一般社団法人ダム工学会
 
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行事報告

☆ 大山ダム見学記 ☆

 

1.はじめに

 大山ダムは、大分県の日田市に位置し、筑後川水系の赤石川に建設されます。筑後川は、熊本、大分、福岡、佐賀の4県にまたがる九州最大の流域を誇る河川であり、筑紫次郎の愛称で親しまれてきました。古くから、かんがい、舟運、発電などにより地域経済に寄与してきたが、一度豪雨に見舞われると数々の水害をもたらしてきたそうです。筑後川流域の年間平均降水量は、約2,050mmであり、その約40%が梅雨期(6月から7月)に集中している特徴があります。筑後川流域の産業については、特に、上流部では杉、檜等の人工林による林業が盛んで、日田市では木材品製造業が発達している地域です。

2.ダム概要

  ダムの目的としては、洪水調節、既得取水の安定化・河川環境の保全、新規利水としている。当ダムの特徴として、下流の堤趾部付近では主として安山岩グループのCL級および自破砕安山岩グループのCL’級が分布している。そのため、ダムの基本形状はミドルサードの条件とHennyのせん断摩擦安全率を共に満足する標準断面形状のうち、下流堤趾の応力負担を小さくする形状としている。


 

3.大山ダムの特徴

  3-1 ダム債との地質及び基礎処理工
 ダムサイトの基盤岩は、主として第三紀鮮新世の410〜310万年前に噴出した釈迦岳火山岩類に属する安山岩と自破砕安山岩であり、高標高部(サーチャージ水位よりはるか上)にはそれを覆って耶馬渓火砕流堆積物が分布している。また、斜面中腹部には阿蘇火砕流堆積物が釈迦岳火山岩類を直接被覆する形で点在している。
基礎処理計画を検討する上で重要となる水理地質構造のポイントとして、次の三点が挙げられる。
@ 安山岩グループは透水性が高く、地下水が層内を流動する恐れがある。自破砕安山岩グループは、風化の影響で高透水箇所が在るものの全般に難透水となっている。
A ダムサイトに分布する安山岩ユニットのうち、貯水池内からダムサイト下流へ連続し、かつ下流でサーチャージ水位以下に分布する安山岩ユニットについては、止水が必要と考えられている。
B 左岸側は尾根方向に地下水位が上昇しているが、右岸側は赤石川の河床レベルからほとんど上昇しない。これは、右岸の山体である烏宿山が難透水性である耶馬渓火砕流堆積物に覆われ雨水の浸透を阻害していることが原因と考えられている。
(1)コンソリデーショングラウチング
遮水性改良目的(堤敷上流端から基礎排水孔までの範囲)のグラウチングは、カーテングラウチングとあいまって厚みのある遮水ゾーンを形成するが、類似地質ダムの事例ではカーテングラウチングの浅部において2Luまでの改良が困難なことが予想されるため、孔の深さを10m(2st)(改良目標値は5Lu)として計画している。施工方法は、カバーコンクリート方式、規定孔の配置として遮水性改良目的は5m格子、堤敷補強目的は7.1m格子とし、断層部は断層を串刺しする施工方法を計画している。
(2)カーテングラウチング
@ダム深度方向
改良目標値は、深度方向に緩和し、深度0〜H/4(H:ダム高)の範囲は2Lu程度、H/4〜H/2相当の範囲は5Lu、H/2以深は10Luとして計画されている。また、ダム下流の地表部に連続する安山岩層では、地山深部で改良目標値に達しない場合、改良範囲としている。
Aリム方向
改良目標値は、深度方向と同様に水平奥行き方向へも緩和している。深度方向は、水平方向にダム高相当範囲まではサーチャージ水位以下を、それ以遠は常時満水位以下を改良範囲として計画している。水平方向の改良範囲は、地下水位または改良目標値以下の地盤との交点までとし、地下水位の低い右岸側では常時満水位と10Lu以下の地盤の上端線との交点までとしている。なお、右岸側のカーテンラインは、右岸下流傾斜である地質状況から施工数量、施工性等を考慮し竹の迫川沿いに設定し、明かり工事にて計画している。

 3-2 原石山
 原石山の基盤岩は、ダムサイトと同様に主として第三紀鮮新世の410〜310万年前に噴出した釈迦岳火山岩類の安山岩ならびに自破砕安山岩により構成されている。原石採取は、切羽の地質状況に応じて骨材原石、廃棄岩の選別採取が容易なベンチカット工法で行う計画である。採取する原石は、最上位のAn5層およびその下位のAn4層から採取し不足する骨材は購入する計画としている。

 3-3 施工機械設備
 大山ダムの施工機械設備は、その配置を含めて請負業者から技術提案された計画になっている。
@ 原石運搬
原石山からの原石運搬については、周辺集落への騒音・粉塵等を軽減するために、新たに原石山から貯水池間に原石運搬道路を設置している。
A 骨材製造設備
原石山で採取した骨材原石は、原石山場内において自走式ジョークラッシャーにて一次破砕を行い、10tダンプトラックにより原石運搬路にて運搬し、骨材製造ヤードの半製品投入ホッパーに投入する。投入された原石は、一次ストック(二次サージパイル)後、ドラムスクラバで洗浄し、シルト、粘土分の除去を行いスクリーンに送られ各製品骨材に分級される。なお、三次スクリーンには、規定篩目5mmの上に10mmの補助篩を設け選別効率を高めている。
B コンクリート製造および運搬設備
骨材プラントからバッチャープラントまでの骨材輸送距離が長く、骨材輸送時の切替・中継ロスを考慮し、調整ビンを設置している。コンクリートは、バッチャープラント(二軸強制練り3.0m3×2基)にて製造し、トランスファーカー(6.0m3×1台、4.5m3×1台)を経て、ケーブルクレーン(固定式14.5t×1条、固定式20t×1条)の打ち込みバケットに供給する計画である。

 3-4 堤体打設工法
 堤体の打設工法は、経済性および施工性、安全性等により拡張レヤー工法(ELCM)を採用している。打設リフトについては、施工設備を効率よく使用し、打設期間中の日当たりの打設量を均等にするため、打設標高によってリフト高を変更する計画である。また、温度応力の緩和と施工性確保のため、コンクリート練混ぜ時にセメントとフライアッシュを別々に計量し、コンクリートミキサで混合している。この方式により、気温の季節的変化に合わせてフライアッシュ混合率を変えることができる。その他に堤内外型枠にプレキャスト工法を導入する計画である。

 見学会では既に特殊基礎処理は完了して、盛立中の堤体を見学した。被圧地下水の湧水や逆ステージ工法の施工を実際に確認はできなかったが、施工中の苦労を聞くことができた。特に逆ステージ工法では、孔壁崩壊及びパッカーの損傷について苦労されたようである。

ダム事業は事業規模が大きく、自然環境等に与える影響も多大なものとなる。大山ダムでの主な環境保全対策を以下に示す。
@ 騒音対策
騒音の影響がある箇所については遮音壁を設置している。また、夜間・早朝における集落内の工事用車両の通行を控えることにより騒音の軽減を図っている。
A 水質対策
 工事期間中の水質保全に関しては、沈砂池および濁水処理設備で対処している。完成後については、水温および富栄養化の問題が発生する恐れがあるため、選択取水設備および曝気装置を計画している。
B 動植物の保全対策
ダム周辺の動植物については、現地調査の結果を基に希少性等を考慮した「重要な種」を選定し、確認地点や生息・生育環境と事業による改変等の区域とを重ね合わせた結果、2種類の動物、11種の植物について、事業の影響が考えられるため、他の生息適地への移殖・移植や食樹などの対策を行っている。また、工事関係者への環境保全に関する意識の向上、知識の習得を目的とした環境学習会の開催も行っている。

 3-6 契約方式
大山ダムの契約方式は、総合評価落札方式が導入されている。従来の方式は、一番安い価格を提示したものが落札するという価格のみの競争だったのに対し、当ダムでは、工事に関する技術提案を求め、その提案が優れている場合には、価格が多少高くても落札者となりうる方式で、民間企業の持つ技術力と価格の双方を総合的に評価する方式である。総合評価落札方式は、技術的工夫の余地が大きい工事であるかどうかで、簡易型、標準型、高度技術提案型に分類される。大山ダムでは、ダムの工法選択(RCD工法、ELCM等)、コンクリート運搬・打設設備等、多種多様の組み合わせがあり、技術的工夫の余地が大きいため、「高度技術提案型」を採用した。


左岸から河床を望む

骨材製造設備全景

4.おわりに
 「第34回ダム工学現地見学会」に参加して一番印象に残ったことは、当地区の比較的新しい(第三期鮮新世)火山岩類に対してのダムの安定性や遮水性(基礎地盤の高透水性ゾーンの改良、右岸リム部の地下水位が低いことに対する対策等)に関して、官・民が一丸となって技術的に工夫をされ計画・施工されていることでした。これからも多種多様な問題が発生すると思いますが、みな様力を合わせて品質の良いダムが無災害で完成されることを祈念いたします。最後になりましたが、今回の見学会を受け入れて頂いた独立行政法人水資源機構大山ダム建設所ならびに熊谷組のみなさんに心からお礼を申しあげます。ありがとうございました。私もダム技術者として研鑽に努め、これからもダム建設に貢献したいと考えます。

 [前田建設工業葛繽B支店 荒瀬ダム(作) 岩田 龍明]

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