行事報告
1.はじめに
「ダム工学会第37回ダム見学会」では、韓国で建設が進められている漢灘江(ハンタンガン)ダムの建設現場を見学してきました。
見学会では、現地にて本ダム事業の概要や工事の進捗状況などの説明を受け、ダム本体の施工箇所を見学し、質疑応答を行いました。
本稿は、見学会で受けた説明などについて報告するものです。
2.漢灘江ダムの概要
漢灘江ダム(以下、「本ダム」という)は、北朝鮮を起源とする漢江(ハンガン)水系臨津江(イムジンガン)支川漢灘江に建設中の重力式コンクリートダムです。
本ダムは治水(洪水調節)を目的とした流水型ダムで、堤体低部に生態通路水門(4門)、排砂管(2門)、常用洪水吐き(2門)、堤体上部に非常用洪水吐き(5門)が設置されます。通常時は生態通路水門と排砂管から河川水を通過させて自然河川の状態を維持し、洪水時は常用洪水吐で放流量を調整しながら、洪水を貯留します。
当初、本ダムは多目的として計画されていましたが、上流域の環境保護活動、地方自治体などの強い反対で、洪水調節だけの目的に変更された経緯があります。
ダムの諸元を表−1に示します。
表−1 漢灘江ダムの諸元
図-2 復元事業工程図
(下流より撮影:奥に見えるスリットが入った構造物は
上流仮締切工、右の坑口は仮排水路出口)
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3.韓国で初めて
@ 韓国で初めての治水専用ダム
本ダムは韓国初の治水専用ダムです。計画、設計にあたっては、日本の立野ダム(九州地方整備局)、益田川ダム(島根県)を参考にしています。
A 韓国で初めてのRCD工法
堤体積742千m3のうち、320千m3を韓国初のRCD工法で施工します。
RCD工法で施工するにあたっては、日本の専門家の招請、夕張シューパロダムでの現場研修、(独)水資源開発機構からの技術支援など、技術の習得に努めています。
B 韓国で初めての高圧ラジアルゲート
日本の治水専用ダム(流水型ダム)にゲートは設置されていませんが、本ダムの堤体低部に設置される常用洪水吐きには、放流量を調節するゲートが設置されます。このゲートは韓国初の高圧ラジアルゲートで、日本の高圧水門に関する専門技術を取り入れて設計されています。
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4.工事の進捗状況
本ダムの工期は2006年から2012年です。
既に付替え道路・橋梁工事、仮排水路トンネル(全長530m、直径8m、対象流量780m3/s)、バッチャープラント、骨材破砕設備などは完成しています。
ダム本体の工事は2007年3月に着手しており、堤体打設の進捗は2010年で17.9%、今年で35%を予定しています。なお、RCD工法による施工は今年の4月から始まっています。
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写真-2 コンクリートの打設状況
(左岸より撮影:手前が左岸側、奥が右岸側)
写真-3 右岸側コンクリートの打設状況
(右岸下流より撮影)
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5.空き地の活用
本ダムの建設にともなう水没面積は約14.8km2になります。
本ダムは流水型ダムのため、通常時は水没面積のうち約90%が空き地になり、田畑、運動場やゴルフ場として活用することを考えています。 |
6.おわりに
今回の現地見学会では、日本の技術が随所に活用され、かつ北朝鮮との国境線に近いという地域特性があるダム建設現場の状況を見ることができ、貴重な体験をさせて頂きました。
また、韓国も環境負荷に配慮した開発が強く求められていることは、日本と同じであると感じました。
最後になりましたが、非常にお忙しい中、貴重な時間を割いて本見学会の案内、説明、および質疑応答に対応して頂いたK water 鄭部長ならびに職員の皆様に、また、見学会を企画・開催して頂いたダム工学現地見学会小委員会の皆様に、厚く御礼申し上げます。 |
[滑J発設計コンサルタント 平野 靖]
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