一般社団法人ダム工学会
 
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第24回現地見学会 長井ダム見学記

 

 ダム工学会主催の第24回ダム現地見学会が7月10日〜11日の2日間にわたり開催されました。今回の現場は、長井ダム(東北地方整備局)及び綱木川ダム(山形県)の2ヵ所です。ここでは第1日目に見学した長井ダムについて報告いたします。

 長井ダムは東北地方整備局が最上川水系置賜野川の山形県長井市平野・寺泉地内に建設中の多目的(FNAWP)ダムで、堤高125.5m、堤体積約120万m3の重力式コンクリートダムです。見学時点で河床部岩盤より高さ10m余り、約13万m3のコンクリートが打設済という状況でした。大規模ダムの本体施工中ということで見所がとても多い現場でしたが、以下では特に興味深かった点からいくつか紹介いたします。長井ダムに関する情報は、次のホームページも参考になります。

 長井ダム工事事務所 http://www.thr.mlit.go.jp/nagai/


 (財)日本ダム協会 http://wwwsoc.nii.ac.jp/jdf/index.shtml

 

 写真−1は、右岸天端標高から見た施工ヤードです。広いので一部しか写っていませんが、左側が堤体掘削ズリを盛土した上流仮設備ヤードで、骨材プラントやコンクリートプラント等が設置されています。仮設備ヤードの盛土内には仮排水路が埋設されており、堤外仮排水トンネルと合わせて既往最大洪水(450m3/s)まで流下させる能力で計画されています。コンクリートプラントと堤体との間はバンカー線及びテルハクレーン(ハザマクライミングリフト)各2基で結ばれており、コンクリート運搬は1回9m3、日最大4,000m3程度の打設に対応できます。テルハクレーンは、吊り能力が大きい(29.5t)、吊り下し点が固定され安全性が高い、工事完成後の現地地形に影響を与えない、等の優れた点があり、現場条件が適合すれば非常に使い勝手の良い運搬設備だと感じました。あいにくの雨天でRCD工法によるコンクリート打設は行われていませんでしたが、トランスファーカー及びテルハクレーンのデモ運転を見せていただき、運搬の様子を実感できました。

 

写真−1 右岸天端標高から見た施工ヤード

 

 写真−2中央付近の開口部は、プレキャストブロックを使用した監査廊です。長井ダムではエレベータシャフトもプレキャストとしています。その先に並んでいるのは、堤内仮排水路の型枠です。近年、ダム構造物にプレキャスト部材が使用される例が増えており、様々なタイプのものがありますが、長井ダムでは現場での構造鉄筋組み立てが不要なタイプを採用しています。このタイプは部材にある程度厚みが必要でブロックの重量が大きくなり、据え付け等にもそれなりの難しい点は生じますが、型枠と鉄筋を組み立てる方式に比べて構造物周辺が非常にシンプルで、施工の合理化に寄与していることが感じられました。プレキャスト部材の構造や施工方法については、今後さらなる合理化を図るべきでしょう。

 

写真−2 プレキャスト監査廊

 

写真−3 左岸河床付近岩盤

 

 写真−3は、左岸河床付近の着岩部です。河床付近の低角度弱層に対応するため非常に急勾配(1:0.3)で掘削されており、ロックボルトで法面補強されています。また堤体コンクリート硬化収縮後の密着を確保するため、コンタクトグラウチングを行うとのことで、パイプが設置されていました。このようなグラウチングは遮水性改良目的のコンソリデーショングラウチングの一種と考えられますが、改良対象が通常の岩盤亀裂等とは異なることもあり、改良範囲等についてグラウチング技術指針で整理されるとありがたいと思います。なお、長井ダムは昨年見直されたグラウチング技術指針(案)の試行運用ダムのひとつであり、同案に基づき適切なグラウチング計画が検討されたとのことです。しかし、弱部補強目的のコンソリデーショングラウチングを小規模な断層にも適用していくと施工範囲・数量が増えてしまうという話もあり、今後のダムにおいては試行運用の結果も踏まえて合理的な運用方法を検討する必要がありそうです。

 ダムの概要説明及び質疑応答は、長井ダムインフォメーションセンター「野川まなび館」で行われました。同館は長井ダム事業や周辺地域の自然・歴史を紹介する展示室及び会議室等があり、いずれも広く立派な施設です。この種の施設の充実は近年めざましいものがあり、情報提供の要請の高まりを感じます。多くのダム事業が税金を財源として実施される以上、その計画者はもちろん設計施工の実務者にも、一般の人々に事業の必要性・妥当性について説明し、理解を得る責任があります。広報にお金をかければ良いというものではありませんが、説明責任の履行に最善を尽くすよう、常に意識しなければならないと感じました。

 

野川まなび館パンフレットより引用

 

 最後に、貴重な見学の機会を与えてくださいました長井ダム工事事務所の皆様、第一工事・第二工事JVの皆様、野川まなび館の皆様に厚く御礼申し上げます。

[鞄本建設技術社  山田  衛]

 

 

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