一般社団法人ダム工学会
 
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第23回現地見学会 苫田ダム見学記

 

 ダム工学会主催の第23回ダム現地見学会・第二日目に見学した苫田ダムについて報告いたします。

 苫田ダムは、岡山県を南北に流れる吉井川の上流、岡山県苫田郡奥津町久田下原地区で建設が進められている重力式コンクリートダムです。苫田ダムは洪水の調節、流水の正常な機能の維持、上水道用水・工業用水・かんがい用水および、発電を目的とした多目的ダムです。事業者は国土交通省中国地方整備局で、本体施工は佐藤・鴻池・アイサワ特定建設工事共同企業体、また本体上流左岸側に位置する鞍部ダムを大成建設が施工中です。

 本体ダムは堤高74.0m、堤頂長225m、堤体積約30万m3、総貯水容量8,410万m3の規模です。建設事業は、昭和47年度から実施計画調査に入り、平成11年3月に本体工事着手、平成12年12月堤体コンクリートの打設を開始しました。現在、2基の13.5t×75mタワークレーンを使用し、拡張レヤ工法(ELCM)で平成16年度の完成を目指して施工中です。見学時は堤体の大部分のコンクリート打設を完了し、非常用洪水吐き部分の施工を行っていました。

 苫田ダムは、重力式コンクリートダムでは非常用洪水吐部分にラビリンス型自由越流頂構造を用いた、国内で最初のダムです。ラビリンス型自由越流頂構造を採用することで、通常の直線型越流構造に比べて単位幅当たりの流量が1.35倍となり、洪水流量の大きなダムには有効な構造ということです。苫田ダムにおいても、越流部の延長が直線構造の洪水吐きに比べて35m短縮できたことで、大幅に堤体基礎掘削、堤体コンクリートが削減できたそうです。施工面では、構造が複雑なため仮設物が多く、大変苦労されている様子がうかがえました。

 

 

現地の状況

 

施工中の本体ダム

 

上流から見た施工中の洪水吐

 

 また、水位維持放流設備に世界でも珍しい「引張りラジアルゲート」を採用したことにより、現場での据付の簡略化、設備全体の重量の軽減が図れたため、コストの縮減にもつながったそうです。また選択取水設備においても円形多段式シリンダゲートを取り入れるなど、多くの新技術を取り入れ施工されていました。

 コンクリート用骨材は河床砂礫を採取し篩分けて製造しているため、原石山がありません。このためダム周辺の環境を維持することができ、コストの縮減が図れるといった多くの効果が生まれているようです。

 鞍部ダムはコンクリート表面遮水壁を設けた堤高28.5m、堤頂長260mのロックフィルダムとして建設中です。平成10年に検討開始し、12年に採用決定、13年発注、現在、堤体部分のロックゾーンの盛立を行っています。また表面のメインスラブの基礎となるトゥスラブの施工は一部を残してほとんど終わっていました。来年にはいよいよメインスラブの施工となるそうです。

 

盛立工事が進む鞍部ダム

 

クリックで拡大表示します

鞍部ダム標準断面図(クリックで拡大表示します)

 

 苫田ダム建設事業は環境保全に積極的に取り組んでおり、産業廃棄物の最小化を目指してゼロエミッションを実施されていました。その取り組みとしては次のようなことをしていました。

 

・掘削発生土の有効利用・・・ダム事業全体で発生した残土を仮置きして、ダム関連工事全体で有効利用して、残土を発生させない。

・伐採材・脱水ケーキの植生土壌化・・・ダム本体工事、周辺道路工事等で発生する伐採材をチップ化して堆肥化し、濁水処理での脱水ケーキと混合・攪拌・養生することで、産業廃棄物を植生土壌として再利用を図る。

 

 その他にも、堤体コンクリート用骨材の篩い分けで発生した玉石の有効利用等、資源の有効活用をはかっていました。また、環境保全のために周辺道路部分で「組立自立外壁パネル工法」を使用して施工を簡素化するとともに掘削面の削減を行なっているそうです。景観設計では「環境デザイン委員会」を設置し、堤体周辺の景観問題について、さまざまな変更を行ない、より自然になじむよう対応するとのことです。以上のような、環境に配慮した計画、施工を徹底して実践されておられることには感心いたしました。今後、このような環境に配慮した設計、施工はすべての工事に展開して行かなければならないと感じました。

 最後になりましたが、本見学会で案内、説明をしていただいた農林水産省中国四国農政局東伯農業水利事業所、国土交通省中国地方整備局苫田ダム工事事務所ならびに各現場の企業体の皆様、またダム工学会現地見学会小委員会の皆様に深く感謝し御礼申し上げます。

[(株)間組  早瀬 学]
 

 

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