一般社団法人ダム工学会
 
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会長挨拶

 

令和2〜3年度
一般社団法人ダム工学会 会長


小長井 一男
(こながい かずお)

東京大学名誉教授


会長あいさつ

第26代ダム工学会会長に選任されました小長井です。身に余る光栄と存じますと共に、門松前会長が強い熱意と卓抜したバランス感覚で牽引してこられた学会の活動を継承し、さらに発展させていくことの責務の大きさに身の引き締まる思いがします。

 折しもコロナ禍です。対面での学会活動が困難な中、どのように、ダム工学の発展を目指していくかが問われているように思います。そのような中で、1991年から年4回の発行を続けてきた機関紙「ダム工学」の発行回数が、今年度から年2回に減ってしまったことを冒頭でご報告申し上げるのは残念で心苦しく存じます。

 長引く在宅の中で,これまでに関わった47地震の180回ほどの地震被害調査の写真を整理しようと思い立ちました。ディジタルカメラやスマホで撮影した画像には、撮影場所の緯度経度、撮影時刻などが自動記録されますが、昔の写真はそうはいきません。まだ3,000〜4,000枚に及ぶ膨大なネガとプリントの山が手つかずですが、グーグルマップのストリートビューの登場で、あらゆる地域の路地裏まで踏み込めるようになって、なんとかこれまで1,000枚ほどの写真の撮影場所の特定ができました。

 ロサンジェルスの上水用ダム群(バン・ノーマン・コンプレックス)のサンフェルナンド下ダムは1971年のサンフェルナンド地震で上流側斜面が貯水池に滑り込み、首の皮一枚で決壊を免れたこともあって、1994年のノースリッジ地震でのダム群の挙動が気になり、その調査に参加しました。その時の70枚程の写真の撮影場所の特定が大変でした。この一連のダム施設群には一般公道がなくストリートビューで立ち入ることはできない上に、1994年当時の衛星写真の解像度は決して満足できるものではなかったのです。役に立ったのは、当時現地を案内してくれたロサンジェルス市水道電力局のクレーグ・ディビス氏の論文でした。それぞれのダムの詳細な亀裂マップが描かれていて、写真に写り込んでいた亀裂と合致するものを探し出し、ほぼすべての写真の撮影場所の特定を進めることができました。

 ダムの亀裂マップと言えば1999年の台湾集集地震を思い出します。この地震では石岡ダムを横切って高低差10mを超える地震断層が現れました。この時の私どもの調査に同行いただいた杉村淑人氏(当時ダム技術センター)が、台湾水資源處中区水資源局の除國志氏とともに、ひび割れたダム堤体上を踏査され、1:200の縮尺の「石岡ダムピアおよび堤体クラックマップ」をまとめられました。長さ357mのダムを1/200のスケールで描いた折り畳まれたマップを広げると、長さ1.9m 高さ0.9mにも及び、そこに朱で描かれた亀裂群は圧倒的な迫力で破壊の凄まじさを訴えるものでした。クラックは地盤の動きを反映したダムのひずみゲージです。そして現在の画像データ処理技術は、昔の写真から3次元の情報を再現することすら可能にしています。ダムのように世代を超えて活用されていく施設では、詳細な過去の記録が、その後の維持管理やさらなる活用に大きく役に立つのだと思います。しかしながら今に伝わる膨大な報道写真や、いや学術的な報告書ですら、写真の撮影個所を正確に明示しているものは極めて少ないのです。そして人は忘れていきます。私なぞ自分が撮影した写真ですら思い出せないのです。

 昨年は台風19号、一昨年は西日本豪雨、そして、本年7月4日からは九州地方、その後、岐阜・長野県の豪雨禍が連続し、このご挨拶を執筆している7月8日時点で、熊本県を中心に死者59人、心肺停止の方が4人、行方不明者は16人に及んでいます。豪雨は継続していて、まだ被害の全容は把握できていません。ダムによる洪水調節のさらなる重要性を思わざるを得ないのです。これらの豪雨の警報に“過去に例を見ない”という形容詞が使われるようになりました。しかし、果たしてこれらが、本当に古今未曽有の出来事なのでしょうか?物忘れのひどい私でも、6歳の頃、狩野川台風が接近する中、両親が釘で打ち付けた雨戸が外れないよう、ずぶぬれになって格闘していた時の怖さを忘れることはできません。昨年の台風19号は、この狩野川台風の再来だと考える方もいます。長いこと起こらなかったことが起こるのです。ダムに関わる技術者は間違いなく多くの得難い経験をされているはずです。ダムという寿命の長い社会基盤施設を資産として引き継ぎ、さらに積極的に活用していく若手技術者にとって、先人が経験した様々な出来事は、得難く貴重な教材だと思うのです。

 ダム工学会は本年、30周年を迎えます。これまでの調査研究活動、出版活動、With Dam★Night、若手の会、地域活動などの活性化関連活動などに加え30周年記念講演を実施し、今後の学会活動の展望を会員の皆様と語り合っていければと考えております。それには経験豊かな皆様の知恵と貢献、若手の方々の積極的な参加が欠かせません。なにとぞ、本会のますますの発展に向け、ご協力のほどお願い申し上げます。

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