行事報告
☆新丸山ダム見学記☆
ダム工学会主催の第
27回現地見学会が10月7日〜8日の二日間にわたり開催されました。今回見学した現場は、新丸山ダム(国土交通省中部地方整備局)、中野方ダム(岐阜県)及び新徳山ダム(独立行政法人水資源機構)の3ダムです。
ここでは、第
1日目に見学を行った新丸山ダムについて報告致します。
新丸山ダムは、岐阜県加茂郡八百津町の木曽川水系木曽川中流域に位置する既設丸山ダムを
24.3m嵩上げすることにより、既存の洪水調節及び発電の機能を増強し、新たな機能として既得取水の安定化及び河川環境の保全等のための流量の確保を目的に計画された多目的ダムです(表-1
参照)。
現在、準備工事として付替道路一般国道418号、工事用道路の整備及び用地補償関係の事業を進めている状況で、転流工を平成19年、堤体掘削を平成21年、堤体コンクリート打設を平成23年にそれぞれ着工の予定となっています。
なお、既設丸山ダムは関西電力のダムとして昭和
18年に着工し、太平洋戦争中の休止をはさんで、建設省と関西電力の共同ダムとして昭和
31年に完成しています。
当日は、新丸山ダム工事事務所で工事概要の説明を受けた後、既設丸山ダム右岸天端よりダムサイトの見学を行い、再度事務所に戻っての質疑応答となりました。以下、見学を通して新丸山ダムの特徴として感じた事を何項目か報告致します。
1.新丸山ダムのダム軸
新丸山ダムは、前述のとおり既設丸山ダムの再開発ダムですが、既設ダムへの腹付け嵩上げでは無く、既設ダムのダム軸から
47.5m下流の位置を新ダムのダム軸とし、新設する計画となっています(図-1参照)。
これは既設ダムの機能を維持したまま新丸山ダムを施工する必要があるためですが、その大きな理由としては、下記の
2点が挙げられます。
1)
既設丸山ダムにおいて関西電力が1,800万m 3 の容量を用いて
188千kWという大規模な発電を行っていることから、新丸山ダムの工事中においても減電あるいは発電の停止につながるような貯水位の低下を避ける必要がある
2)
既設丸山ダムは2,400km 2 の流域面積を有し、木曽川本川の洪水調節を行う上で重要な役割を担っている。また、ダム地点において洪水により
1,000m 3 /s単位の流量が出る(昭和58年洪水では8,000m 3 /s、平成12年の東海豪雨では4,000m 3 /sの放流を行っている)ため、これを仮排水路トンネルで洪水調節を行うのは困難である
また、下流側へのダム軸のシフト量は、
47.5m以上離すと河床部に造る人工岩盤と既設ダムの一部(堤趾)に新ダムの基本三角形が載る形となり、新ダムの基本三角形は既設ダムと分離された構造となること、及び下流に位置する発電所への影響を避けるため新ダムの減勢工をあまり下流側へ設置できない、との観点から地質条件、施工性等を勘案し決定されたそうです。
図 -1 既設丸山ダム-新丸山ダム 位置関係(現地説明看板より引用)
図-2 新丸山ダム 完成予想図(現地説明看板より引用)
2.河床部人工岩盤
新丸山ダムの減勢工部に当たる、河床部の岩盤が下がっている一部の箇所は、人工岩盤と称して最大厚さ
30m強の置換えコンクリートにより埋め戻される計画となっています。
この人工岩盤部のコンクリート量は約
30万m 3 となるそうですが、工程上後ろに控えるコンジットゲートの据付を非洪水期に行うため、人工岩盤部は洪水期の
6ヶ月間で急速施工する計画となっています。洪水期の施工であるため当然、洪水を想定しながらの施工となりますが、洪水を処理しながらどうやって施工を行うかというのが新丸山ダムの施工計画のポイントになります。またコンクリート打設の施工方法としては大量施工可能な運搬・打設方式を検討しているところです。
3.横越流式減勢工
新丸山ダムは木曽川本川に位置し、設計洪水流量が大きいことからコンジット
9条、クレスト10条と多数のゲートを有するため、減勢工も幅約140mと大規模となります。地質調査の結果より左岸の低標高部の岩盤が非常に良好であることが判明し、良好な岩を掘削してまで減勢工標高を揃える必要はないため、減勢工の左右岸で水叩き標高が異なる(左岸側水叩き標高が右岸側水叩き標高より高い)形状とし、左岸側減勢工から右岸側減勢工に横越流させる計画に変更されました(図-2
参照)。
横越流式減勢工は、新丸山ダムの様な対象流量の大きなダムでは採用された事例が少ない形式ですが、この減勢工形状の採用により、大幅なコスト縮減、工期短縮効果が期待できるそうです。
最後になりましたが、お忙しいところ懇切丁寧に説明していただいた国土交通省中部地方建設局新丸山ダム工事事務所の平光事務所長ならびに関係職員の方々、またこのような貴重な見学会を企画・開催していただいたダム工学会現地見学会小委員会の皆さまに厚く御礼申し上げます。
[株式会社
アイ・エヌ・エー 山田聡]
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