一般社団法人ダム工学会
 
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行事報告

☆ 稲葉ダム見学記 ☆

 

1.はじめに

 「ダム工学会第34回現地見学会」の1日目に見学した稲葉について報告します。当日は熊本空港から直接稲葉ダムへ向かう予定でしたが、移動中のバスの中で「稲葉ダムを見学に来て近くにある「日本で一番美しいダム」を見ないのはもったいない」ということになり、急遽、白水溜池堰堤に立ち寄ることになりましたので併せて報告します。

 当日の見学行程は以下のとおりです。
 11:40_熊本空港発→13:45_白水溜池堰堤見学→14:30_稲葉ダム概要説明(1工区JV事務所)→15:30_現場見学(@展望台〜A左岸アスファルトフェーシング〜B右岸側ダム天端)

2.白水溜池堰堤

 白水溜池堰堤は、かんがい用水供給を目的として昭和13年に一級河川大野川水系大谷川に建設された高さ約14mの全面越流式重力ダム(表面石張)です。白水溜池堰堤は、60年以上も現役で使われている昭和初期の貴重な石造りのダムで、ダムを流れ落ちる水が美しいことから『日本で一番美しいダム』と呼ばれ、平成11年には重要文化財の指定を受けています。ダムの特徴として、左岸側は石を階段状に積み上げ越流水を段々に流下させることで減勢し、右岸側は越流した流水をカーブで方向転換し中央からの越流水に垂直にぶつけることで減勢しています。しかし、堤高が15m未満のため、正式にはダムとみなされていないのが残念でした。 


写真-1 白水溜池堰堤
 

3.稲葉ダム

 3.1稲葉ダムの概要
  稲葉ダムは、洪水調節及び流水の正常な機能の維持を目的として、一級河川大野川水系稲葉川に建設中の堤高56.0m、堤頂長233.5m、堤体積22.3万m3の重力式コンクリートダムです。平成19年度に堤体打設が完了しており、見学当日は表面遮水工と造成アバットメントに設置した計器の計測を行っていました。現時点までの工事進捗状況は、事業費ベースで87%が完了し、平成22年2月の試験湛水開始を目標としています。

 3.2稲葉ダムの技術的特徴

 (1)ダム建設状上の技術的課題
 ダムサイトや貯水池周辺に複雑に分布する第四紀の阿蘇山の火砕流堆積物は、比較的硬い溶結凝灰岩と軟質な軽石凝灰角礫岩(シラス状)を主体とし、溶結度が高いと透水性が高く、溶結度が低いと透水性が低くなる性質を持っています。このため、地盤強度や止水性に対する以下の技術的な課題を抱えていました。
@左右岸アバット部の各火砕流に挟在している軟質なはさみ層は、概ね水平に分布し、コンクリートダムの基礎として期待できない。
Aダムサイト広域にわたり、高透水性の亀裂性岩盤(強溶結凝灰岩)や浸透破壊抵抗性が小さな地質(非溶結凝灰岩やはさみ層)などが分布する。
この課題を克服するため、@左右岸の造成アバットメント工法やA貯水池表面遮水工法などの新技術を導入しており、その概要を以下に示します。


写真2 稲葉ダム全景

 (2)傾斜造成型アバットメント工

左右岸軟質部のはさみ層の上下に堅硬な岩盤が分布する地質的な特徴に着目し、傾斜型造成アバットメント(人工岩盤)を採用することで地盤の安定を図っています。この工法は、国内初の施工事例(鉛直高さH=37.5m×水平長さ44.875m×水平幅8m)ですが、箱型地中連壁やトンネル置換工法に比べ約10億円のコスト縮減と約29ヶ月の工期短縮ができたとのことです。また、温度応力への対応として、造成アバットを上下流方向に3分割して打設し、各ブロック間に設けた1.5mのスロットジョイントに膨張コンクリートで間詰めして一体化を図る工夫もなされていました。

 (3)貯水池表面遮水工

貯水池内の高透水層及び未固結層の分布状況は非常に複雑かつ広範囲にわたっており、精度のよい分布状況把握と通常のカーテングラウチングによる遮水が困難と考えられたため、ダムサイトの水理地質構造に応じた大規模な貯水池表面遮水工法(貯水池内をコア材、アスファルト、コンクリートなどよって覆う)が採用されています。
この工法は、主止水工として一般的なカーテングラウチングを行わず、全国的にも非常に珍しい全面的に貯水池表面を覆うもので、常時満水位までの範囲を全面土質ブランケット工とした当初設計に比べ約26億円のコスト縮減と約3年の工期短縮ができたとのことです。
また、コア材の流出防止を目的として河床部CSGやコクリートフェーシング工の基盤造成を目的として台形形状の鞍部CSGも採用されていました。

5.おわりに

 稲葉ダムでは、強度が低く透水性が高い非常に難しい地質条件の中で、設計施工に様々な新技術を導入し、大変苦労されている様子が伺えました。稲葉ダムの新技術は常に着目しており、一度は見学したいと思っていたので、今回の現場見学は非常に有意義なものとなりました。ただ、工事が約9割終了していたことと、当日の時間の都合上予定されていたコンクリート遮水工、CSG工、原石山などを見学できなかったのが残念です。
 最後に日常業務でお忙しい中、当見学会の現場案内・質疑応答への対応をしていただいた大分県竹田ダム建設事務所、稲葉ダム工事施工者、稲葉ダム表面遮水工施工者、ならびに本見学会を企画していただいた大藪団長をはじめとするダム工学会現地見学会小委員会の皆様に対し厚くお礼申し上げます。

 [潟hーコン 佐藤 英隆]

         
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