行事報告
1.はじめに
この現地見学会は、黒部ダムをはじめ、黒部川と高瀬川のダム群を見学するコースである。私はかねてより、これらのダムを訪れたいと考えていたため、申し込み番号1番で参加させていただいた。
見学初日は高瀬川水系、2日目は黒部ダムから黒部川を下り、3日目は最下流の宇奈月ダムを見学するダム技術者にはたまらない豪華なコースである。
本稿は初日の見学の感想を、建設コンサルタントの立場から述べたいと思う。
2.高瀬川水系のダム設計
高瀬川水系のダムは、上流から高瀬ダム、七倉ダム、大町ダムの順にあり、上流2ダムは東京電力のダム、大町ダムは国土交通省の多目的ダムである。
高瀬ダム、七倉ダムは、いずれのサイトも堅硬な花崗岩を基礎岩盤としている。これらのダムは、堤体材料が近傍にあることから経済性の理由で、ロックフィル型式を採用している。近年築造されているダムは、基礎岩盤が良好であればコンクリート、そうでなければフィルを採用することが多くあるが、このようなダムを見学すると、基本に立ったダム型式の検討が重要であると改めて実感する。
また、高瀬ダム、七倉ダムの監査廊は、ダムの着岩部には無く、基礎岩盤内に設けられ、ここからカーテングラウチングが行われ、現在も管理に使用されている。ダムの盛立工程やグラウチングの工程、バルブ室や発電所工事を考え、トンネル方式を採用したものと考えられる。今回の見学では発電ダムや地下発電所を見学させていただいたが、実にトンネルが多いことに驚かされた。豪雪地帯であること、自然景観を保全することを考えると、地下発電所の選択は必須条件と思われる。大規模地下発電所からみると小規模な監査廊であるが、たやすい工事であったとはとても思うことはできない。
大町ダムの左岸側アバットは、基礎岩盤が低いためイコス壁を採用している。本ダムのコンクリート部とイコス壁の接続をフィルタイプダムで行っていることから、写真−1でも分かるようにフィルダムの基準に合わせ天端標高を高くしている。この対処をしたことで、150m堤頂長を短くすることができ、地形改変を縮小し、経済的にも有利になったと推定される。今現地に立つと、かつて相当の検討、議論がされたであろう左岸アバットは、そのようなことを微塵も感じさせない空間となっている。 |
写真−1大町ダム左岸
(大町ダムパンフより) |
3.高瀬ダムの下流面道路
高瀬ダムは堤高176mと、黒部ダムに次ぐ我が国2番目のハイダムである。また、周辺の地形は、ダムタイプ検討時にアーチダムも候補となるほどの狭隘な地形である。このような場合、付替道路を建設するため、下流の広範囲な箇所で地形改変が生じてしまうことがしばしばある。
高瀬ダムは建設時に使用していた堤体下流面の道路(写真−2)を、完成後も使用することで高瀬渓谷の自然と景観を保全(写真−3)している。この道路は勾配、幅員などから一般開放はされていないものの、限られた車両が通行するには十分であり、使用目的に応じた柔軟な設計の重要性を痛感した。 |
写真−2高瀬ダム左岸
(高瀬ダムパンフより)
写真−3高瀬ダム天端から望む高瀬渓谷 |
4.高瀬ダムの堆砂リサイクル
高瀬ダム貯水池左岸の濁沢、不動沢の上流には、大規模な崩壊地があり、この影響で高瀬ダムの堆砂は想定の1.7倍のスピードで進行している。写真−4の吊り橋は、ダム建設当初は桁下30mに川が流れていたが、現在は工事車両が通れるように開削している状況である。 |
写真−4高瀬ダムの不動沢堆砂状況 |
平成14年から貯水池容量の減少を防ぐため、堆積土砂の除去を開始している。堆積土砂は陸上掘削が可能で、粗砂から礫程度の粒径であり水も十分切れて扱いやすい状態であり、埋め戻し土などにリサイクルしている。
ダムの堆砂対策は先送りにされている感があるが、その進行にかかわらず、早期に対応することでダムの寿命がより延びることは確かである。既設ダムを有効に、より長く使うための方策を考えていきたい。
5.おわりに
ダム見学は最新の情報を見たいとの希望から、建設中のダムを回ることが多いなかで、今回のコースは、日本有数の既設ダムを一度に見学することができる、若手技術者にも熟練技術者にもそれぞれに有益な機会であった。企画してくださった幹事の方に、この場をかりてお礼申し上げる。
[潟hーコン 渋谷義仁]
|