行事報告
ダム工学会主催「第29回現地見学会」で見学した、栃ヶ原ダム及び川西ダムについて報告致します。見学会2日間のうち、第1日目は新潟県柏崎市高柳町の栃ヶ原ダムJV事務所にて結団式を行い、栃ヶ原ダムの見学後、十日町市新町新田の川西ダム復旧現場へ移動しました。
1.栃ヶ原ダム
本ダムは、国営柏崎周辺農業水利事業計画に基づき、柏崎市及び刈羽村の農地約1,740haの灌漑用水の確保を目的として鯖石川水系境川に建設中の重力式コンクリートダムです。
表−1 栃ヶ原ダム諸元
型 式 |
重力式コンクリートダム |
堤 高 |
52.7 m |
堤頂長 |
152.5 m |
堤体積 |
126,000 m3 |
流域面積 |
2.30 km2 |
湛水面積 |
0.16 km2 |
総貯水容量 |
2,470,000 m3 |
有効貯水容量 |
2,300,000 m3 |
|
写真−1 ダム堤体(下流より望む)
|
本ダムの基礎地盤は、新第三紀鮮新世田麦川層砂質泥岩でスレーキングし易く、一軸圧縮強度は10N/mm2程度と小さいため、ダム下流面勾配1:0.95、上流面勾配1:0.8の大きな堤敷長(最大77m)としています。このため、上下流方向のブロック延長が長くなることから、堤体打設工法としては13.5tタワークレーンによる柱状工法を採用し、コンクリート冷却のためのパイプクーリングを実施しています。また、堤体材料には、購入骨材(信濃川の河川砂利)を使用しています。
ダムサイト右岸下流の岩盤は流れ目の節理が発達しており、基礎掘削時に右岸法面の一部が崩落したとのことです。当該部では、ロックボルト及びグラウンドアンカーによる対策工とともに観測計器を設置し、法面の挙動を監視しながら仕上げ掘削、堤体コンクリート打設を実施しています。
重力式コンクリートダムの合理化施工として、RCD工法や拡張レヤ工法のよる施工現場を見学する機会が多くなっていますが、今回、従来工法である柱状工法による施工現場を見学することができ、若年技術者である私にとっては貴重な経験となりました。また、本ダムの基礎地盤はスレーキングを生じやすい泥岩であり、近傍の鯖石川ダムも同様な堤体形状をなしているため、このような地形・地質を有するダムサイトにおけるダム型式や堤体材料の選定、基礎処理工及びドレーン孔の配置、貯水池法面の安定など、その設計思想について非常に興味深いものでした。
2.川西ダム
川西ダムは、中魚沼郡川西町の信濃川水系南沢川に位置し、県営灌漑排水事業として昭和54年に完成した中央遮水壁型フィルダムです。本ダムは、川西町一帯のコシヒカリ生産に重要な役割を果たしていますが、新潟県中越地震により平成17年の貯水が不可能となったため、灌漑用水の早期確保を目指して改修工事が実施されています。なお、地震時は非かんがい期で、ダム本体点検整備のために貯水されていなかったとのことです。
表−2 川西ダム諸元
型 式 |
中央コア型フィルダム |
堤 高 |
43.0 m |
堤頂長 |
170.0 m |
堤体積 |
347,800 m3 |
勾 配 |
上流 1:2.2〜3.7
下流 1:2.0〜2.7 |
流域面積 |
1.76 km2 |
湛水面積 |
0.16 km2 |
総貯水容量 |
1,215,000 m3 |
有効貯水容量 |
1,118,000 m3 |
|
写真−2 ダム堤体
(天端より上流面を望む)
|
新潟県中越地震による主な被害状況とその復旧方法は、以下のとおりです。
(1)堤頂部のクラック
クラックは最大でもコア材天端付近で止まっており、深度確認と除去を行って復旧している。右岸端部については堤体天端にすり付けて嵩上げしている。
(2)堤体上流法面の沈下とずれ
すべりは表層の浅部で、ブロック張と不織布の間にずれが生じており、撤去後再敷設を行っている。盛土材は現堤体材に砕石を混合して使用し、室内試験から仕様を決定している。
(3)洪水吐の水路壁損傷
下流取付水路部左岸側壁が倒壊したため、地下水対策として排水溝の補修やウィープホールの設置を行い、水路の打ち換えを行っている。
(4)取水設備の土砂留升のずれ、クラック
工期短縮・掘削量の低減を考慮して、升の内面に重力式擁壁を設けており、底版についてはコンクリート打ち増しによる復旧としている。
最後になりましたが、本見学会において案内・説明頂いた北陸農政局柏崎周辺農業水利事業所、栃ヶ原ダム共同企業体、ならびに新潟県十日町地域振興局農村整備部、福田組の関係者各位、また、このような貴重な見学会を企画して頂いたダム工学会現地見学小委員会の皆様に深くお礼申し上げます。
(八千代エンジニヤリング株式会社 岩井 慎治)
|