一般社団法人ダム工学会
 
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会長挨拶

 

令和6年度
一般社団法人ダム工学会 会長

角 哲也 (すみ てつや)

京都大学防災研究所 水資源環境研究センター 産学共同研究部門 ダム再生・流砂環境再生技術  研究領域 特定教授


会長あいさつ

この度、川崎前会長の後を受けてダム工学会の第29代会長に選任されました。誠に光栄であると同時に、重責を感じております。
川崎前会長におかれましては、現下のダムの変化する環境に対して、その役割を高めるためにダム工学会が果たす役割について強力なリーダーシップを発揮していただきまして誠に有難うございました。
後を引き継ぎました私としてもこの流れをしっかり受け止めて、さらに発展させるべく微力ながら尽力して参りたいと思います。

この機会にダム工学会の取り組むべき3つの方向性をお示しできればと思います。

1つ目は、学会の活性化です。 現在、日本にはダムに関する各種団体がありますが、何といっても、ダム工学会の重要な点は学術団体であるということです。
例えば、大学で博士の学位を取得する際に、査読付き論文が3本以上必要になり、一定の基準を満たす論文のリストアップを行っています。
 一方で、ダム工学への論文投稿が非常に低調なのが大変気がかりです。 その活性化のために、どのような方策があるか、編集委員長の溝渕副会長とも連携しながらしっかり取り組んでいきたいと思います。
小長井会長の時代には、英文論文の掲載など新しい試みも積極的に模索されましたが、やはり十分とは言えない状況です。
今回、大学関係者の理事、評議員の拡充、また、以前から進めてきました大学学生の若手会員の参加促進などがありますが、さらなる活性化のための取り組みを進める必要があると思います。
これは、一定の会員数を維持していくためにも重要なことと認識されます。 その方策として、他学会、例えば、私の研究分野でいえば、土木学会、応用生態工学会、自然災害学会、水文・水資源学会などとの合同WGやWSの企画・開催なども挙げられると思います。
 幸い、ダムに対する世の中の関心は高く、特別講演における九州大学の矢野真一郎先生の話題提供のように、異常豪雨時のダムの操作に関する検討などは、土木学会の水工学講演会や河川技術シンポジウムなどでも多く取り上げられています。
特に、気候変動の影響評価に関する研究は大変盛んで、d4PDFと言って、気候変動影響の大規模なアンサンブル予測データセットが全国5kmメッシュで既に準備されていたり、150年間の連続予測データがあったりして、今後、全国の様々なダム流域で起こり得る洪水や渇水のリスク評価が、詳細かつ確率的に実施できるようになってきています。 このような熱い議論や論文が、なかなかダム工学会の中で展開されていないのは誠に残念なところで、是非、取り組んでいければと思います。

  気象予測を活用したダムの運用高度化も大きなテーマです。
その鍵を握るのが「アンサンブル予測」と言われるもので、不確実性がある降雨予測情報を確率的に評価して、治水や利水の異なるベクトルに対してWIN-WINのアウトプットを科学的に提示していくものです。
昨年3月末まで実施してきた内閣府のSIP第2期では、予測情報を用いて早期の事前放流をスタートできる道筋を示しました。昨年度からは、新たにBridgeやSIP第3期の取り組みがスタートしています。
Bridgeでは、事前放流に加えて、しばらく洪水が予測されない場合の弾力的管理や洪水後の水位低下のステージなどで、より有効に貯留水を活用して水力発電の増強に貢献させる取り組みを進めています。
また、SIP第3期の「スマート防災ネットワーク」では、多目的ダムや発電ダムに加えて、農業用ダムの事前放流操作や下流の水門や排水機場の操作など、予測情報を活用した流域治水の強化方策についても検討を進めています。 このような成果もダム工学会の中で共有するとともに、今後の活かし方について大いに議論できればと思います。

  また、門松会長の時代に、ダム堆砂対策に関する特別委員会が組織され、「ダム堆砂対策の促進」に向けて提言がとりまとめられました。全体を通じた方向性は、「迫られて、怒られながらやる土砂管理」から、「期待されて、喜ばれる、元気の出る土砂管理」へのパラダイムシフトでした。 堆砂対策に関しては、同じくSIP第3期の「スマートインフラマネジメント」では、堆砂対策のDXについてユニークな取組が進められつつあります。
また、堆砂対策の観点からは、他学会との連携、例えば、応用生態工学会とのジョイントWSなどは大いに期待されるところです。
昨年9月に京都で応用生態工学会の大会を実行委員長としてホストさせていただきましたが、その際の公開シンポジウムは「森川里海をつなぐ「砂の道」〜総合的な流域管理に向けて〜」でした。
ここでは、「流域治水」と「流砂系の総合土砂管理」をどのように一体的に進めるか、そのための、工学と生態学の連携はどうあるべきかなどを議論させていただきました。
今後、ダムからの土砂をどのように出していくのか、そのための「通砂」の概念の一般化が求められるところですが、そのための方法論、特に、施設改造やダムの運用改善をいかに実現させるか、ここでもダム工学会の役割は非常に大きいと思います。


 2つ目は、国際的な連携です。私は、現在、国際大ダム会議(ICOLD)のアジア地区選出の副総裁に選任していただいております。その関係で、4月にシアトルで開催された米国のダム工学会(USSD)の大会に参加させていただきました。
USSDは、日本でいうところの日本大ダム会議(JCOLD)と同等のNational Committeeと位置付けられていますが、母体は日本のダム工学会と同じで、約900名が参加する大きな全国大会でした。
会長は女性で、若手の参加者も多く、企業展示のブースも数多く並び、さながらミニICOLDといった感じでした。米国は大きな国で、陸軍工兵隊や内務省開拓局、電力会社、また、お隣のカナダからの参加者も多く、非常に活発に活動しているのが印象的でした。
テーマは、ダムの安全性、ダムの建設と再生、地震対策、環境問題、ダムの撤去問題などに加えて、住民に対するリスクコミュニケーションなども話題に含まれており、2017年のオロビルダムの事故などが大きな契機になっているものと思います。FEMA(連邦緊急事態管理庁)も展示ブースを出していました。
日本では、災害情報学会などがありますが、こういった分野との連携も進める必要があるのではと強く感じた次第です。
ここからは提案ですが、JCOLDと連携しながら、USSDの活動をレビューするとともに、ジョイントWSを企画するなども検討できればと思います。
USSDでは、定期的にオンライン講座であるWebinarを企画し、学会会員や大会参加者にサービスとして情報提供を行っているようです。
早速私のところにも情報が届くようになりました。
ダム工学会はニュースレターを配信していただいていますが、特別講演会や講習会、また、若手の研修会などに加えて、場合によって日本語と英語をミックスしたようなWebinarを企画して国内外に発信するのもいいように思います。

 京都大学がホストなって、「日本-ASEAN科学技術イノベーション拠点(JASTIP)」事業を進めてきておりまして、私はその中の防災分野のグループ代表も担当しています。その成果として、ベトナムのメコン川の課題や、フィリピンのダム流域の洪水や土砂管理の検討を進めてきています。
今年は、日本とアセアンが友好50周年を迎えて、連携を強化する取り組みが予定されています。
また、中近東や北アフリカに目を転じれば、昨年発生したリビアのダムの決壊事故など、気候変動による影響は我々の想像をはるかに超える速さで脅威をもたらしてきています。
これまで、乾燥-半乾燥地のワジのフラッシュフラッドに関する研究協力も進めてきましたが、このような極端洪水が発生した場合のダムの安全性の課題が非常に大きいのが現状です。
これに対しては、日本が得意とするCSGダム技術やダム再生の技術、堆砂対策の技術などを、ASEAN諸国や中近東・北アフリカ諸国などを含めて定期的に発信していくのも重要かつ有効な日本からの貢献になるのではないかと思います。


 3つ目は、社会に対する情報発信です。この3年ほど、ダム貯水池課題研究部会の中に「大規模洪水対策WG」を立ち上げて、例えば、ダムの事前放流のあり方や、ダム操作に関する情報発信のあり方などを議論し、提言としてとりまとめさせていただきました。
また、関連した活動として、ダムの洪水管理と土砂管理の2本の動画を作成したり、これをベースにして、マスコミとの懇談会も企画させていただいたりしてきました。
動画の方は日本学術会議の動画コンテンツにも登録させていただき、社会に対する情報発信にも貢献できたのではないかと考えています。

 ICOLDからのメッセージとしては、①ダムの持続可能性を高めること、②必要な新規ダムの建設やダムの再生事業の必要性をしっかり提案していくこと、③ダムの安全性のみならず重要インフラとしての社会からの支持を獲得していくこと、が重要であると、フランス人のLINO総裁が強調されています。
持続可能性は、構造物としての長寿命化に加えて、堆砂対策などの環境対策なども重要です。ダムの必要性の訴えと合わせて、社会からの支持を得られるべく、ダム工学会としても一層の情報発信を進めていきたいと思います。
 なお、ダム工学会の大変ユニークな取組としてWDNが挙げられます。私も長らく、中部・近畿のメンバーと一緒に活動を進め、「ダムの科学」の本の出版なども行ってきました。この蓄積は大変貴重なもので、他国には類を見ないものです。この流れを大切にし、その上で、学生を含めた若手ダム技術者の参加や、社会の支持にもつながるような活動に繋げていくことが重要ではないかと思います。


 以上、3点の方向性をお話しましたが、これらの実現には、学会員の皆様のご協力無くては成し遂げることはできません。
これから副会長や理事会、評議員会、各委員会のメンバー、学会事務局の皆さんとも議論させていただいて、ダム工学会の発展につながるように尽力して参りたいと思いますので、皆様のご支援、ご協力のほどよろしくお願い申しあげます。


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