行事報告
1.見学概要
北海道から九州へ約1,800kmの旅を経て,嘉瀬川ダムに到着した。当初のスケジュールでは初めに所内説明が行われる予定であったが、急遽、ダムサイトに直行することとなった。予想に反してダムサイトは以外と肌寒い。見学は次の順序で行われた。
@右岸ダム天端⇒Aダムサイト濁水処理設備⇒B堤体左岸アバット(ホッパステーション)⇒C堤体右岸上流(原石山・骨材プラント眺望)⇒D貯水池上流横断橋梁
2.堤体コンクリート施工設備
嘉瀬川ダムでは堤高97m、堤体積約965千m3のコンクリートを4年弱で施工するという厳しい工程計画の下、昼夜体制で鋭意施工が進められている。コンクリート打設は今年度から開始され(RCDコンクリートはH19,10月から)、現時点までに全体の約1割弱の施工が完了している。
コンクリート施工設備のレイアウト及び施工上の課題として特筆すべき事項を以下に述べる。
@ 工期短縮・コスト縮減の観点から、コンクリート運搬設備は固定式ケーブルクレーン(4.5m3)に加えてSP-TOMが用いられる計画である(写真-1)。SP-TOMは、見学時には使用されておらず,残念ながら施工状況を見ることが出来なかったが、本体コンクリート運搬設備としての採用は国内初であり、今後有効な運搬・打設設備として位置づけられるであろう。
A 左岸アバット中段に形成された平地を利用してホッパステーションが配置され、坂路を設けてコンク リートが運搬・打設されていた(写真-1)。
ケーブルクレーン索道下にプレキャスト監査廊が配置され、コンクリート打設面上にホッパーを設けることが困難なことから、基礎形状を上手く利用して設備レイアウトが工夫されている。
B 粗骨材の製造設備は、濁水処理費軽減等コスト縮減の観点から乾式とし、細骨材の製造設備は採用事例の多い湿式とされている。また、ベルトコンベアは降雨対策のため、全てカバーが設置されている(写真-2)。乾式プラントで製造された骨材は、表面に微粉が付着するため、コンクリート現場配合を適宜変える必要があるとのことで、乾式プラントの新たな課題を知ることができた。
写真-1 堤体施工状況(右岸ダム天端より)
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3.騒音・振動対策
嘉瀬川ダムではダムサイト右岸直上流に代替地(民家)が存在し、施工時の騒音・振動に対して種々の配慮がなされている。これらの対策について印象的であった事項は以下のとおりである。
@ バッチャープラントは、当初計画において敷地面積の大きな右岸天端に配置する計画であったが、 代替地から近いため、 企業体提案により左岸天端に配置されている(写真-1)。
A 乾式プラントでは粉塵対策が必要となると共に、プラントの騒音拡散抑制のために全ての製造設備に上屋が設けられている(写真-2)。
写真-2 原石山〜骨材製造設備全景(堤体上流右岸展望台より)
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B 原石山の発破は段発とし、振動を抑制すると共に、切羽の向き(面)を極力対岸の民家と正対しないように貯水池上流側に向けて施工されている。 さらに、上記の対策に加えて住民とのきめ細かなコミュニケーションを大切にしていることが非常に重要であると感じた。
4.合理化(高速)施工に向けた取り組み
嘉瀬川ダムでは、 RCDの高速施工に向けて、 現在以下について検討中である。
@【内部コンクリートの先行施工】 一般的には外部コンクリートを先行し、内部RCDを後施工するが、この場合は各層毎(1mリフトの場合は50cm毎)で配合切替えが必要となり、サイクルタイムが長くなる場合があるため、内部RCDを1リフト施工した後に外部コンクリートを施工する。
A【スライド型枠の早期脱型】 コンクリートの積算温度により温度管理を行い、一定温度に到達したら(所定の圧縮強度が得られたと見なして)日数に関係なく早期脱型を図る。
ダム工事における合理化・高速施工は、コスト縮減として重要なテーマであり、我々ダム技術者に課された課題でもある。嘉瀬川ダムの施工検討成果を参考に、今後の業務に役立てたいと思う。
5.おわりに
今回の現地見学は、代替地が近接し周辺地域への配慮が極めて重要となるダムでの施工対応、施工設備レイアウトの工夫を肌で知ることができ、有意義であった。
一方、見学会は時間の都合もあり現地での説明・質疑応答のみであった。参加前の自分の事前準備が少ないこともあり、ダムの地質や設計のポイントに関しては十分な情報が得られなかったことが反省点である。
最後に、当見学会の現場案内・質疑応答への対応をして頂いた国土交通省九州地方整備局嘉瀬川ダム工事事務所、本体・コンクリート骨材製造工事両共同企業体、ならびに見学会を企画して頂いたダム工学会現地見学会小委員会の皆様に対し厚くお礼申上げます。
[日本工営梶@森 貴信]
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