会長挨拶
|
|
|
|
ダム工学会
会長
杉野 健一
(すぎの けんいち)
八千代エンジニヤリング株式会社
取締役会長
|
「ダム工学会の活動について」
この度,第15代のダム工学会会長に推挙されました。設立から18年目を迎える伝統ある工学会の会長でありますから,その責任の重大さを痛感いたしております。
従来からダム工学は総合工学と呼ばれてきたように,関連する各学問分野の総合技術として研究が進められ発展してまいりました。そして,ダム工学が直面する多様化した課題解決のために,ダム工学研究を取り扱う共通の場としてダム工学会が設立されました。したがいまして,会員は学校,官庁,独立行政法人,地方公共団体,学会協会および公益法人,電力,建設業,コンサルタント業,鉄鋼業,機械等極めて広い分野に亘っています。また,見方を変えると,学,官,民とダム事業に取り組む立場が異なる会員の集合体であり,まさに総合工学にふさわしい組織体制となっております。
近年,ダムは無駄な公共事業のシンボルとして社会の批判を受けてまいりましたが,異常気象に伴う慢性的水不足や局地的集中豪雨等の発生で,再びダムの価値が見直されつつあります。災害防止,用水確保,環境負荷の少ないエネルギー供給など従来の目的の他に,ダム固有の特性を生かして地域に貢献できるような付加価値の高いダム事業の推進が望まれてきています。しかしながら,事業主体の財政状況悪化,環境やコストに対する国民意識の向上等の社会情勢の急激な変化を背景に,ダム事業もその形態を大きく変化せざるを得なくなりました。事業コストの縮減に加え自然環境や社会環境への配慮が,これまで以上に厳しく求められています。
また,現在,ダムが直面する課題は,ダム事業の適切な評価方法や気象変動がダム計画の安全性に与える影響等のダム計画段階の課題から,水質保全,環境保全,堆砂除去等の貯水池の機能維持およびダム操作規則の再検討等のダム管理段階の課題まで,極めて広範囲に亘っています。さらに,新規ダムの建設が困難になっている現状を考えると,貯水効率に優れた既設ダムの再開発や貯水池群連携等の既設ダム有効活用事業の推進に関する課題も重要な課題であります。いずれも,社会情勢や自然・社会環境の急激な変化に伴って生じてきた課題であります。
ダム工学会は,発足以来ダム技術に関する学際的で総合的な研究,新技術の開発等の研究を進めてまいりましたが,前述したようにダム工学が直面する課題が多様化し複雑化してきている現状を考えると,これに対応するにはこれまでダムの建設技術に重点が置かれていたダム工学会の活動領域を拡大していくことが必要であります。ダムの課題を長期的視点に立って具体的に整理し,「学,官,民で組織されているダム工学会の特性を生かして取り組むべき研究課題」を定めると共に,解決に向けて研究成果を挙げていくことが,これからのダム工学会の活動に必要ではないかと考えております。
わが国のダムを巡る情勢は今後も厳しいものと考えられますが,ダムの果たす役割は少しも変わっておりません。また,世界に目を向ければ地球温暖化に伴う気象変動の影響により水問題が顕在化し,ダムに対する期待はますます高まるものと思われます。
このような状況の中で,「日本のダム技術を高め確実に伝承し,それを速やかに社会に還元する」ダム工学会の役割は極めて重要であり,そのために活動をさらに活性化していく必要があるものと考えております。
私は,これまで行われてきた施策を継承すると共に,ダム工学会発足の趣旨を尊重して学会の運営に取り組む所存でありますので,会員の皆様のご指導,ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。
■歴代会長挨拶
|