間)、ダム映画特集(2007年7~8月、ポレポレ東中野)、NHK・BS2「熱中夜話」ダム編(2008年6月5日、川崎出演)、お台場でのダムナイト(2008年から数回開催)等によってである。
最後に、講師各位と関係各位(日本ダム協会、ダム技術センター、建設コンサルタンツ協会、電力土木技術協会、ダム工事総括管理技術者会等)の協力に大いに感謝するとともに、会場段取りを担当頂いた石田哲也准教授ほかの東京大学スタッフ、実施に当たって献身的支援を頂いたダム工学会・若手の会のメンバーに対して心からの謝意を表する。
表-1 平成22年ダム工学会20周年記念特別企画
"with Dam☆Night"の全体プログラム(敬称略)
図-2 建設通信新聞 2010年12月1日 第2面
5.現地写真
全体から
|
写真1 第三夜
熱気と立見の中でWEB中継・TV録画 |
|
|
|
写真2 開演前
手前:web中継のtakane氏
奥:テレビ局 |
写真3 第二夜
会場には若い女性もちらほら |
第一夜 10月25日
|
|
写真4
柴田講師の深遠なるダムの話 |
写真5
ダムマニア巨頭の宮島講師 |
|
|
|
写真6
博覧強記で知られる夜雀講師 |
写真7
コンクリート劣化を語る久田講師 |
|
|
|
写真8
本河内ダム出生の
前田講師の面白さ |
写真9
休憩時の会場前室での歓談 |
第二夜 10月26日
|
|
写真10
藤野講師の水力発電への熱い思い |
写真11
夜雀講師の思い伝わるど迫力 |
|
|
|
写真12
Hisa講師のプロ顔負けの博識 |
写真13
ダムマニア随一の有名人
萩原講師登壇 |
|
|
|
写真14
竹村講師の力強い水力エールに
会場感銘 |
写真15
瀧本講師の個人体験も含む
暖かい話 |
第三夜 11月29日
|
|
写真16
共同仕掛け人の
北川さんの司会で始まる |
写真17
長瀧講師の高遠なる
RCD30年の話 |
|
|
|
写真18
元祖CSG 藤澤講師の
滅多に無い話 |
写真19
西山講師のすごいダム写真の数々 |
|
|
|
写真20
林講師の最新の巡航RCD施工の話 |
写真21
古川講師の動画仕込みの
CSG施工の話 |
第四夜 11月30日
|
|
写真22
最終夜を迎えての入江会長の挨拶 |
写真23
虫明講師の緑のダムの実情に
皆共感 |
|
|
|
写真24
宮村講師の深くて面白い
利根川の歴史 |
写真25
横塚講師の精密解析による
氾濫原の真実 |
|
|
|
写真26
大トリとなった土屋講師の熱弁 |
写真27
前室からの
アカデミックな講演情景 |
活性化推進小委員会 川崎秀明、北川正男
|