一般社団法人ダム工学会
 
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行事報告

☆ 津軽ダム見学記 ☆

 

1.はじめに

 ダム工学会第36回ダム現地見学会の第2日目に見学させていただいた津軽ダムについて報告します。
 津軽ダムは世界遺産白神山地を源流域とする青森県西部の岩木川水系岩木川に建設中の重力式コンクリートダムで、洪水被害の軽減、流水の正常な機能の維持、灌漑用水の補給、上水、工業用水の供給、および発電という6つの目的を持った多目的ダムです。
 津軽ダムは昭和35年に完成した目屋ダム(堤高58m)の直下流60mに、目屋ダムの治水・利水・発電の機能を維持したまま建設するダムです。その規模は、堤高97.2m、堤体積704,000m3、有効貯水容量127,200千m3であり、目屋ダムの有効貯水容量33,000千m3に対して約4倍のスケールを持つダムです。
 既設ダムの直下流での建設であり、目屋ダムからの放流水は半川締切り開水路方式で転流し、左右岸ブロックに堤内仮排水路各1条を設置した後、RCD工法による全面施工を行います。
 ダム建設工事は平成19 年度より開始され、ダム本体コンクリートは平成22年5月より始まりました。当日は左岸側先行でコンクリート打設中の現場を見学させて頂きました。

2.目屋ダムの再開発

 津軽ダムは既設の目屋ダム直下流にあり、洪水調節機能を維持しながらの建設工事ということで様々な施工上の制約を受けます。
 本ダムの特徴の一つに仮排水路の切替回数が多いことがあります。流水機能を維持しながらのダム工事のため、半川締切を基本工法とした4次転流までの切替工が計画されています。見学時は河床の打設が始まったばかりで1次転流の段階でした。当日は左岸側の堤内仮排水路天端部を打設中であり、水路が完成すれば2次転流に移行します。
 津軽ダムの座取りでは、既設の目屋ダムが地質的には最良の位置であることから苦労されたそうです。ダムサイトは河床部が安山岩類、左右岸アバットメント部は火山礫凝灰岩と玄武岩が主体的な地質となっています。弱層部では部分的に置換えコンクリートを施工し堤体の安定を確保しています。
 稼動中のダムに隣接することから、振動・騒音の悪影響に対する監視体制にも気を配られています。掘削工事の約1年前から漏水、揚圧力、継目など5項目に関してモニタリングを継続し目屋ダムへの影響を監視しています。


写真-1 津軽ダム全景
 

写真-2 目屋ダム天端からの見学


3.技術提案

 津軽ダムの入札契約では、高度技術提案型総合評価落札方式が採用されました。契約まで労力がかかった割には目を見張るような提案はなかったとのお話しがありました。というのも、ダム工事は施主と請負者が共同で技術開発してきたという経緯があり、コンクリート打設工法など基本工法での技術変更提案が請負者側だけでは生まれにくいといった背景があります。一方で、仮設備については、最近の傾向で「官持ちから民持ちへ」という流れがあり、技術提案は仮設備に関するものが多くあったとのことです。来年からのRCD工法に備えて15.5t固定式ケーブルクレーンを2系列設置する計画ですが、今年度だけ異なるサービスエリアのケーブルクレーンを設置したのも工期短縮のための技術提案の一つです。



写真-3 工事中の津軽ダム(後方は目屋ダム)


4.環境への配慮

 完成後のダムの環境対策としては、選択取水設備の設置により、温水放流を軽減するお話しがありました。また、ダム湖の濁水対策として細かい粒子による濁水の長期化を防ぐためにコンジットゲートによる濁水放流調整について詳しくご説明いただきました。
 施工中の環境対策としては、津軽ダム工事現場の周辺には民家が多くあることから騒音、振動の発生には非常に気を配っている様子でした。具体的には4mの防音壁による騒音対策があります。また、現場からの出入口には自動洗車設備を設置し現場内の土や泥を一般道に残さないように気を配られています。

5.地域住民との関係

 岩木川は堤防断面が不足している暫定堤防区間が35%、無堤防区間が15%となっており、洪水に関しては昭和52年8月洪水をはじめ戦後で9回の大被害が発生しました。一方で、1〜2年に1回の頻度で水不足に悩まされています。津軽ダムは下流域の利水・治水両面で重要な役割を期待されており、町を挙げて早期完成に対する要望が高まっているとのことでした。
 地元への経済効果についても熱心に取組まれており、地元に57.5%程度還元されているとのことでした。
 津軽ダムは地元住民との関係を非常に大事にしており、何回実施しているか即答できないほど緊密に意見交換をされているとのことでした。ダムに反対している地元の人はいないというお話を伺いました。ダム工事に対する逆風が強い中、今後のダム建設工事のあり方を考える上で、大事な事だと痛感しました。
 ダムが完成した時のために箱物ではない、津軽ダム近辺ならではの名物(例えば地元産の焼酎)を発展させることを応援するというお話しも印象的でした。



写真-4 西目屋村役場


6.質疑応答

 今年度の打設を当初計画のRCD工法ではなく拡張レヤ工法で行っていることについて質問がありました。これは、現状では左岸側の狭いエリアしか打設場がないため、23年度以降面的に拡張した段階でRCD工法に変更するとのことです。また、嘉瀬川ダムなどで採用されている巡航RCD工法にも挑戦していきたいとのお話しがありました。
 原石山の骨材はモンモリロナイトを一部含有しているためX線回析分析により含有量を10%以下に管理しています。新しい取り組みとして、凝結時間を確認しながら15%まで拡張して原石有効利用につなげたいとのことでした。

7.おわりに

 最後になりましたが、定礎式を控え大変お忙しい中、貴重な時間を割いて本見学会の案内、説明、および質疑応答に対応していただいた谷田所長、腰山課長初め津軽ダム工事事務所の皆様、志賀所長、柏木副所長初め間・西松共同企業体の皆様に感謝申し上げるとともに、見学会開催にご尽力いただいた社団法人日本大ダム会議、ダム工学会の関係各位に御礼申し上げます。

 [椛蝸ム組 太田 親]

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