行事報告
1.出し平ダム
出し平ダムは黒部川の河口から約26km上流に、関西電力鰍フ音沢発電所のダム貯水池として1985年に建設された、高さ76.7mの重力式コンクリートダムである。
出し平ダムの上流には、同じく関西電力(株)の黒部ダム(アーチ式、高さ186.0m、1961年完成)、仙人谷ダム(重力式、高さ43.5m、1940年完成)、小屋平ダム(重力式、高さ51.5m、1936年完成)があり、仙人谷ダム、小屋平ダムは、ともにほぼ満砂状態で、洪水吐きゲートの側方に設置された土砂吐きゲートの操作により、取水機能を維持している状態である。
出し平ダムは、黒部川が我が国最上位の比流砂量を有すという流域特性を勘案して、堤体内に大規模な排砂設備を2条設置し、上流から流送されてくる土砂をダムで妨げることなく下流へ供給し、流砂の連続性を確保すべく計画されたダムである。
排砂設備は、貯水池を低下させて自然流下状態にし、土砂を下流へ排出できる構造とし、排砂路の規模は、水理模型実験等からB5m×H5mとしている。
排砂ゲートは、排砂路1条につき3門構成とし、上流側はスライドゲート(保守点検用)、中間はローラーゲート(流水・流砂遮断用)、下流側はラジアルゲート(止水用、非常用)である。
排砂路は底面および両側壁の底面から2mの高さまで耐磨耗の鋼製ライニングが施工されており、見学当日も鋼製ライニングの取替えを実施中であり、鋼製ライニングの磨耗状態を目視できたが、それほど大きなダメージを受けていないように感じられた。
1985年のダム完成から6年後の1991年に実施された第1回目の排砂では、6年間堆積した土砂に含まれていた有機物が嫌気状態の中で変質し、これが下流域へ排出されたことにより、悪臭を伴う暗灰色の濁りが流域に拡散し、大きな環境問題となったが、1994年の大出水による貯水池への異常堆積を除去するために排砂が実施され、現在では貯水池内は安定河床形状(平衡河床)を維持している。
宇奈月ダムが完成した2000年以降からは、両ダムにより、連携排砂が実施され、黒部川の総合土砂管理上、極めて有効な手法であると実感した。
2.宇奈月ダム
宇奈月ダムは出し平ダムから7km下流に国土交通省が建設し、2000年に完成した高さ97mの重力式コンクリートダムで、目的は洪水調節、水道用水、発電の多目的ダムである。
宇奈月ダムも出し平ダム同様、大量の流入土砂に対応し、ダム機能を維持するために、2条の排砂設備(B5m×H6m)が設置されている。
ここでは、出し平ダムと宇奈月ダムの連携排砂について記述する。
平成18年度の連携排砂実施計画概要は以下のとおりである。
【連携排砂】 |
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6月〜8月でダム流入量が、出し平ダムで300m3/s、宇奈月ダムで400
m3/sのいずれかを上回る最初の出洪水時に実施。 |
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但し、上記期間のうち、融雪や梅雨等により流量の大きい時期に限り、出し平ダム流入量が250m3/sに達した場合においても実施する。なお、自然流下中の流入量が130
m3/sを下回った場合は中止する。 |
【連携通砂】 |
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6月〜8月で排砂後のダム流入量が、出し平ダムで480m3/s、宇奈月ダムで650
m3/sのいずれかを上回る出洪水時にその都度実施。 |
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(出典:国土交通省北陸地方整備局 黒部河川事務所パンフレット)
近年の連携排砂・通砂実績は、平成16年で出し平ダムの排砂量が約28万m3、宇奈月ダムの堆砂量が約94万m3であり、平成17年では出し平ダムの排砂量が約51万m3、宇奈月ダムの堆砂量が約140万m3となっている。
平成18年には、連携排砂・通砂を実施して以来過去最大回数となる排砂1回、通砂3回、合計4回の排砂・通砂を実施している。
平成17年の連携排砂・通砂に伴う環境調査結果からも、一時的な環境の変化はあるが、大きな影響は考えられない.今後の課題として、土砂量の精度向上、排砂・通砂方法の検討、生物相の他水域も含めた長期的な考察が必要である.との評価が、「黒部川ダム排砂評価委員会」から提言されている。
このように、出し平ダムの初回の単独排砂の際には大きな環境問題となったが、その後社会的、技術的課題を克服し、できるだけ自然に近いかたちで土砂を下流に流す手法として、両ダムの連携排砂・通砂が社会的にも認められ、市民権を得ているのではないかと、両ダムの現場を見学し、改めて実感した。
これからのダム事業を計画する上で、水系全体でバランスの取れた総合的な土砂管理が欠かせないものとなっており、ダム計画を専門とするコンサルタントである筆者にとっても、貴重な現場見学となった。
写真-1 出し平ダム全景
写真-2 宇奈月ダム全景
3.おわりに
本見学会を通じて、これからのダム事業にとって欠かせない総合的な土砂管理として、出し平ダムおよび宇奈月ダムの連携排砂・通砂が非常に有効な手法であると確信した。
最後に、日常業務でお忙しいなか、現地で熱心に案内・説明および質疑応答に対応頂いた関西電力(株)ならびに国土交通省北陸地方整備局黒部河川事務所、また見学会を企画・開催して頂いたダム工学会現地見学会小委員会の皆様に深く感謝申し上げます。
[(株)建設技術研究所 竹村英雄
(写真提供 日本工営(株)早川史郎氏)]
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