1.with Dam Night の目的と意義
「with Dam Night(ウィズダム・ナイト)」は、市民・ダムファン、技術者・研究者の交流を通してダムに関する科学的基礎知識や情報を社会に適切に伝え、さらには多くの方々がダム見学に出かけるための「ダムへの架け橋」になることを目指すものである。
このようなダム工学会が職種以外の人との積極的な交流を目指した場作りを行うようになった背景に、ダムファン(本文ではダムマニア、ダム愛好家とほぼ同義で使用)の存在がある。ダムファンについては、10年ほど前からダム協会ホームページで熱心な活動が取り上げられ、2007年森と湖に親しむ旬間(7月21日-
31日)におけるダムカードの発行によってダムファンの裾野は大きく広がった。また、ダムファンの具体的な存在がテレビで知られるようになったのは、当時マニア向けの番組として人気を集めていたNHK・「BS熱中夜話」における「巨大建造物ナイトA ダム編」(2008年6月5日(木))であり、萩原雅紀氏(ダムサイト主宰)や宮島咲氏(ダムファン主宰)ら30人ほど集まったダムファン各位の専門家顔負けの知識の多さには、共演した筆者も舌を巻くほどであった。両氏はその後もダム本をいろいろ発刊し、ダムの面白さと知識の普及に努めている。
さらに、2009年10月台風18号の木津川ダム群の洪水操作が女性ダムファンの夜雀さん制作の映像によって世に知られるようになり、これをきっかけに「名張川上流3ダムの統合操作による洪水調節同ダム操作」が平成21年度の土木学会賞技術賞に選定されるなど、洪水時ダム操作が初めて脚光を浴びるようになった。2013年度も日吉ダムの洪水操作がダムファンら衆目を集め、ダムファン主宰による昨年末の「ダムアワード大賞」に選ばれたのを皮切りに、「平成25年台風18号出水における日吉ダム洪水調節操作」がダム工学会技術賞(今年5月)、「平成25年台風18号における淀川水系の洪水調節(7ダム等の連携操作により壊滅的被害を回避)」が土木学会賞技術賞(今年5月)と3賞受賞となった。
このように、ダムファンの活発な動きに引っ張られるように、世の人々のダムへの興味と理解が増し、1990年代以降吹き荒れていたダムへの逆風がこの数年かなり収まってきたのは、紛れもない事実である。このような活躍著しいダムファンに敬意をもって接し、シャイな人が多い我々ダムエンジニアとの交流を求めて始まったのが、「with
Dam Night」である。with Dam Nightの経緯については、表1にまとめたが、最初は「ダム工学会20周年特別企画」の一つとして2010年10月末と11月末の四夜にわたって多くの観客を集めて開催された。社会的に大きな反響を得たことから、その後は毎年開催されるようになっている。また、中部近畿地区をはじめ地域的な広がりを見せており、2014年度は近畿、九州、東北においても開催が予定されている。全国展開にこだわる必要はないのだが、with
Dam Nightの積み重ねによってダム工学会各位が雑学知識を広げ、自分らの仕事について誇りをもって話すということにつながることを期待している。
ダム工学会 with Dam Night の開催経緯
2.with Dam Night 2014の概要
今回「with Dam Night 2014」は、7月14日(月曜)に2011年、2013年と同じ日本橋社会教育会館において開催したが、そのテーマ“Dams, Be Ambitious ! ”(ダムよ、大志を抱け)にあるように、より野心的にダムの意義と面白さを語ることを意図した。
表−1に全体プログラムを示すが、人知れず山奥で頑張っているダム達の奮闘努力ぶりを、ダムファンと専門家の視点から三組の夜噺を紹介し、最後の夜噺はトークショー形式で、アンビシャスなダムを語った。会場の状況は、和気あいあいとしたものであり、ダムを楽しむという当イベントの主旨がより浸透したことを実感できた。
前回同様に、開会前の待ち時間でのサロン(軽食付き)は、専門家とダムファンの様々な再会があり、楽しみの前のひと時である(写真1)。開会後の会場の様子を写真2〜5に示すが、with
Dam Nightも5年目となり、ごく自然に会場が一体となって笑顔や熱気にあふれていた。ちなみに、当会場は東京都中央区の公共施設としての制約はあるが、とても使いやすく経済的であり、都心にして最寄駅から近いので、ほぼ満点の施設と言える。
図-1 with Dam Night2014の宣伝用パンフレット
表-1 with Dam Night2014のプログラム
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写真−1
開会前の和やかな受付状況。 |
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写真−2
今年も実施のインターネット中継の状況。 |
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写真−3
岡本会長の開会挨拶。 |
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写真−4
楽しさ感じる開会直後。 |
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写真−5
後ろでも講演はよく見える。 |
3.各講演内容の紹介
with Dam Night 2014の各講演の状況について写真とともに以下に記す。
夜噺1.ダムへ行こう
@「ダムツーリズムとおすすめダム」 須賀正志 講師(写真6):
国土交通省治水課課長補佐と固い肩書きの須賀さんであるが、内容は率直にダムの面白さを語るものであり、ダムツアーや映画の舞台になったダムについて語っていただいた。なお、最近の国土交通省は、民間ツアー会社と連携してダムツアーを実施しており、ダムとその周辺地域の環境を活用し、地域と連携してダムを観光資源としての活用を図っている。また、ダムの工事現場も活用して完成前から観光資源として効用を発現できるようダムツーリズムを推進している。皆さん、これからも期待しましょう。
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写真−6 須賀 講師
平易な説明のお陰で、国土交通省の方針がここ数年で大きく変わったことがよくわかりました。 |
A「ダムツアー 〜プロローグ〜」 琉 講師(写真7):
最近ダムツーリズムに力をおいているダム王子の別称で有名な当講師には、「ダムを愛する者たちへ」という副題で、「放流、絶景、普段入れない場所への探検」などの全国各地のダムの迫力ある姿を素晴らしい映像でツアー案内いただいた。うまくいかない場合の体験も入れて、面白くかつ精細に語るのはさすがのうまさで、最後は「ダムツアーの成功とは、関わる人達が同じゴールに向かうこと」と熱く締めた。ダムに行かなくちゃと思った人は多数居たはず。
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写真−7 琉 講師
ダムツアー、魅惑の時代の始まりです。 |
夜噺2.「日吉がんばる! -嵐山・京都を救ったダム-」
B「日吉がんばる!
−嵐山・京都を救ったダム−」
左近重信 講師(写真8):
昨年9月台風18号豪雨時の日吉ダムの洪水操作は、ニュースなどで大いに注目されたことから、今回水機構に講演を依頼して、左近講師の登場となった。主旨はタイトルのとおりで、ダム操作の難しい面を懇切に説明するとともに、明智光秀の本能寺の変へのルートを交えたりとより興味深い講演をいただいた。後段は、木津川、琵琶湖も入れた「7ダム等の連携操作により壊滅的被害を回避」や流木止めの効果も強調され、淀川自体も越水の危険があったことに観客も同感した。日吉ダムは、ダムアワード大賞、ダム工学会賞、土木学会技術賞と3賞を受賞したが、「報恩謝徳」の精神で今後も頑張っていたただきたい。
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写真−8 左近 講師
3賞受賞を代表しての講演。ダム操作の難しさと意義を判りやすく講演いただきました。
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C「日吉ダムだけじゃない!T13,18で活躍したダムたち」
星野夕陽 講師(写真9):
ダムファンの若手ホープとして最近出番の多くなっている星野夕陽さんである。内容は、日吉ダムの北方にある由良川水系の大野ダム(京都府管理、昭和35年完成)の昨年9月台風18号時の活躍であり、日吉ダムに劣らぬ頑張りを見せたことが、リアルな当時状況の再現でもって語られた。大野ダムは、平成16年 台風23号による出水で、ダム下流で大雨によって立ち往生したバスが水没し乗客は屋根の上に退避して難を逃れた事件で有名であり、この時の大野ダムは人命尊重のため、難しい判断の中、溢れる直前まで放流量を抑えた洪水調節を行った。このような活躍したが世にそれほど知られていないダムが日吉ダム以外にも多くあるということを訴える夕陽さんの姿勢は、「一隅を照らす」的でダムファンやエンジニアの精神にも通じている。
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写真−9 星野 講師
勉強熱心による豊富な知識で最近、出番が急速に増えつつある夕陽氏。今後もご活躍を。 |
夜噺3.水力の夢
D「既設ダムを有効利用した水力発電の可能性」
山本與四朗 講師 (写真10):
最近再び注目をされている水力発電がテーマであり、講演は、ダム協会やJAPICの水循環委員会における数年間研究成果をまとめたものを話していただいた。内容は、水力発電の開発可能性を全国の地域ごとに細かく積み上げることで、水力優先の開発可能性として原子力発電所並みの電力確保が可能であることを示し、特に揚水発電の効用が数的根拠をもって強調された。なお、電気の供給量と使用量の関係と電圧・周波数への影響について述べ、「太陽光発電・風力発電が増加すると、今後は使用量だけでなく供給量も予測困難となり、これまで以上に水力揚水発電で調整する重要性が増す。」という見解は卓見である。
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写真−10 山本 講師
ゼネコンとしての遠慮はありましたが、長年の勉強に基づき、揚水式水力発電の意義を理路整然と訴えていただきました。 |
E「ダムを活用して発電量アップ」 Hisa 講師(写真11):
2010年のwith Dam Nightで水車に関する詳細な知識が絶賛されたHisaさんであるが、今回は水力発電の方法について、新しいアイデアも含めて発表いただいた。特に、取水堰などから取水した水を水路で落差を得られる場所まで導水し、水を貯留せずに発電を行う「水路式−流込み式」の水力発電を取り上げ、河川全体でシステマティックに考えると上流にダムを設けた水路式ー流込み式が非常に効果的であることが、事例をもって説明がなされた。「河川の上流に貯水量の大きいダムを設け、河川流量が少ない時期に補うことが安定した電源確保に大きな効果をもたらす」ことが、利害関係者ではないHisaさんから理路整然と主張されることは非常に心強い。
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写真−11 Hisa 講師
全国2400もの水力発電のうち1200をも訪問されたHisaさん。ダム利用の水力発電の重要性、よく判りました。 |
夜噺4.トークショー -アンビシャスなダム達-
F私が考えるアンビシャスなダム達
パネラー(ダム工学会活性化小委員長)
川崎秀明 氏 (写真12):
トークショーの題材として、主題であるアンビシャスなダム達について、筆者の方から発表を行った。歴史に残るアンビシャスなダムとして、「文化遺産となるダム、国家興隆をもたらしたダム、夢を達成したダム、夢破れたダム、水攻めのダム」について紹介したが、ダムって人生に似て悲喜こもごもあって面白いと感じていただければ幸いである。
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写真−12 川崎 氏
アンビシャスな水攻めダム、官兵衛の高松城以外にいろいろあります。 |
G世界のダム紙幣
パネラー (ダム紙幣収集家) Takane 氏(写真13):
Takaneさん(ダム日和)にはインターネット中継で毎回お世話になっているが、今回は世界のダム紙幣について語って頂いた。アンビシャスなダムとは紙幣に刷られるほどの国家の誇りであり、その発展を支えてきた。151枚もの様々な図柄のダム紙幣の多さとTakane氏独自の分析と解釈による余りの面白さに会場は大いに盛り上がった。ダム紙幣こそアンビシャスの塊りかもしれない。
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写真−13 ダム日和 氏
余りの面白さに司会も琉さんも話の虜に。ダム紙幣の話はもっと聞きたいですよね。 |
Hパネルトーク
締めくくりは中野朱美さんによる司会によって、2番目の講師の琉さん、Takaneさん、筆者で進められた。夜9時を過ぎていたために、僅かな時間の中で消化不足となってしまったが、予定の9時15分頃に無事にwith Dam Nightを終了した。
4.まとめ
今年もwith Dam Nightの会場には笑顔と和気藹々の雰囲気が満ちていた。この楽しいひとときこそがwith
Dam Nightの真髄である。冒頭に書いたように岡本新会長の方針もあって今年は全国で幾つか開催される予定で、この広がりは楽しみである。活性化小委員会としては、今後も一般市民との最前線に立つダム工学会イベントとしてwith
Dam Nightの一層の工夫を図りたいと考える。
最後に、講師各位と団体各位(日本ダム協会、ダム技術センター、建設コンサルタンツ協会、電力土木技術協会、ダム工事総括管理技術者会等)の協力に大いに感謝するとともに、各種段取りを担当頂いた皆様およびご支援頂いた関係各位に対して心からの謝意を表します。
なお、今回の「with Dam Night 2014」の様子は、下記のURLより見ることが出来ますので、是非、ご覧ください!
@ http://www.ustream.tv/recorded/50044854
A http://www.ustream.tv/recorded/50045853
表-2 翌日の関連新聞記事
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